ゴエモンのつぶやき

日頃思ったこと、世の中の矛盾を語ろう(*^_^*)

テレビが描くニュージーランドの障害者像(1)

2008年09月15日 21時34分05秒 | 障害者の自立
日本人観光客に人気の、緑豊かな南半球の国、ニュージーランドでは『Attitude TV(アティトゥード・テレビ)』という番組が放送されている。日本語にすると『わたしの生き方テレビ』というほどの意味だろうか。毎週日曜日、午前9時30分から約30分間、障害を持つさまざまなニュージーランド人の生活を紹介する番組である。「障害」をテーマに扱うテレビ番組にしばし見られるような、ドラマ性や啓発臭はなく、日々の暮らしの断片を切り取って、楽しい情報番組に仕立てている。
この番組の製作スタッフのひとりであり、キャスターを務めるカーティス・パルマーは、現在北京に滞在している。彼はウィルチェアーラグビーのニュージーランド代表でもあるのだ。全国放送の番組司会者でもあり、パラリンピックの選手でもある彼に、障害のある者とない者とが共に制作する障害者の番組『Attitude TV』は、ニュージーランドでどのような役割を果たしてきたのか。その立役者であるパルマーに話を聞いた。ウィルチェアーラグビーの試合を2日後に控えたパルマーは、ゲームへの最終調整の最中にも関わらず、快くインタビューに応じてくれた。

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障害のある人とない人が共に作る、障害者の番組
ーー『Attitude TV』とは、ニュージーランドの障害のある人たちのさまざまな暮らしの断面を紹介する番組ということですが、具体的にどのような内容なのでしょうか。

「始まったのは2005年ですから、ちょうど丸4年くらいやっていることになりますね。私はこの番組のスタートから司会をやっています。30分(正確には29分ですが)の番組で、毎回3本のエピソードを紹介しています。
この番組は、障害のある人の暮らし”ライフスタイルを伝える、テレビマガジン”と位置づけています。障害のある人について知り、障害のある人にとっても、何らかのインスピレーションを提供するような内容を目指しています」

-ーなるほど、障害のある人もない人も、それぞれが楽しめて、何かを学ぶことが出来るというわけですね。視聴者を想定するにあたり、どちらかに主眼を置いて番組を作っているのでしょうか。

「どちらかを優先している、ということはありません。障害がある人かそうではない人か、ことは単純に分けられるものではなく、人は常に混ざり合って生きているのですから。
そして、障害を持った人たちが自分たちを前向きに捉えられるよう、さりげない言葉の使い方に気をつけています。例えば、『脳卒中に苦しむ(suffer)人』ではなく、『脳卒中から回復しようとしている(survive)人』と表現するとかですね。上からの配慮で、言葉の使い方にはデリケートになるべし、という考え方ではなく、今まさに、私たちはそうした人たちと共に生きているんですから。優先しているとしたら、その点ですよ。ものごとを前向きにとらえる言葉の使い方をすることですね」

-ーこの番組は、車いすのあなたがキャスターとしてテレビに登場します。あなたの他にも、障害のある人が番組作りに関わっているのでしょうか。

「一緒にやっていく、一緒に生きているということが、この番組の一貫したポリシーです。特にに意識はしていませんが、この番組を作るチームも同じです。私も司会として番組に姿を見せるだけではなく、企画や制作にも携わっています。
この番組スタッフは、私を入れて11人いるのですが、そのうち5人は、何らかの障害があります。たとえばあそこにいる彼は(近くで談笑している同僚の男性を指して)、小児まひで、車いすを使っています。肢体不自由の人が多いですね」

-ーより多様な障害のある人を、スタッフに迎える予定はあるのですか?

「今現在、聴覚障害や視覚障害を持つスタッフはいません。障害者だからという点だけでスタッフを採用するのではなく、番組を制作するにあたっての能力が重要です。その結果、現在のところ、たまたま肢体不自由の障害者が多かったといえると思います。また、企画委員会やアドバイザーなどは置いてはいません。基本的に自分たちで情報を収集して、企画を立てています」

テレビ番組のインパクト
-ーこの番組はスタートして4年になるわけですが、その間に、障害を持つ人たちに対する、ニュージーランドの人たちの見方は変わったと思いますか? この番組が、何らかのインパクトをもたらしたでしょうか?

「私たちは、この番組を見ている人たちが”気づく”手助けをしているに過ぎないと思っています。障害を持つ人たちも、自分たちと同じように日々の暮らしを営み、泣いたり笑ったりしている人間なのだと。普段障害のある人と接する機会の少ない人は、そのことになかなか気づけないでいるのかもしれません。ですから、この番組は、その無意識の壁を崩す、扉を開くような作りにしたいと思って企画しています。

社会の変化ということで言えば、近年、ニュージーランドの障害者雇用率が少しずつ上がっています。障害者ということで、一緒に仕事をすることを敬遠していた人たちが、番組でさまざまな障害者の日常生活を見て、知ることで、変わってきたのかもしれません。社会は急激には変わりません。『Attitude TV』も、ひとつのテレビ番組ではありますが、そうしたインパクトを静かに与えているのではないかと思います。

パラリンピックは、そうした見方を後押しする、とてもいい機会だと思いますよ。もっとも、4年に1回しかないのが残念ですけれどね。

-ーニュージーランドは、充実した社会福祉の制度や、多文化共生の浸透などの様子から、障害を持つ人たちに対する偏見や障壁が少ない国という印象が、私個人にはあります。それでも、テレビという媒体を通して、障害者についてのメッセージを伝える切実さというものがあるのでしょうか。

「そうでしょうか。ニュージーランドは、まだまだ遅れているところがたくさんあります。先の雇用についてなど、そうですよ。敬遠するという感情はしばし、事実を知らないことによって起きるものですから。やはり、より多くの人に知ってもらう必要があると思いますね。
同じ英語圏でも、アメリカやイギリス、オーストラリアでは、全国区で名を知られた障害者スポーツの選手や俳優がいます。ニュージーランドの場合は、まだまだそうではありません。障害者の有名人は、障害者のコミュニティの中だけで有名なのです。その枠を越えて、障害者の姿がより広く知られるような、ロール・モデルとでも言うべき人が必要だと思います」

(2)へ続く


テレビが描くニュージーランドの障害者像(2)

2008年09月15日 21時32分38秒 | 障害者の自立
テレビを通して障害者の姿を伝えるということ
-ーロール・モデル(お手本)という言葉は、この番組のキーワードだと思います。テレビが障害者を扱うとき、そのすぐれた面だけを強調したり、同情を誘うような作りになりがちです。『Attitude TV』は、そうした安易な落としどころに傾かないバランスがあるように思います。
少々意地の悪い質問かもしれないですけれども、ロール・モデルというからには、あまりにもユニークな人は扱えないという制限もあるのではないでしょうか。不特定多数の人が見るテレビという媒体であるがゆえに、無難な人選になってしまうということはないのでしょうか。

「初期に受けた批判の中に、優れた能力を持った、まるでスーパーマンのような障害者のことばかり扱っているという指摘がありました。それから、少し方向性を変えて、普通の暮らしを営んでいる普通の人たち……農家の人とか、ティーンエイジャーであるとかを、扱うようになった傾向はありますね。番組に登場する障害のタイプについても、常にチェックをして、バランスよく扱うようにしています」

-ー「障害者のよい面だけを取り上げている」という声は、障害者をテーマにした番組に、しばし寄せられる批判のひとつと言えそうですね。

「けれども、障害者の前向きな面を見せることは、悪いことではないはずです。障害と共に生きることは、もちろん、困難が伴います。私たちはそれがいかに大変なことかということも、隠さずに伝えているつもりです。
障害のある人からも『これはリアリティを伝えていない』というクレームがくることもあります。けれども、4年もやっていると、それだけ多くの人を番組で紹介することが出来るので、より多様なあり方があるということも伝わっていると思います。
私たちの仕事は完璧ではありませんし、清廉潔癖な内容を目指しているわけではありません。番組に対する批判も、いつでも受け付けていますよ」

-ー約30分の番組で、3本のエピソードが流れますね。大体1本が5〜7分くらいかと思いますが、ひとりの人を紹介するには、ちょっと短すぎると思うことはありませんか。

「そうですね、この人のこういうところをもっと伝えたいと思うこともありますよ。でも、1人の人のことを、1回だけで終わらせないで、卒業・結婚など、何らかの節目の時にもう一度登場してもらうなど、いろいろと工夫はしています。1回の放送を、すべて同じ人のエピソードにするなど、独立した短編を3本という形式には、必ずしもこだわらないようにしています」

-ー放送時間は日曜日の朝ということですが、この時間帯は、より多くの人に見てもらうためには、ちょっと不利だと思うことはありますか? たとえば、平日の夜9時の放送だったら、より多くの人に見てもらえるのに、と思うことはないでしょうか。

「放送時間は、当初から変わっていません。4年もやっていると定着します。この時間にはこの番組をやっているな、ウェブサイトもあって、アクセスするといつでも見られるようになっているんだなということが浸透してきていると思います。この番組はいつでもここにいるんだ、という安心感につながっていると思います。たとえゴールデンアワーの放送ではなくても、私たちはやるべきことをやるのみです」

より多くの人に届くために
―ー視聴者の感想は、どのような形で受け取っていますか。

「メール、電話、ファックス、ホームページ上のオンラインフォームで受け付けています。感想の量については、やや物足りない感はありますね。ニュージーランド人っていうのは、少しシャイなんだと思いますよ。
感想はおおむね好評です。家族に障害者がいるという人たちからは、励まされた、大変なのは自分ひとりだと思っていたけれど、そうではないんだと分かったという声もあります。感想を番組の中で紹介したり、視聴者参加型企画の形式はとっていませんが、感想も批判も、いつでも歓迎です」

-ー私がこの番組のことを知ったのは、インターネットの動画サイト、『YouTube』です。おかげで日本に居ながらにして、放送後それほど時間が経っていない、地球の反対側の番組を見られるんですから、ありがたいことです。

「『YouTube』のアクセス解析では、アメリカ、そしてドイツからのアクセスが多いことが分かっています。国境を越えて番組が届くというのは、インターネットというのは便利ですよね。地上波でも、視聴率は安定していて、常に6〜8万人が見ている計算です(筆者注:ニュージーランドの人口は現在約400万人)」

-ー番組をより多くの人に開いていくために、どのような工夫をしていますか。特に、コミュニケーション上の障害を持つ人たちには。

「番組には聴覚障害のある人を想定して、字幕をつけています。けれども、予算上の問題で、手話通訳や視覚障害者向けの音声ガイドはついていません。申し訳ないのですが」

『Attitude TV』のパラリンピック特集
-ー『Attitude TV』は先月、パラリンピック特集をやっていましたね。ニュージーランド代表の、さまざまな種目の選手たちの様子をシリーズで紹介していました。このシリーズを行って、何か手ごたえはありましたか。あなたは選手でもありますから、肌で感じることはあるでしょうか。

「関心が高まっているのが分かりますね。企画も好評でした。『Attitude TV』のウェブサイトからも、TVNZ(ニュージーランドのテレビ局。Attitude TVを放送している)のパラリンピック特集サイトに、リンクを張っています。ニュージーランドは30人あまりの小さな選手団ですから、選手の素顔を知ってもらうと、見る楽しみが増すと思いますよ」

-ーTVNZでも、パラリンピックの特集番組がありますね。

「競技の生放送はしていませんが、毎日ダイジェストを流していますね。特集サイトは、TVNZホームページの、スポーツ欄の中にあります」

―ーニュージーランドはラグビーの盛んな国ですから、あなたの種目にも関心が集まっているでしょうね。

「さあ、それはどうでしょうか。でも、いいパフォーマンスが出来るよう、ベストを尽くしますよ」

***

試合を目前に控えた時期のインタビューとなり、しかもぶつけた質問は少なからず不躾だったにも関わらず、パルマーは言葉を選びながら、終始ていねいに疑問に答え、その穏やかな人柄を思わせた。
障害者スポーツの選手でもあり、メディアを通して障害者についての情報を流す実践者でもあるパルマーは、その目指すところと行動とを、一致する生き方を貫いている。この北京のコートを舞台に、今度は選手として、彼がどのような姿をニュージーランドの視聴者に示すのか、期待したい。