日本人観光客に人気の、緑豊かな南半球の国、ニュージーランドでは『Attitude TV(アティトゥード・テレビ)』という番組が放送されている。日本語にすると『わたしの生き方テレビ』というほどの意味だろうか。毎週日曜日、午前9時30分から約30分間、障害を持つさまざまなニュージーランド人の生活を紹介する番組である。「障害」をテーマに扱うテレビ番組にしばし見られるような、ドラマ性や啓発臭はなく、日々の暮らしの断片を切り取って、楽しい情報番組に仕立てている。
この番組の製作スタッフのひとりであり、キャスターを務めるカーティス・パルマーは、現在北京に滞在している。彼はウィルチェアーラグビーのニュージーランド代表でもあるのだ。全国放送の番組司会者でもあり、パラリンピックの選手でもある彼に、障害のある者とない者とが共に制作する障害者の番組『Attitude TV』は、ニュージーランドでどのような役割を果たしてきたのか。その立役者であるパルマーに話を聞いた。ウィルチェアーラグビーの試合を2日後に控えたパルマーは、ゲームへの最終調整の最中にも関わらず、快くインタビューに応じてくれた。
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障害のある人とない人が共に作る、障害者の番組
ーー『Attitude TV』とは、ニュージーランドの障害のある人たちのさまざまな暮らしの断面を紹介する番組ということですが、具体的にどのような内容なのでしょうか。
「始まったのは2005年ですから、ちょうど丸4年くらいやっていることになりますね。私はこの番組のスタートから司会をやっています。30分(正確には29分ですが)の番組で、毎回3本のエピソードを紹介しています。
この番組は、障害のある人の暮らし”ライフスタイルを伝える、テレビマガジン”と位置づけています。障害のある人について知り、障害のある人にとっても、何らかのインスピレーションを提供するような内容を目指しています」
-ーなるほど、障害のある人もない人も、それぞれが楽しめて、何かを学ぶことが出来るというわけですね。視聴者を想定するにあたり、どちらかに主眼を置いて番組を作っているのでしょうか。
「どちらかを優先している、ということはありません。障害がある人かそうではない人か、ことは単純に分けられるものではなく、人は常に混ざり合って生きているのですから。
そして、障害を持った人たちが自分たちを前向きに捉えられるよう、さりげない言葉の使い方に気をつけています。例えば、『脳卒中に苦しむ(suffer)人』ではなく、『脳卒中から回復しようとしている(survive)人』と表現するとかですね。上からの配慮で、言葉の使い方にはデリケートになるべし、という考え方ではなく、今まさに、私たちはそうした人たちと共に生きているんですから。優先しているとしたら、その点ですよ。ものごとを前向きにとらえる言葉の使い方をすることですね」
-ーこの番組は、車いすのあなたがキャスターとしてテレビに登場します。あなたの他にも、障害のある人が番組作りに関わっているのでしょうか。
「一緒にやっていく、一緒に生きているということが、この番組の一貫したポリシーです。特にに意識はしていませんが、この番組を作るチームも同じです。私も司会として番組に姿を見せるだけではなく、企画や制作にも携わっています。
この番組スタッフは、私を入れて11人いるのですが、そのうち5人は、何らかの障害があります。たとえばあそこにいる彼は(近くで談笑している同僚の男性を指して)、小児まひで、車いすを使っています。肢体不自由の人が多いですね」
-ーより多様な障害のある人を、スタッフに迎える予定はあるのですか?
「今現在、聴覚障害や視覚障害を持つスタッフはいません。障害者だからという点だけでスタッフを採用するのではなく、番組を制作するにあたっての能力が重要です。その結果、現在のところ、たまたま肢体不自由の障害者が多かったといえると思います。また、企画委員会やアドバイザーなどは置いてはいません。基本的に自分たちで情報を収集して、企画を立てています」
テレビ番組のインパクト
-ーこの番組はスタートして4年になるわけですが、その間に、障害を持つ人たちに対する、ニュージーランドの人たちの見方は変わったと思いますか? この番組が、何らかのインパクトをもたらしたでしょうか?
「私たちは、この番組を見ている人たちが”気づく”手助けをしているに過ぎないと思っています。障害を持つ人たちも、自分たちと同じように日々の暮らしを営み、泣いたり笑ったりしている人間なのだと。普段障害のある人と接する機会の少ない人は、そのことになかなか気づけないでいるのかもしれません。ですから、この番組は、その無意識の壁を崩す、扉を開くような作りにしたいと思って企画しています。
社会の変化ということで言えば、近年、ニュージーランドの障害者雇用率が少しずつ上がっています。障害者ということで、一緒に仕事をすることを敬遠していた人たちが、番組でさまざまな障害者の日常生活を見て、知ることで、変わってきたのかもしれません。社会は急激には変わりません。『Attitude TV』も、ひとつのテレビ番組ではありますが、そうしたインパクトを静かに与えているのではないかと思います。
パラリンピックは、そうした見方を後押しする、とてもいい機会だと思いますよ。もっとも、4年に1回しかないのが残念ですけれどね。
-ーニュージーランドは、充実した社会福祉の制度や、多文化共生の浸透などの様子から、障害を持つ人たちに対する偏見や障壁が少ない国という印象が、私個人にはあります。それでも、テレビという媒体を通して、障害者についてのメッセージを伝える切実さというものがあるのでしょうか。
「そうでしょうか。ニュージーランドは、まだまだ遅れているところがたくさんあります。先の雇用についてなど、そうですよ。敬遠するという感情はしばし、事実を知らないことによって起きるものですから。やはり、より多くの人に知ってもらう必要があると思いますね。
同じ英語圏でも、アメリカやイギリス、オーストラリアでは、全国区で名を知られた障害者スポーツの選手や俳優がいます。ニュージーランドの場合は、まだまだそうではありません。障害者の有名人は、障害者のコミュニティの中だけで有名なのです。その枠を越えて、障害者の姿がより広く知られるような、ロール・モデルとでも言うべき人が必要だと思います」
(2)へ続く
この番組の製作スタッフのひとりであり、キャスターを務めるカーティス・パルマーは、現在北京に滞在している。彼はウィルチェアーラグビーのニュージーランド代表でもあるのだ。全国放送の番組司会者でもあり、パラリンピックの選手でもある彼に、障害のある者とない者とが共に制作する障害者の番組『Attitude TV』は、ニュージーランドでどのような役割を果たしてきたのか。その立役者であるパルマーに話を聞いた。ウィルチェアーラグビーの試合を2日後に控えたパルマーは、ゲームへの最終調整の最中にも関わらず、快くインタビューに応じてくれた。
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障害のある人とない人が共に作る、障害者の番組
ーー『Attitude TV』とは、ニュージーランドの障害のある人たちのさまざまな暮らしの断面を紹介する番組ということですが、具体的にどのような内容なのでしょうか。
「始まったのは2005年ですから、ちょうど丸4年くらいやっていることになりますね。私はこの番組のスタートから司会をやっています。30分(正確には29分ですが)の番組で、毎回3本のエピソードを紹介しています。
この番組は、障害のある人の暮らし”ライフスタイルを伝える、テレビマガジン”と位置づけています。障害のある人について知り、障害のある人にとっても、何らかのインスピレーションを提供するような内容を目指しています」
-ーなるほど、障害のある人もない人も、それぞれが楽しめて、何かを学ぶことが出来るというわけですね。視聴者を想定するにあたり、どちらかに主眼を置いて番組を作っているのでしょうか。
「どちらかを優先している、ということはありません。障害がある人かそうではない人か、ことは単純に分けられるものではなく、人は常に混ざり合って生きているのですから。
そして、障害を持った人たちが自分たちを前向きに捉えられるよう、さりげない言葉の使い方に気をつけています。例えば、『脳卒中に苦しむ(suffer)人』ではなく、『脳卒中から回復しようとしている(survive)人』と表現するとかですね。上からの配慮で、言葉の使い方にはデリケートになるべし、という考え方ではなく、今まさに、私たちはそうした人たちと共に生きているんですから。優先しているとしたら、その点ですよ。ものごとを前向きにとらえる言葉の使い方をすることですね」
-ーこの番組は、車いすのあなたがキャスターとしてテレビに登場します。あなたの他にも、障害のある人が番組作りに関わっているのでしょうか。
「一緒にやっていく、一緒に生きているということが、この番組の一貫したポリシーです。特にに意識はしていませんが、この番組を作るチームも同じです。私も司会として番組に姿を見せるだけではなく、企画や制作にも携わっています。
この番組スタッフは、私を入れて11人いるのですが、そのうち5人は、何らかの障害があります。たとえばあそこにいる彼は(近くで談笑している同僚の男性を指して)、小児まひで、車いすを使っています。肢体不自由の人が多いですね」
-ーより多様な障害のある人を、スタッフに迎える予定はあるのですか?
「今現在、聴覚障害や視覚障害を持つスタッフはいません。障害者だからという点だけでスタッフを採用するのではなく、番組を制作するにあたっての能力が重要です。その結果、現在のところ、たまたま肢体不自由の障害者が多かったといえると思います。また、企画委員会やアドバイザーなどは置いてはいません。基本的に自分たちで情報を収集して、企画を立てています」
テレビ番組のインパクト
-ーこの番組はスタートして4年になるわけですが、その間に、障害を持つ人たちに対する、ニュージーランドの人たちの見方は変わったと思いますか? この番組が、何らかのインパクトをもたらしたでしょうか?
「私たちは、この番組を見ている人たちが”気づく”手助けをしているに過ぎないと思っています。障害を持つ人たちも、自分たちと同じように日々の暮らしを営み、泣いたり笑ったりしている人間なのだと。普段障害のある人と接する機会の少ない人は、そのことになかなか気づけないでいるのかもしれません。ですから、この番組は、その無意識の壁を崩す、扉を開くような作りにしたいと思って企画しています。
社会の変化ということで言えば、近年、ニュージーランドの障害者雇用率が少しずつ上がっています。障害者ということで、一緒に仕事をすることを敬遠していた人たちが、番組でさまざまな障害者の日常生活を見て、知ることで、変わってきたのかもしれません。社会は急激には変わりません。『Attitude TV』も、ひとつのテレビ番組ではありますが、そうしたインパクトを静かに与えているのではないかと思います。
パラリンピックは、そうした見方を後押しする、とてもいい機会だと思いますよ。もっとも、4年に1回しかないのが残念ですけれどね。
-ーニュージーランドは、充実した社会福祉の制度や、多文化共生の浸透などの様子から、障害を持つ人たちに対する偏見や障壁が少ない国という印象が、私個人にはあります。それでも、テレビという媒体を通して、障害者についてのメッセージを伝える切実さというものがあるのでしょうか。
「そうでしょうか。ニュージーランドは、まだまだ遅れているところがたくさんあります。先の雇用についてなど、そうですよ。敬遠するという感情はしばし、事実を知らないことによって起きるものですから。やはり、より多くの人に知ってもらう必要があると思いますね。
同じ英語圏でも、アメリカやイギリス、オーストラリアでは、全国区で名を知られた障害者スポーツの選手や俳優がいます。ニュージーランドの場合は、まだまだそうではありません。障害者の有名人は、障害者のコミュニティの中だけで有名なのです。その枠を越えて、障害者の姿がより広く知られるような、ロール・モデルとでも言うべき人が必要だと思います」
(2)へ続く