広がる支援プログラム 人材育成など課題
大人の発達障害者の自立を支えるカギとなるのが就労だ。従来の障害者支援に加え、発達障害の特性に応じたサポートも始まっているが、実際に就職にまでこぎ着けるケースは、まだ少ない。(
巨大な倉庫が集まる千葉・浦安の臨海地域にある新晃(本社・千葉県船橋市)の浦安営業所。大手コンビニチェーンの約600店舗への商品の仕分けや配送を行っている。
パート従業員の小田陽子さん(仮名、32歳)が、大きな台車を押しながら、菓子の箱が積まれた棚の間を進んできた。送り先の店舗ごとに、商品を1台の台車にまとめるのが仕事だ。手元のシールに書かれた品番に従って、商品の箱を棚から取り、台車に載せていく。
小田さんは、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と学習障害(LD)があり、人とのコミュニケーションがうまくとれない。計算や字を書くのが苦手だが、読書は好きで、司馬遼太郎や陳舜臣の歴史小説をよく読むという。
高校を出て、親せきの紹介で生花店に勤めたが、代金の計算ができず、1か月で退職。その後、地元の商店などの面接を何度も受けたが、採用されることはなかった。
働ける喜び
26歳の時、精神科を受診して、発達障害があることがわかった。2006年11月から約3か月間、障害者職業総合センター(千葉市)で、発達障害者のために開発された就労支援プログラムを受講。仕事の手順を分かりやすく記したマニュアルの作り方や、分からないことがある時の質問の仕方などを学んだ。ストレスを和らげるストレッチなど、パニック防止に役立つ自己コントロール法も教わった。
以前から通っていた福祉作業所の職員や、千葉障害者職業センターなどの支援で、新晃の面接を受け、採用された。2週間の実習期間中は、同センターなどの「ジョブコーチ」と呼ばれる指導者が、一緒に通勤経路を確認したり、仕事の手順で理解しづらい点を分かりやすく説明したりと、常に寄り添ってサポートした。
小田さんが働く浦安営業所の山中正浩所長は、「これまでの経歴を細かく記した履歴書をもらっていたし、あらかじめ、障害の特性を詳しく説明されていたので、不安なく受け入れることができた」と話す。
十数年ぶりに仕事に就いた小田さんは、「採用試験に落ち続けて、何もかも嫌になった時もあった。いろいろな人に支えられて働けるようになり、本当にうれしい」と喜ぶ。
雇用の壁
小田さんが障害者職業総合センターで受けた発達障害者のための就労支援プログラムは、昨年度から東京と大阪、今年度から滋賀と沖縄の障害者職業センターでも実施されている。今後、全国の障害者職業センターに広げることが検討されている。
発達障害者のためのプログラムと、従来の障害者就労支援を併用し、就労を目指すことが可能になったが、実際に採用にまでつながるケースはまだ少ない。昨年度、全国のハローワークの紹介で就職した障害者延べ4万5565人の大多数が、身体、知的、精神の障害を持つ。発達障害を含む「その他」は、近年急速に伸びてはいるものの、全体のわずか0・8%だ。「発達障害のことがまだ雇用側によく知られていないことが大きい」(障害者職業総合センター)ためとみられる。
宇都宮大学の梅永雄二教授(発達障害臨床心理学)は、「発達障害者の中には、IQ(知能指数)が高かったり、特定分野の専門知識を持っていたりするなど、高い能力を示す人も少なくない。障害の特性に配慮しながら、本人の能力を生かす支援ができる人材の育成が重要だ」と話している。
大人の発達障害者の自立を支えるカギとなるのが就労だ。従来の障害者支援に加え、発達障害の特性に応じたサポートも始まっているが、実際に就職にまでこぎ着けるケースは、まだ少ない。(
巨大な倉庫が集まる千葉・浦安の臨海地域にある新晃(本社・千葉県船橋市)の浦安営業所。大手コンビニチェーンの約600店舗への商品の仕分けや配送を行っている。
パート従業員の小田陽子さん(仮名、32歳)が、大きな台車を押しながら、菓子の箱が積まれた棚の間を進んできた。送り先の店舗ごとに、商品を1台の台車にまとめるのが仕事だ。手元のシールに書かれた品番に従って、商品の箱を棚から取り、台車に載せていく。
小田さんは、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と学習障害(LD)があり、人とのコミュニケーションがうまくとれない。計算や字を書くのが苦手だが、読書は好きで、司馬遼太郎や陳舜臣の歴史小説をよく読むという。
高校を出て、親せきの紹介で生花店に勤めたが、代金の計算ができず、1か月で退職。その後、地元の商店などの面接を何度も受けたが、採用されることはなかった。
働ける喜び
26歳の時、精神科を受診して、発達障害があることがわかった。2006年11月から約3か月間、障害者職業総合センター(千葉市)で、発達障害者のために開発された就労支援プログラムを受講。仕事の手順を分かりやすく記したマニュアルの作り方や、分からないことがある時の質問の仕方などを学んだ。ストレスを和らげるストレッチなど、パニック防止に役立つ自己コントロール法も教わった。
以前から通っていた福祉作業所の職員や、千葉障害者職業センターなどの支援で、新晃の面接を受け、採用された。2週間の実習期間中は、同センターなどの「ジョブコーチ」と呼ばれる指導者が、一緒に通勤経路を確認したり、仕事の手順で理解しづらい点を分かりやすく説明したりと、常に寄り添ってサポートした。
小田さんが働く浦安営業所の山中正浩所長は、「これまでの経歴を細かく記した履歴書をもらっていたし、あらかじめ、障害の特性を詳しく説明されていたので、不安なく受け入れることができた」と話す。
十数年ぶりに仕事に就いた小田さんは、「採用試験に落ち続けて、何もかも嫌になった時もあった。いろいろな人に支えられて働けるようになり、本当にうれしい」と喜ぶ。
雇用の壁
小田さんが障害者職業総合センターで受けた発達障害者のための就労支援プログラムは、昨年度から東京と大阪、今年度から滋賀と沖縄の障害者職業センターでも実施されている。今後、全国の障害者職業センターに広げることが検討されている。
発達障害者のためのプログラムと、従来の障害者就労支援を併用し、就労を目指すことが可能になったが、実際に採用にまでつながるケースはまだ少ない。昨年度、全国のハローワークの紹介で就職した障害者延べ4万5565人の大多数が、身体、知的、精神の障害を持つ。発達障害を含む「その他」は、近年急速に伸びてはいるものの、全体のわずか0・8%だ。「発達障害のことがまだ雇用側によく知られていないことが大きい」(障害者職業総合センター)ためとみられる。
宇都宮大学の梅永雄二教授(発達障害臨床心理学)は、「発達障害者の中には、IQ(知能指数)が高かったり、特定分野の専門知識を持っていたりするなど、高い能力を示す人も少なくない。障害の特性に配慮しながら、本人の能力を生かす支援ができる人材の育成が重要だ」と話している。