□法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司
私が著書「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)の中で、真っ先に取り上げた日本理化学工業(川崎市高津区)を研究仲間とともに訪問した。
◆7割が障害者
同社は、黒板に書く際に粉塵(ふんじん)が出ないチョークの「ダストレスチョーク」で国内トップメーカーだ。従業員は川崎市の本社工場と北海道の美唄工場を合わせて73人の中小企業である。目を見張るのは、全従業員の約7割にあたる54人が知的障害者という弱者に優しい経営を実践していることだ。
同社の障害者雇用のきっかけは、1959(昭和34)年の秋、本社に近い養護学校の先生が、翌春にめでたく卒業予定の2人の少女の就職を依頼しにきたことだという。
過労が重なって病弱となってしまった創業社長の父親を助けるため、教職になる夢を捨てて、後継者として入社していた現会長の大山泰弘氏は、当時、経営に余裕がなかったこともあり、先生の要請を初めは丁重に辞退した。
しかし、その先生はめげずに何回も何回も同社を訪問する。4回目に来たとき、帰り際にこう言った。「大山さん、採用してくれなくてもいいですから、せめて1週間、働く経験だけでもさせてあげて下さい。でなければ、この子たちは働く喜びや働く幸せを、知らないまま死んでしまいます」。先生は頭を深々と下げて行った。
◆従業員が嘆願
その言葉と先生の熱意と気迫にほだされ、その年の秋、大山氏は1週間の職業体験の場を提供した。2人の少女は、来る日も来る日も始業の30分前には出社し、休憩のベルどころか、終業のベルが鳴っても手を休めることなく、一心不乱に仕事を続けた。
その姿を、一緒に仕事をしながら見ていた従業員たちが、2人の少女の就業体験研修が終わる前日、大山氏を囲んで嘆願した。「少女たちは一生懸命に頑張っています。足りない点は私たちが必ず面倒を見ますから、どうか2人とも来春に就職させてあげて下さい」
大山氏は迷った。数日後、尊敬する禅寺の住職から「人間の究極の幸せは、人に愛されること、人に褒められること、人の役に立つこと、そして人に必要とされること。この4つである」と教えられる。この言葉を胸に刻んで決意した大山氏は、翌年4月1日に2人の少女を正規社員として採用した。
それから50年余り。ずっと定期的に知的障害者を採用し続けている。工場は、障害者の一人一人が能力を最大限に発揮できるよう、製造工程にきめ細かな工夫が施され、いまやリーダーや班長として職場を引っ張る障害者もいる。
私たちの訪問当日、大山会長からいろいろ話を聞いていた会議室に、初老の小柄な女性従業員が入ってきた。「よくいらっしゃいました。コーヒーをどうぞ…」と私たちに出してくれる。その女性が退出すると、大山会長は「彼女こそが、あの少女なのです」とやさしくほほえんだ。
それを聞いた瞬間、あまりの感動に私たちの目から大粒の涙があふれ出てきた。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
SankeiBiz
私が著書「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)の中で、真っ先に取り上げた日本理化学工業(川崎市高津区)を研究仲間とともに訪問した。
◆7割が障害者
同社は、黒板に書く際に粉塵(ふんじん)が出ないチョークの「ダストレスチョーク」で国内トップメーカーだ。従業員は川崎市の本社工場と北海道の美唄工場を合わせて73人の中小企業である。目を見張るのは、全従業員の約7割にあたる54人が知的障害者という弱者に優しい経営を実践していることだ。
同社の障害者雇用のきっかけは、1959(昭和34)年の秋、本社に近い養護学校の先生が、翌春にめでたく卒業予定の2人の少女の就職を依頼しにきたことだという。
過労が重なって病弱となってしまった創業社長の父親を助けるため、教職になる夢を捨てて、後継者として入社していた現会長の大山泰弘氏は、当時、経営に余裕がなかったこともあり、先生の要請を初めは丁重に辞退した。
しかし、その先生はめげずに何回も何回も同社を訪問する。4回目に来たとき、帰り際にこう言った。「大山さん、採用してくれなくてもいいですから、せめて1週間、働く経験だけでもさせてあげて下さい。でなければ、この子たちは働く喜びや働く幸せを、知らないまま死んでしまいます」。先生は頭を深々と下げて行った。
◆従業員が嘆願
その言葉と先生の熱意と気迫にほだされ、その年の秋、大山氏は1週間の職業体験の場を提供した。2人の少女は、来る日も来る日も始業の30分前には出社し、休憩のベルどころか、終業のベルが鳴っても手を休めることなく、一心不乱に仕事を続けた。
その姿を、一緒に仕事をしながら見ていた従業員たちが、2人の少女の就業体験研修が終わる前日、大山氏を囲んで嘆願した。「少女たちは一生懸命に頑張っています。足りない点は私たちが必ず面倒を見ますから、どうか2人とも来春に就職させてあげて下さい」
大山氏は迷った。数日後、尊敬する禅寺の住職から「人間の究極の幸せは、人に愛されること、人に褒められること、人の役に立つこと、そして人に必要とされること。この4つである」と教えられる。この言葉を胸に刻んで決意した大山氏は、翌年4月1日に2人の少女を正規社員として採用した。
それから50年余り。ずっと定期的に知的障害者を採用し続けている。工場は、障害者の一人一人が能力を最大限に発揮できるよう、製造工程にきめ細かな工夫が施され、いまやリーダーや班長として職場を引っ張る障害者もいる。
私たちの訪問当日、大山会長からいろいろ話を聞いていた会議室に、初老の小柄な女性従業員が入ってきた。「よくいらっしゃいました。コーヒーをどうぞ…」と私たちに出してくれる。その女性が退出すると、大山会長は「彼女こそが、あの少女なのです」とやさしくほほえんだ。
それを聞いた瞬間、あまりの感動に私たちの目から大粒の涙があふれ出てきた。
【会社概要】アタックスグループ
顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
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