◆地方への権限移譲――府内で
箕面市役所近くにある市障害者雇用支援センター。「仕事を続けられることになりました」。3年前に同センターを巣立ち、清掃の仕事に就いた男性が、所長の下司良一さん(41)に職場との契約更新を報告した。「この季節は落ち葉が多くて大変」。仕事の苦労を語る男性に、下司さんは「大変なのは、会社にあてにされている証拠だよ」と励ました。
市障害者事業団が運営する同センターは、障害者自立支援法に基づく就労移行支援事業所で、障害者の自立に向けて就職に必要な知識やルールを教える。就職後も、人間関係や仕事内容など様々な壁にぶつかる修了生を支えようと、独自に相談に応じている。
同事業所は府内に約150か所。就職後の支援も進めようと、府は来年4月に条例を施行し、各事業所に対して、職場の定着状況を報告するように義務づける。これまでは運営方法について厚生労働省令で定めていたが、民主党政権の地域主権改革で自治体が独自の基準を設けられるようになったためだ。
「義務化で、就職後もフォローする機運が高まる」と、下司さんは歓迎する。「障害に応じて働き方は様々。各地域が実情に応じて、より細かく、柔軟に支援できるような仕組みを整えてほしい」
民主党政権は地域主権改革を「改革の一丁目一番地」と位置づけた。国と地方が政策を議論する「国と地方の協議の場」を設置する法律が昨年4月に成立。自治体の仕事を国が法令で縛る「義務付け・枠付け」が見直され、同事業所の運営方法のほか、公営住宅の入居条件や都市公園の設置基準などを、自治体独自で決められるようになった。
一方、同党の看板政策だった、国の出先機関改革は実現していない。2010年末に、国土交通省地方整備局など国の地方機関の事務・権限をブロック単位で地方に移譲する計画を策定したが、関連法案の成立を果たせないまま、衆院が解散した。
一連の取り組みについて、全国知事会は「評価できる点もあるが、不十分。地域主権改革の原点に立ち返るべきだ」とする。
「引き続き協議を」「引き続き協議を」……。6月下旬、府庁に内閣府からメールで届いた文書には、同じ言葉が並んでいた。関西6府県市が共同提案し、昨年12月に指定された「関西イノベーション国際戦略総合特区」。世界に通用する先端医療技術や医薬品の開発などに向けた24項目の規制緩和を求める地方側に対し、国側が難色を示し、今も4項目しか決まっていない。
総合特区は、成長分野の集積や地域資源の活用を図る地域に規制や課税の特例措置を設けようと、11年に制度化された。「エリア内を特別扱いするのが特区のはずなのに、国の官僚は全国一律の規制が大前提と考えている。会議や資料作りで忙殺されるだけで、何も進まない」。府の担当者らは徒労感を募らせる。
地方への権限移譲は進むのか。国と地方の関係は変わるのか。4日に公示される衆院選での論戦が注目される。
<地域主権改革> 民主党は09年の衆院選マニフェストで「地域のことは地域が決める」と掲げた。政権交代後、国が使途を限定する「ひも付き補助金」の一部を、都道府県と政令市が自由に使える一括交付金化した。一方、地域活性化につながるとした高速道路の段階的無料化は、社会実験が凍結に。同党のマニフェストの実績検証で、地域主権で掲げた公約23件のうち、「実現」は、「国と地方の協議の場の法制化」や「農家の戸別所得補償制度」など9件にとどまった。
職業体験を積む障害者ら。就職後の支援も求められている(箕面市で)
(2012年12月2日 読売新聞)