2018年より雇用が義務化、企業に必要な心構えと体制とは
生労働省の統計によると、2013(平成24)年の雇用障害者数および実雇用率は、ともに過去最高を更新した。
しかし今年から2.0%に上がった法定雇用率(昨年までは1.8%)を達成した企業の割合は46.8%。5割を下回る結果となっている。
さらに2018年4月からは障害者手帳を持つ精神障害者の雇用が義務づけられている。障害者支援が進んだ形だが、一方で、精神障害者の雇用は容易ではないという現実もある。障害者雇用の内訳を見ると、身体障害者が約76%、知的障害者が約20%であるのに対し、精神障害者は約4%と大きく差が開いている。
(「精神障害者」とは、「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」を指す。「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」より)
企業は今後、どのような形で精神障害者の雇用を実現していけばよいのだろうか。
「精神障害者」という言葉がハードルになっている
企業が雇用した精神障害者の定着率は49%と言われている(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構調べ)。そのような中、就業したスタッフの勤務6カ月時点での定着率が92%という高い実績を残しているのが、精神障害者の就労支援に特化したサービス「アビリティスタッフィング」。障害特性をオープンにして障害者雇用枠で「働きたい」意欲のある精神障害者に雇用先を紹介するマッチングサービスである。
リクルートにて同事業を担当する川上祐佳里氏は、精神障害者の就業がなかなか増えない理由をこう考えている。
「やはり『精神障害者』という名前が与えるネガティブなイメージが強いですね。いろいろな企業の担当者様と話していて思うのは、多くの方が精神障害者の雇用に対して漠然とした不安を持っていること。ただそれは、『分からないゆえの不安』がほとんどで、きちんとその人について理解を深めてもらえば、決して雇用することは難しくありません。そのような、現実との意識のギャップがあるんです」
「求職者の方自身も非常に不安を抱えているんですね。同じ悩みを持つ方が働く姿をあまり見ていないからこそ、自分自身がチャレンジすることに不安を感じているんです。このような本人の不安を取り除いてあげることも、精神障害者の就労において大切だと思います」(同)
障害をきちんと把握し、できる仕事を見極める
雇用する側と求職する側がそれぞれ抱く不安。では、それを取り除き、精神障害者が働ける環境を作るためにはどのようなことが必要なのだろうか。
「働くというのは、必ずしも正社員でバリバリ・・・という形だけではありません。ですから、精神障害者の方が『何ができるか』『どこまでならできるか』を見極め、企業側が無理のない適切な配置をしていくことが大切です。重要なのは、採用する側が精神障害を持つ方の強みと弱みを把握し、それを社内で共有して適材適所のポストを用意することです」
とはいえ、企業が精神障害者の性格や能力を適切に把握するのは簡単ではない。そこでアビリティスタッフィングでは、企業と求職者を引き合わせる前の段階で、まず精神障害者の方が自分の経歴や希望、もっと言えば「できること/できないこと」、あるいは障害の特性を明確にまとめていく機会を設けている。
その後に企業と求職者の事前面接を行って、お互いの理解を深めていく。そこにはスタッフも同席し、お互いの情報を引き出すという。このような前段階を踏むことで、企業にとっても求職者にとっても、適切なポジションでの雇用をしやすくなる。
精神障障害者の雇用に欠かせない「事後フォロー」
雇用した人を「定着」させることも当然ながら重要。そのためには相手の特性を理解し、無理のない配置を行うのも必須だが、同様に「事後フォロー」も欠かせないと川上氏は話す。
「新しい環境に入ってストレスが溜まってきた時に、ケアできるかどうかが大きなポイント。たとえば厚労省のデータでいうと、就業後のフォローがあるかどうかで定着率が大きく変わってきます。本人はどうしても『頑張ろう』と力が入っていますから、ストレスを見せないケースも出てくるはず。そんな時、冷静にケアできる方を企業が導入できていると、定着率は上がってくるはずです」(同)
アビリティスタッフィングの場合は、就業後のスタッフの状況を定期的に精神保健福祉士がヒアリングしているという。就労者のコンディションを確かめるだけではなく、企業の担当者にも何か困っている事はないかを都度確認している。そのような事後フォローが、精神障害者の就労には重要となるようだ。
冒頭の92%という高い定着率は、このようなフォローがあってこその数字と考えてよいだろう。また、一度採用した企業のリピート率も46%となっている。
もちろん、上述のような事後フォローを各企業が独自に行うのはそう簡単ではない。しかし、精神障害者の雇用を考える上で、このような手立てがカギになることは覚えておくべきだろう。
急いで雇用率を上げることより丁寧に進めることが必要
2018年に向け、精神障害者の雇用に対する機運は高まってくることが予想される。企業もCSR(Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任)意識が高まる中で、雇用率を上げようと正面から取り組む動きも増えるだろう。ただその中で、急いで数を増やすことに意識を向けすぎるのも良くないようだ。
「今までマッチングを行ってきた中で、一度採用したけれども上手くいかなかった企業が再度チャレンジするケースは非常に少ないんですね。ですから精神障害者の雇用については、急いで数を追いすぎず、とにかく丁寧に進めていくことが重要だと思います。あくまで企業と障害者の方のニーズを汲み取ることが最優先。まずは丁寧に裾野を広げていくことが先々の雇用創出につながると考えています」(同)
まずは求職者の障害特性を理解し、それに応じた雇用制度や配置を柔軟に行うこと。そして、就業後のフォロー体制を確立すること。精神障害者の雇用を行う上では、これらに一つひとつ丁寧に対応していくことが不可欠だ。雇用率が取り沙汰される部分はあるが、しばらくは着実に進めることを優先すべきなのかもしれない。
川上さんが就業後のスタッフの様子を採用企業に聞くと、採用の前は「マネジメントが難しいのでは」「きちんと働けるか不安」といった懸念を抱いていた企業も、採用後は「問題なく働いてくれています」と返答するという。
ハンディを持ちながらも、1人の従業員として普通に働いている職場。そのような例が今後さらに増えるよう、今後様々な機関の努力が必要だろう。
JBpress-2013.12.11(水)
生労働省の統計によると、2013(平成24)年の雇用障害者数および実雇用率は、ともに過去最高を更新した。
しかし今年から2.0%に上がった法定雇用率(昨年までは1.8%)を達成した企業の割合は46.8%。5割を下回る結果となっている。
さらに2018年4月からは障害者手帳を持つ精神障害者の雇用が義務づけられている。障害者支援が進んだ形だが、一方で、精神障害者の雇用は容易ではないという現実もある。障害者雇用の内訳を見ると、身体障害者が約76%、知的障害者が約20%であるのに対し、精神障害者は約4%と大きく差が開いている。
(「精神障害者」とは、「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」を指す。「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」より)
企業は今後、どのような形で精神障害者の雇用を実現していけばよいのだろうか。
「精神障害者」という言葉がハードルになっている
企業が雇用した精神障害者の定着率は49%と言われている(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構調べ)。そのような中、就業したスタッフの勤務6カ月時点での定着率が92%という高い実績を残しているのが、精神障害者の就労支援に特化したサービス「アビリティスタッフィング」。障害特性をオープンにして障害者雇用枠で「働きたい」意欲のある精神障害者に雇用先を紹介するマッチングサービスである。
リクルートにて同事業を担当する川上祐佳里氏は、精神障害者の就業がなかなか増えない理由をこう考えている。
「やはり『精神障害者』という名前が与えるネガティブなイメージが強いですね。いろいろな企業の担当者様と話していて思うのは、多くの方が精神障害者の雇用に対して漠然とした不安を持っていること。ただそれは、『分からないゆえの不安』がほとんどで、きちんとその人について理解を深めてもらえば、決して雇用することは難しくありません。そのような、現実との意識のギャップがあるんです」
「求職者の方自身も非常に不安を抱えているんですね。同じ悩みを持つ方が働く姿をあまり見ていないからこそ、自分自身がチャレンジすることに不安を感じているんです。このような本人の不安を取り除いてあげることも、精神障害者の就労において大切だと思います」(同)
障害をきちんと把握し、できる仕事を見極める
雇用する側と求職する側がそれぞれ抱く不安。では、それを取り除き、精神障害者が働ける環境を作るためにはどのようなことが必要なのだろうか。
「働くというのは、必ずしも正社員でバリバリ・・・という形だけではありません。ですから、精神障害者の方が『何ができるか』『どこまでならできるか』を見極め、企業側が無理のない適切な配置をしていくことが大切です。重要なのは、採用する側が精神障害を持つ方の強みと弱みを把握し、それを社内で共有して適材適所のポストを用意することです」
とはいえ、企業が精神障害者の性格や能力を適切に把握するのは簡単ではない。そこでアビリティスタッフィングでは、企業と求職者を引き合わせる前の段階で、まず精神障害者の方が自分の経歴や希望、もっと言えば「できること/できないこと」、あるいは障害の特性を明確にまとめていく機会を設けている。
その後に企業と求職者の事前面接を行って、お互いの理解を深めていく。そこにはスタッフも同席し、お互いの情報を引き出すという。このような前段階を踏むことで、企業にとっても求職者にとっても、適切なポジションでの雇用をしやすくなる。
精神障障害者の雇用に欠かせない「事後フォロー」
雇用した人を「定着」させることも当然ながら重要。そのためには相手の特性を理解し、無理のない配置を行うのも必須だが、同様に「事後フォロー」も欠かせないと川上氏は話す。
「新しい環境に入ってストレスが溜まってきた時に、ケアできるかどうかが大きなポイント。たとえば厚労省のデータでいうと、就業後のフォローがあるかどうかで定着率が大きく変わってきます。本人はどうしても『頑張ろう』と力が入っていますから、ストレスを見せないケースも出てくるはず。そんな時、冷静にケアできる方を企業が導入できていると、定着率は上がってくるはずです」(同)
アビリティスタッフィングの場合は、就業後のスタッフの状況を定期的に精神保健福祉士がヒアリングしているという。就労者のコンディションを確かめるだけではなく、企業の担当者にも何か困っている事はないかを都度確認している。そのような事後フォローが、精神障害者の就労には重要となるようだ。
冒頭の92%という高い定着率は、このようなフォローがあってこその数字と考えてよいだろう。また、一度採用した企業のリピート率も46%となっている。
もちろん、上述のような事後フォローを各企業が独自に行うのはそう簡単ではない。しかし、精神障害者の雇用を考える上で、このような手立てがカギになることは覚えておくべきだろう。
急いで雇用率を上げることより丁寧に進めることが必要
2018年に向け、精神障害者の雇用に対する機運は高まってくることが予想される。企業もCSR(Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任)意識が高まる中で、雇用率を上げようと正面から取り組む動きも増えるだろう。ただその中で、急いで数を増やすことに意識を向けすぎるのも良くないようだ。
「今までマッチングを行ってきた中で、一度採用したけれども上手くいかなかった企業が再度チャレンジするケースは非常に少ないんですね。ですから精神障害者の雇用については、急いで数を追いすぎず、とにかく丁寧に進めていくことが重要だと思います。あくまで企業と障害者の方のニーズを汲み取ることが最優先。まずは丁寧に裾野を広げていくことが先々の雇用創出につながると考えています」(同)
まずは求職者の障害特性を理解し、それに応じた雇用制度や配置を柔軟に行うこと。そして、就業後のフォロー体制を確立すること。精神障害者の雇用を行う上では、これらに一つひとつ丁寧に対応していくことが不可欠だ。雇用率が取り沙汰される部分はあるが、しばらくは着実に進めることを優先すべきなのかもしれない。
川上さんが就業後のスタッフの様子を採用企業に聞くと、採用の前は「マネジメントが難しいのでは」「きちんと働けるか不安」といった懸念を抱いていた企業も、採用後は「問題なく働いてくれています」と返答するという。
ハンディを持ちながらも、1人の従業員として普通に働いている職場。そのような例が今後さらに増えるよう、今後様々な機関の努力が必要だろう。
JBpress-2013.12.11(水)