鳥取県内の障害者支援施設で作られた商品が好評だ。障害を理由に妥協はできないと、市場競争力のあるヒット商品が相次いで生まれている。全国展開や海外を視野に入れる施設もある。ただ、積み残す課題は多い。
米子市淀江町の「リヴよどえ」で今月中旬、利用者が板ワカメの製造に追われていた。大山町沖で採れたばかりの天然ワカメを、大山の伏流水で丁寧に洗い、約2日間かけて低温で乾燥。袋詰めも手作業で行う。
「本当においしいと思える味を届けたい」。利用者の女性が話す。添加物を使わないが、ほんのりと塩味がするのが特徴だ。全国から注文が相次ぐ人気ぶりという。
プライド持って
地元の漁協や漁師と提携しワカメや白イカなどで商品を開発。利用者も販路開拓に動き、売上高は3年間で5倍となった。
「海のない場所に届けたい」と利用者から提案があり、今春にはモンゴルのレストランと契約し、定期的に納入する。長光文一郎事務長は「障害の有無は商品に関係ない。みんなプライドを持って働いている」と話す。
境港市中野町の「F&Y境港」では、コマツナなどの有機栽培に科学的手法で取り組む。畑の土壌を分析し、養分とのバランスを調整しながら肥料を施すことで、作物中の栄養素を増やす。
収穫した野菜は一般栽培より厚みがあり、甘みが深い。日持ちもする。県内スーパーに並べるたびに売り切れ、今後は首都圏への出荷を視野に入れる。
今春にはオーガニック加工品として伯州綿の布団を販売する。広江仁管理者は「商品の売れ行きや地域への貢献が障害者の自信にもつながっている」と強調する。
真の地方創生
県内の作業所で働く障害者の工賃は月額約1万7千円で、7年前より56%増。支払われた総額は倍増した。
施設から優先的に商品を買うよう求める「障害者優先調達推進法」で義務付けられた調達方針を、昨年末までに県内全19市町村が策定した。県は「働く環境は少しずつ改善している」と説明する。
しかし、現場の充足感は乏しい。
「採算性は低い」と広江管理者。F&Y境港では、収量を増やすための資機材やハウスを購入する資金が足りないという。工賃はまだ最低賃金の3分の1程度だ。
リヴよどえでは、少ない職員で障害者のケアや商品管理、事務作業などに対応しなければならない苦労もある。長光事務長は「福祉の現場は慢性的な人手不足。職員の給料も低い」と打ち明ける。
また、県東部のある施設は「依然として障害への誤解がある」として障害者が働いていることを示す看板を掲げていない。
県障害者就労事業振興センター(米子市)によると、県内施設が商工会といった業界団体に加入するケースも少なく、企業とのつながりは薄い。浜田和弘センター長は「企業との共同開発や情報交換などの機会を増やさなければならない。事業所も地域経済の一員として社会の中でチームワークを築いたとき、真の地方創生の姿が見えてくる」と話す。
2015年1月23日 日本海新聞