成年後見人が財産管理
Q この間、九州のおばあちゃんの家に物干しざおのセールスが来て、50万円もするセットを売りつけようとしたんだって。「そんなお金があったら、洗濯なんてせずクリーニングに出します」と、追い返したらしいけどね。
A 知佳ちゃんのおばあさんはしっかりしてるね。でも、高齢者の中には、認知症などで理解力や判断能力が低下している人もいて、悪質販売の被害が後を絶たないんだ。
Q それは心配ね。お年寄りを守る方法はないの?
A 認知症や知的障害、精神障害があって、自分で判断するのが難しい人を支えるために、成年後見という制度があるよ。
Q どんな仕組み?
A 「成年後見人」を選んで、本人に代わって財産を管理するんだ。不当に高い商品を買わされたら、後見人が後で売買契約を取り消すことができる。本人の判断能力が多少、残っていれば、後見人より権限が狭い「補助人」や「保佐人」が選ばれる場合もある。
Q 後見人って、どういう人がなるの?
A すでに判断能力が失われている人の場合、「法定後見」といって、主に親族の申し出を受けて家庭裁判所が後見人を決める。弁護士や司法書士、社会福祉士など法律や福祉の専門家か、子どもなど親族がなる場合が多い。複数の後見人を選ぶこともできるので、専門家と親族が協力して後見人を務めることもある。社会福祉法人などの団体も後見人になれるんだよ。
Q 信頼できる人を選んでくれるといいんだけど。
A 本人にまだ判断能力があるうちなら、将来、認知症になった場合に備えて、自分で後見人の候補者を選んでおくこともできるよ。「任意後見」っていうんだ。成人なら、親族や専門家はもちろん、友人や近所の人でも大丈夫。
Q じゃあ、私が大人になったら、おばあちゃんの後見人候補者になることもできるのね。「管理してもらう財産なんてないよ」って言われそうだけど。
A 財産がなくても、後見人は役に立つよ。本人が日常生活をきちんと送れるようにするのも後見人の仕事なんだ。例えば、入院の手続きをしたり、介護サービスを利用する契約を事業所と結んだりね。
Q 頼りになりそうね。ただ、身寄りのないお年寄りや弁護士に頼むお金が払えない人もいるでしょ?
A 研修を受けた一般市民がボランティアで後見人を務める仕組みもあるよ。現状では専門家で後見人になる人が不足しているので、市民後見人の養成が期待されているんだ。
Q 裁判所から選ばれて財産の管理や生活支援をするなんて、責任重大ね。
A 判断能力のない人を守るために大きな権限が与えられているからね。ただ、その分、後見人による不正も起きやすい。親族後見人が財産を使い込んだり、弁護士など専門家の後見人による横領事件が起きたりしている。最高裁判所のまとめでは、昨年末までの4年余りで、後見人らによる不正の被害が少なくとも196億円に上ったんだ。
Q 弱い人を守る役割なのに、その立場を利用して悪事を働くなんてひどい!
A 不正防止の強化や制度の利用促進に向けて、法律を作る動きがあるよ。高齢化で10年後には認知症の人が700万人に増えると推計されている。より安全で使いやすい制度に改めながら、利用を広げていくことが大切だね。
(飯田祐子)
(2015年9月8日 読売新聞)