知的障害者がアート活動に取り組む大阪市阿倍野区の多機能型事業所「アトリエコーナス」が、来年春に自立訓練機関「コーナスの学校」を設立する。社会生活のスキルを学ぶとともに絵画や写真、ダンスなど表現活動を行う。期間は2年間。運営するNPO法人コーナスの代表理事、白岩高子さんは「障害があっても、自分は何がやりたいのか探す時間、人生のスキマ時間が必要」と語る。
日本一高いビル・あべのハルカスを望む下町に建つ築80年の町家。入り口には緑が茂る。柔らかな日差しが注ぐ中庭を抜けると、海外のギャラリーで作品が展示されるなど国内外で活躍するアーティストが制作に没頭するアトリエがあり、その隣が新たな“校舎”になる。
合言葉はYES
アトリエコーナスは2005年に設立。白岩さんがそうであるように重度の自閉症児の保護者が中心となって1993年に立ち上げた小規模作業所が出発点だ。「わが子に居場所を」の思いで始まったアトリエでの合言葉は「YES」。白岩さんは「行為を承認する。“But”は使わない」と話す。
伸びやかな環境で障害者たちは眠っていた能力を開花。設立後3年で全員がコンクールで金賞を獲得した。その後も障害者を受け入れてきたが、白岩さんはあるジレンマを感じていた。それは「進路選択の理不尽さ」だ。
人生のスキマ時間
健常の若者には、進学か就職、留学、アルバイトなどの選択肢があるが、支援学校を卒業した障害者の進路の多くは、障害の度合いによって作業所に入るか、施設もしくは自宅での療養になる。「支援学校卒業後の選択肢が少な過ぎる。彼らには、幼いころから制限と制約があり、何事にも自信がない。自己肯定感を持って、自分のやりたいことを探す時間があってもいい」
誰しもが少年期から青年期の葛藤、人生の“モラトリアム”があってもいいのではないか-。その問いの先にあったのが、「人生のスキマ時間」だった。
学校では、朝のティータイムに始まり、午前はパソコン講習のほかマナー、コミュニケーションなど社会生活プログラム。午後にアート活動に入る。1年目は基礎、2年目を実践の年とし、卒業展も行う。
これまでアトリエでは、重度の知的障害者を受け入れてきたが、学校では障害の範囲も広げる。「アートはコミュニケーションツール。生きる力」と白岩さん。新たな出会いを待っている。
築80年の町家を改装したアトリエコーナス。「誰でも入れるように」と開放的な雰囲気が漂う.「コーナスの学校」の教室として活用される予定の部屋
2015年9月7日 大阪日日新聞