東京都特別支援学校情報教育研究協議会が講習
タブレット端末の配布や高速インターネットの導入など、私立学校を中心に教育現場での情報通信技術(ICT)の活用が始まっている。2020年までには小中学生に1人1台の情報端末を配備する計画が発表されているが、障害のある幼児・児童・生徒にとっても情報端末は有効なツールとなりそうだ。こうした中、東京都特別支援学校情報教育研究協議会は8月6日、東京都内で、障害者教育現場で情報通信技術(ICT)を活用するための研究会を開催。都立特別支援学校の教諭ら30数人が集まり、タブレット端末「iPad」専用アプリケーション「指伝話メモリ」など、新しい技術の講義、実習を行った。今年1月に東京都立の特別支援学校すべてに「iPad」が支給されたが、ICTは障害者教育にどんな影響を与えるのだろうか。
会議中の電話応答のため開発された「指伝話」
この研究会は、より充実した障害者教育の実現を目指し長年続けられているもので、専用機器、パソコン、アプリ、タブレットと扱うテーマも時代とともに変遷してきている。今年は、都立の特別支援学校にiPadが支給されたことを背景に、タブレットを利用したICTがテーマに据えられた。
この日、最初に実習で扱われたのは、iPad専用の"指で伝える"コミュニケーションアプリの「指伝話メモリ」。登録した文章をボイスエンジンで滑らかに発話する「指伝話」をベースに、写真や絵などを"カード"として表示し、タップすると発話する機能などを備えている。前日にリリースされた最新バージョンでは、タップ後に異なった画像が表示できる、異なったカードセットへ移動できるなどの機能が追加されている。
もともと「指伝話」シリーズは、会議中など声を出せない場での電話応答のために開発されたアプリだが、その利便性から聴覚障害者、失語症患者などでの利用が広まり、NTT東日本関東病院、北原国際病院、永生病院などで、失語症のリハビリテーション用に「指伝話メモリ」を正式に採用されている。
"埋もれたアイデアを掘り起こす"
特別支援学校を対象とした講習は、開発販売を行う「オフィス結(ゆい)アジア」と一般社団法人「結ライフコミュニケーション研究所」が共同で進める「黄金の脳みそプロジェクト」に基づくもので、病気や障害のために伝えることはできないが脳に"埋もれている"素晴らしいアイデアを掘り起こすことを目的としている。失語症、筋ジストロフィー患者で実績があるが、特別支援学校でも可能性があるのではないかと今回、特別支援学校の講習・実習に初参加した。
講習では、オフィス結アジアの高橋宜盟代表取締役が登壇し、「黄金の脳みそプロジェクト」の紹介とともに、「指伝話メモリ」でカードを実際に作成する実習を行った。シンプルな構造の分、アイデア次第でさまざまな使い方ができるという。
参加者の一人は「自閉症の児童とのコミュニケーションに期待ができる」と話しており、また、別の一人は「支援者が"作る"のではなく、利用者が"作る"ことができるところに可能性を感じた。就労支援の現場でも活用できるのでは」と期待を寄せていた。
「教諭の学ぶ時間がない」
このほか、障害者用コミュニケーション機器の「トーキングエイド for iPad」についても、開発元のユープラスの小野雄次郎代表取締役の講習および実習、都立鹿本学園の水野吉丈教諭が、初期インストールされているツールや、無料のアプリなどを使用した教材の作成法を紹介した。
事務局の禿嘉人教諭(都立光明特別支援学校)は「特別支援学校の教諭は、長期休暇のときでもないと、新しい技術を学ぶ時間を取ることが難しい。1月のiPad支給以降、今回が初めての研修会で、今後どう普及し、利用が拡大していくかは改めてリサーチしていきたい」としている。