要介護者など高齢者の付添い介護付き旅行事業を展開するNPO法人しゃらく代表理事・小倉譲さんの話を聞いていると、そう確信させられる。
思うように体が動かせず、徐々に心が閉じていってしまう、介護が必要な高齢者や障がい者の人々に、驚くほどのエネルギッシュさで、彼は「旅」を提供し、彼らが人生の豊かさを取り戻すサポートをしている。
「やり手のビジネスパーソン」ともいうべき手腕を発揮しながら、福祉業界を新たなフェイズに移行させようとしているパイオニアの話は、どこまでも熱を帯びている。
NPO法人しゃらく代表理事・小倉譲
──要介護者を中心にした高齢者の付添い介護付き旅行を中心事業に、オーダーメイド旅行やパック旅行、介護タクシーなど幅広く手がけていらっしゃいますが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
たとえば、オーダーメイド旅行の場合、しゃらくがお客さんのオファーを受けて、まずはきちんと直接お話を伺い、お体の状況やご要望を承ってから、プランニングや宿との交渉、当日の付き添いまでを全体的におこなっています。
それでも里帰りをしたい、お墓参りをしたい、という思いをお持ちの方に、僕たちは丁寧に面談をして、フルサポートしますから大丈夫ですよ、と旅行全体のコーディネイトをさせていただいています。
──自信をなくされ、徐々に心が閉じていってしまいかねない高齢者の方にとっては、何よりの喜びですね。
もちろん、里帰りやお墓参りだけでなく、より幅広い旅行のプランも手掛けています。これは高齢者の方ではなく、先天的な四肢麻痺の方ですが、先日も10日間強の海外旅行にいってきたばかりです。言語障害をお持ちで言葉は喋れず、胃ろうなので食事も口からは摂れない方でしたが、エーゲ海クルーズに一緒にいってきました。
──重度の障害のある方でも、海外にも対応可能なのですね。そもそも、なぜそのような事業を手がけられるようになったのでしょうか。
もともと社会問題には意識が高く、起業への思いもあった人間なのですが、高校生のときに地元の神戸で阪神淡路大震災に遭い、ボランティア活動に参加しました。そこが私にとっての原体験だと思います。
結局、その時から、「何か自分にできること」を探していたんです。事業資金を集めようと中国に4年間留学していたころも、その後に日本の大学に入ったときも、ずっとビジネスへの思いはあったんです。
サイドカーをつけたハーレーバイクを借りて、彼が着たいというレザーのジャケットを着てもらおうとしたんですが、残念ながら着ることができなかった。障害者用のブランドをつくろうとアパレルに就職したのですが、それはこうした事情があったからです。
──常に社会との接点において、また実際の当事者との間で、思いを巡らせながら実践に向かっていらしたのですね。
ただ、それもなかなかうまくいかなかった。そんな折、祖父と旅に出る機会がありました。かつては旅行にもよくいっていた人なんですが、認知症にがん、肺気腫に糖尿病が重なり動けず、かつ老々介護という状態だったんですね。見かねて、サラリーマンをしながら週末に介護していたんですが、祖父が故郷に一度帰りたい、と。
しかし、どこの旅行会社さんも、お手伝いをしてくださらなかった。じゃあ自分で連れてしまえと、旅行に一緒にいったんです。そうしたら、祖父が見るからに元気になった。
「旅はリハビリになる」という発見をしたのはそのときです。専門的な介護の経験も、旅行事業の知見もありませんでしたが、かねてよりの友人と一緒に極安の部屋を借りて、事業の準備をはじめた。
──並々ならぬ情熱に突き動かされている事業ということがよくわかりました。
「福祉をビジネスに」といっても、「ニーズ」という言葉でくくると、こぼれ落ちてしまうものがあると思っています。そもそも、旅行というのは「必要性」があるものではない。はっきりいって、旅行には行かなくたっていい。それでも、体の自由がきかない高齢者の方にも、旅行にいきたいという思いはある。
つまり、旅行は「ニーズ」ではなくて、「ウォンツ(欲求)」から生まれると思っているんです。だからこそ、お客さんと一緒に24時間の旅路を共にして、おむつも替えればお風呂も一緒に入り、一緒にご飯を食べて同じ部屋で寝る。つまり安全・安心であるということを実感してもらって、また利用したいという商品をつくりたいと考えています。
実際に、8割くらいの利用者の方は、リピーターとしてまた使ってくださいますから。そうしたホスピタリティは、これからも大事にしていきたいですね。