人手不足解消 就労の場確保
高齢化や後継者不足に悩む農業と、障害者の働く場の確保が課題の障害者福祉を結びつけた「農福連携」が県内で注目を集めている。農業への就労で障害者の賃金アップや就労訓練につながるほか、農家の人手不足も解消する取り組みとして期待される。受け入れる農家や障害者施設職員の負担など、普及に向けた課題もある。(高橋学)
名産地として知られる奥州市江刺区でリンゴを育てる「菅野農園」に昨年11月、市内外の障害者福祉施設の職員や農家ら約30人が訪れた。同園で行われている農福連携の取り組みを視察するためだ。
一般企業での就労が難しい知的障害者らが働く就労継続支援B型事業所「ワークセンターわかくさ」(奥州市江刺区)の利用者3人が、リンゴを1個ずつ機械の上に載せてセンサーにかざす。蜜の入り具合を調べ、適切な販売時期を決めるための作業だ。農園に週1、2回通う三浦実さん(68)は「屋外の農作業で気分がリフレッシュする。できる範囲の仕事で体力的にもきつくない」と話す。
農園では、わかくさの利用者14人が交代で週4回働く。1回2~4人で、季節に応じて、果実の表面を日に当てる「玉回し」や摘果などを行う。視察した一関市の小菊生産者、那須真さん(58)は「良い手本を見られた。作業を分割して簡単にすれば、うちでもできるかもしれない」と期待を寄せた。
農園によると、農福連携を試験的に始めた2016年11~12月、わかくさなどから受け入れた障害者が蜜の入り具合を調べた作業は計348時間。その分、熟練従業員を収穫に充てることができ、利用者の作業は推定1305万円の収入につながった。農園の菅野千秋社長(43)は「期待以上の成果だ」と感謝する。
利用者の賃金も増えた。県内のB型事業所では16年度の平均月額が1万8808円だったが、わかくさでは昨年11月、月額2万4000円に達した人もいた。農園の従業員とあいさつを交わすうちに社交性が高まった利用者もいた。高橋英絵主任(44)は「地元の名産品作りに加わり、地域社会とのつながりも深まった」と手応えを感じている。
農林水産省などによると、16年の県内の農業就業人口は6万7100人で、12年比で1万人以上減った。平均年齢は3歳ほど上がり、69・3歳。一方、県内の民間企業で働く障害者数は昨年6月現在3089人で過去最多だった。
行政も農福連携を推進する。県は今年度、県社会福祉協議会に事業を委託し、施設利用者を受け入れている農家の視察や農福連携による農産品の販売イベントを開くなどしている。
課題もある。賃金を支払う農家に資金的な余裕がないと障害者の受け入れが進まず、障害者施設では職員が農作業に同行することで施設内の職員の負担が増す可能性もある。県障がい保健福祉課は「農家や施設にどのような支援ができるか考えたい」としている。