4月の精神障害者雇用義務化を前に注目
改正障害者雇用促進法に基づき4月から身体障害者と知的障害者に加えて精神障害者が雇用義務の対象に含められるのを前に、企業向けに大阪府が無料配布している「雇用管理のための対話シート」が注目を集めている。障害者の支援機関などで使われる日誌や専門家の意見を参考に作成したもので、見えづらい障害による気分や体調の変化を的確に把握し、対応に役立てられるのが特徴だ。ほかの障害より平均勤続年数が短い精神障害者の就労をいかに支援するか、企業側も模索している。(地主明世)
シートは、体調管理や目標管理、業務日誌(基本編と疲労確認編)など計6種類。既存の業務日誌などに組み込みやすいようエクセル形式で作成されている。
精神障害がある従業員は日々、睡眠時間や体調などを記入し、上司や人事担当者がコメントを記入する。交換日記のようなものだが、状態をグラフ化できるため、把握が難しい「気分・体調の波」を双方が的確に把握。コミュニケーションがとりやすくなり、精神保健福祉士などとの情報共有にも役立てられる。
特性を理解
精神障害は、鬱病や統合失調症のほか、知的障害のない一部の発達障害者を含むこともある。体調や精神面での変化の波が大きい人も多いため、職場での配慮が難しいとされる。たとえば、車いす使用者には職場のバリアフリー化、聴覚障害者には筆談など、雇用に際して企業側がとるべき対応は比較的分かりやすいが、「気持ちがうまく伝えられない」「心身のコントロールができない」など“見えない障害”を抱える精神障害者には、特性を理解した上での対応が必要だ。
厚生労働省の平成25年の調査でも、精神障害者の平均勤続年数は4年3カ月で、身体障害(10年)や知的障害(7年9カ月)に比べて短かった。
ニーズあっても
一方、障害があっても働きたいというニーズは高まっている。
厚労省によると、全国のハローワークにおける28年度の新規求職申し込みは10年前の約4・5倍の8万5926件に達した。改正障害者雇用促進法の狙いはこうしたニーズへの対応で、人口減少社会で働き手を増やすとともに、政府が掲げる「1億総活躍社会」の理念にも沿う。
雇用数も増加傾向にある。28年度にハローワークを通じて就職した精神障害者は、身体障害者を上回る4万1367人。障害者全体の44・4%を占めた。
だが、職場になじめなかったり、心身をコントロールできなかったり、短期間で退職するケースは依然多い。
一方、府がシートづくりのモデルにした民間の精神障害者就労支援システムを利用した精神障害者は約9割が勤続1年を達成したとのデータもあり、川崎市でも同様のシートを導入するなど取り組みが広がり始めている。
府の担当者は「精神障害者の不調には、本人も周囲も気づきにくい。シートを通じてコミュニケーションを深め、安定した障害者雇用に役立ててほしい」と話している。
改正障害者雇用促進法 障害者に対する差別の禁止や職場で働く際の配慮を義務づけることを柱に、平成25年6月に成立。30年4月からは、これまで知的・身体障害者だった雇用義務対象に、精神障害者が加わる。また、雇用率は民間企業(従業員が45・5人以上)で現行の2・0%から2・2%、国や地方公共団体では2・3%から2・5%に引き上げられる。
産経ニュース