パニック障害公表の横須賀市議 誰もが生きやすい世に 恋人の死、心に刻み
神奈川県横須賀市でパニック障害などを抱えながら活動する市議が、年末年始もライフワークの自殺対策に取り組んでいた。現在4期目で、精神保健福祉士の資格を持つ藤野英明さん(43)。自ら精神障害があることを公表している議員の存在は、全国的にはほとんど知られていない。
「人の数だけ悩みはある。あなたやあなたの大切な人からの相談をお待ちしています」。昨年12月末の京急横須賀中央駅前。藤野さんは、市が相談窓口「横須賀こころの電話」を年中無休で運営していることを知ってもらおうと、電話番号を大きく書いたボードを手に呼びかけた。
クリスマスイブ前日から1月3日までの12日間、自殺対策の街頭活動を一人で12年間続けている。年末には役所が仕事納めとなり、公的な支援機関が閉じてしまう上、世間がにぎやかな時季こそ、生きづらさや孤独感がより深まる人がいると感じているからだ。
小中学校では、いじめなどを受けて保健室で過ごすことが多かった。高校時代からの恋人が統合失調症を患い、彼女の力になりたいと大学では心理学を学んだ。
自身も、就職活動中にパニック障害を発症。電車に乗ったり、閉鎖された空間にいたりすると過呼吸などに襲われ、留年を余儀なくされた。1998年に大学を卒業して大手映画会社に就職したが、入社3年目にハードな仕事のストレスからうつ病も発症した。2002年11月には、統合失調症から回復しかかっていたはずの彼女が、自ら命を絶った。
自殺をなくしたいと政治の道に進むことを決意し、会社を辞め03年4月に同市議選で初当選した。この年の12月市議会で恋人を失ったことによる「自死遺族」であることを明かし、自殺予防の無料電話相談を設けるよう提案。翌04年に市は「こころの電話」を開設した。ここ数年は年間5000件近い相談が寄せられている。
藤野さんは今も治療を受けている。震えなどの症状に襲われることがあるため、本会議や委員会の日は医師の指示の下、平常時の数倍の薬を飲むという。
「世間は『精神障害があるから』と許してはくれない。当事者だと公開している僕がだらしなく思われたら、全ての精神障害者がだめだと思われかねない」。そんな思いで、約15年間全ての本会議で質問に立ち続ける。「精神疾患は誰にでも起こり得る。全国には、精神障害のある議員が他にもいるはず。カミングアウトできる議員が増えれば、誰もが生きやすい社会に変えられると信じている」
精神疾患、国民の3%
2017年版障害者白書によると、統合失調症やうつ病などの精神疾患で生活が制約されている精神障害者は、国民の約3・1%に相当する約392万4000人いるとされる。社会進出を促そうと、企業などに一定の障害者雇用を義務づける障害者雇用促進法が13年に改正され、今年4月から身体、知的障害者に加えて精神障害者についても雇用義務対象となる。
ただ、人材サービス会社エン・ジャパンが昨年9~10月にインターネットを通じて実施した調査では、精神障害者の雇用義務化について48%の企業が「知らない」と回答。理解が十分に広がっていない現状がうかがえる。
