認知症の高齢者や病床の患者、障害者らに寄り添い、音や曲を通じてリハビリなどを行う音楽療法士。宇都宮短大(宇都宮市下荒針町)には県内唯一の音楽療法士専攻コースがあり、卒業生は福祉施設など活動の場を広げている。痛みの緩和、記憶の喚起…。効果は認められているが、知名度は高くない。同短大は「超高齢化社会でますます必要とされる職業」と養成に力を注ぐ。
「あの故郷へ 帰ろかな 帰ろかな」。歌手千昌夫(せんまさお)さんのヒット曲「北国の春」を、お年寄りが懐かしそうに歌う。歌詞を思い出すように目をつむる人や、うっすらと涙を浮かべる人も。
今月4日午後、宇都宮市内の特別養護老人ホーム。「次は一緒に楽器を鳴らしてみましょう」。ピアノで伴奏しながら、音楽療法士の高野由紀子(たかのゆきこ)さん(46)が入所者約20人に呼び掛けた。
ホーム職員は「普段は部屋にこもりがちな人が音楽療法の日はカレンダーに印を付け、服も着替えて待っているほど。笑顔が増えた人も多い」と効果を語る。
高野さんは長女に自閉症があることをきっかけに音楽療法に興味を持ち、2008年に同短大の専攻コースを卒業。当初数カ所だった活動施設は現在、県内外の11カ所に広がった。鈴や太鼓など多彩な楽器を抱えて赴き、心身の障害の回復、生活の質の向上などに取り組んでいる。
音楽療法は第1次、第2次世界大戦で心身が傷ついた兵士の治療のために米国で発達した。日本では1960~80年代にかけて複数の研究会が立ち上がり、精神疾患のリハビリや障害児ケアなどに導入された。

1月20日 下野新聞