日本産科婦人科学会や日本スポーツ協会などでつくる「女性アスリート健康支援委員会」(川原貴会長)が去る12月に開いたシンポジウム「思春期の運動性無月経を考える」で、討論テーマの一つに取り上げられたのが摂食障害の問題だ。女子選手が体の利用可能エネルギー不足に陥るとき、運動性無月経とともに、摂食障害にかかるケースは目立つ。登壇した専門家たちは、運動量に見合う食事を取らないエネルギー不足の予防を呼び掛けるとともに、摂食障害が疑われる場合にも、精神科医受診につなげるなど早期の対応を取る必要があると強調した。
◇目立つ体操や陸上、フィギュアの選手
女性アスリートは一般の人に比べ、摂食障害を発症するリスクが2~3倍高いとされる。シンポジウムで産婦人科医の立場から報告した百枝幹雄・聖路加国際病院副院長によると、10代後半から20代前半にかけ、持久系、審美系、体重階級制のスポーツに参加する選手に摂食障害が目立つという。
「体操、陸上長距離、フィギュアスケートといった特定のスポーツの選手が摂食障害に関係しやすく、摂食障害になりやすい人が特定のスポーツに魅力を感じやすい」と百枝副院長。競技力向上のため過度に体重・体脂肪を落とす「軽量化戦略」についても、摂食障害を招く理由の一つだとの認識を示した。
1日当たりの利用可能エネルギー(エネルギー摂取量―運動によるエネルギー消費量)を、除脂肪体重(脂肪組織を除いた体重)で割った数値が、1キロ当たり30キロカロリーを切ると、エネルギー不足で無月経が起きる可能性が高まるといわれる。無月経だと、摂食障害にかかっている人の割合も高い。
百枝副院長は体格指数(BMI)17.5、思春期の標準体重の85%を下回った場合に、エネルギー不足が疑われると説明。BMI17.5未満のアスリートの4人に1人が無月経との調査結果も紹介した。
さらに、「無月経は(競技力向上に)好都合だと思っている選手や指導者が多い」と、体の「SOS」が放置されやすい傾向を指摘。摂食障害についても「アスリートはもともと肉体的、精神的に強いので、顕在化したときには、かなり重症化してしまっている」と述べ、適切な対応が遅れるリスクに警鐘を鳴らした。
公認スポーツ栄養士の小清水孝子・大妻女子大教授は、エネルギー不足に陥る女性アスリートの食行動の一端を紹介し、注意を促した。強化期間で運動量が増えたのに食べる量が追い付かない、競技パフォーマンス向上のため過度に減量する、といったケースが問題になるという。
小清水教授は「日常的に極端な小食が長期間続いた場合、ある日突然、体重が減らなくなる。体重が減らないから、もっと食事を減らそうという負のスパイラルに陥り、選手引退までいってしまう選手もいる。極端な小食は早めに抜け出すことが大切」と話した。
栄養の偏りも目立ち、今の選手たちはご飯やパン、麺類など炭水化物の摂取を控えることが多いという。エネルギー源となる糖質は不足しがちだ。
「肉や卵を食べても、とにかく糖質を嫌がる。ゼロキロカロリーとうたう食品は好きだが、ご飯は食べない選手は要注意」「極端な例では、おにぎり1個とポテトチップス1袋があると、重量が軽いからとポテトを食べてしまう選手もいる」などと実情の一端を明かした。
小清水教授は「ほとんどの選手は食事量が少ないので、まずは摂取量を把握して、ご飯やパンを食べることから始め、その上で、おかずや野菜も食べる基本的な食事に」と、栄養士として取る対応の流れを説明。「いきなり300キロカロリーから600キロカロリーを増やせと求めるのは厳しいので、本当はおにぎり三つ食べてほしいけれど、まずは一つから、といった感じで、手探りでやっている」と述べた。
エネルギー不足を予防するためには、スポーツ医・科学の専門スタッフと栄養士が連携し、定期的に食事やトレーニング、体組成や骨量、月経状況などを評価していくことが本来望ましい。小清水教授は「すごくきつい練習をした後に、ご飯を食べられなくなる選手がいる。そういうときは、食事時間を長く取るとか、食べやすいメニューをつくるといった工夫も必要」「成長曲線から見て、あまりにも体重が増えない時にも、食事量をしっかり考えないといけない」と注意点も挙げた。
精神科医で摂食障害に詳しい西園マーハ文教授は、中学時代から陸上競技の選手だった高校生の例を交え、診療現場の実情を報告した。「一般に摂食障害の本人は病状を否認し、治療の必要性を認めないことが多い」と説明。「怒ったり悲しんだりという内的感情に気付きにくく、疲労感が消えて過活動になり、コーチに言われたこと以外の朝練をやったりする」「100グラムでも体重が増えたら死ぬしかない、といった極端な認知をする」などと症状例を挙げた。
アスリートの摂食障害には、低体重になる神経性やせ症だけでなく、「むちゃ食い」が見られる神経性過食症のケースも多く、見た目では分からないため、見逃されがちだという。体重を減らすために嘔吐(おうと)するという、過食の代償行動も見られると、西園マーハ教授は指摘した。
摂食障害が起きる背景については「パフォーマンスを上げたい、きれいになりたいといった低体重への期待だけはなく、完全主義の本人の自信のなさや、親との関係なども影響する」と分析。「病的な本人の考えに同調するのではなく、治療を前に進めていくことが求められる」と説いた。
無月経の場合と同様に摂食障害についても、学校現場が問題を拾い上げ、医療と連携して対応していくことが望ましい。西園マーハ教授は「家族も完全主義で本人の問題に気づきにくいことがある」と注意を促し、「通院したらレギュラーを外されるといった恐れから、どうしても受診が遅れやすい」とも指摘した。
摂食障害になった選手は、引退後に身体的な合併症やうつ病などに苦しむケースも多いという。その意味でも、早期発見と早期治療が大切だ。今回のシンポジウムでは、トップレベルのマラソンランナーだった元選手が菓子などの万引きを繰り返し、現役時代からの摂食障害の影響が指摘された事件も話題になり、「過剰な軽量化戦略の被害者」(山内武・大阪学院大教授)との声も上がった。
シンポジウムを締めくくったのは、日本スポーツ協会のヨーコ・ゼッターランド常務理事を座長に行われた総合討論。百枝副院長、小清水教授、西園マーハ教授の3人は「ぜひ無月経になる前からの月経の不調を(SOSの)サインとして考えてほしい」(百枝副院長)「本人が何を一番困っているかを誰かが聞き取らないと、治療が進まない」(西園マーハ教授)などと、健康問題の予防と早期対応の必要性を改めて強調した。ゼッターランド常務理事も「現役の選手や指導者はパフォーマンス向上に集中しがちだが、競技生活は人生の一場面でしかない」と述べ、生涯の健康を考えた対応を現場の関係者に求めた。
精神科医で摂食障害に詳しい西園マーハ文教授は、中学時代から陸上競技の選手だった高校生の例を交え、診療現場の実情を報告した。「一般に摂食障害の本人は病状を否認し、治療の必要性を認めないことが多い」と説明。「怒ったり悲しんだりという内的感情に気付きにくく、疲労感が消えて過活動になり、コーチに言われたこと以外の朝練をやったりする」「100グラムでも体重が増えたら死ぬしかない、といった極端な認知をする」などと症状例を挙げた。
アスリートの摂食障害には、低体重になる神経性やせ症だけでなく、「むちゃ食い」が見られる神経性過食症のケースも多く、見た目では分からないため、見逃されがちだという。体重を減らすために嘔吐(おうと)するという、過食の代償行動も見られると、西園マーハ教授は指摘した。
摂食障害が起きる背景については「パフォーマンスを上げたい、きれいになりたいといった低体重への期待だけはなく、完全主義の本人の自信のなさや、親との関係なども影響する」と分析。「病的な本人の考えに同調するのではなく、治療を前に進めていくことが求められる」と説いた。
無月経の場合と同様に摂食障害についても、学校現場が問題を拾い上げ、医療と連携して対応していくことが望ましい。西園マーハ教授は「家族も完全主義で本人の問題に気づきにくいことがある」と注意を促し、「通院したらレギュラーを外されるといった恐れから、どうしても受診が遅れやすい」とも指摘した。
摂食障害になった選手は、引退後に身体的な合併症やうつ病などに苦しむケースも多いという。その意味でも、早期発見と早期治療が大切だ。今回のシンポジウムでは、トップレベルのマラソンランナーだった元選手が菓子などの万引きを繰り返し、現役時代からの摂食障害の影響が指摘された事件も話題になり、「過剰な軽量化戦略の被害者」(山内武・大阪学院大教授)との声も上がった。
シンポジウムを締めくくったのは、日本スポーツ協会のヨーコ・ゼッターランド常務理事を座長に行われた総合討論。百枝副院長、小清水教授、西園マーハ教授の3人は「ぜひ無月経になる前からの月経の不調を(SOSの)サインとして考えてほしい」(百枝副院長)「本人が何を一番困っているかを誰かが聞き取らないと、治療が進まない」(西園マーハ教授)などと、健康問題の予防と早期対応の必要性を改めて強調した。ゼッターランド常務理事も「現役の選手や指導者はパフォーマンス向上に集中しがちだが、競技生活は人生の一場面でしかない」と述べ、生涯の健康を考えた対応を現場の関係者に求めた。
1/26(土) 障害者ドットコムニュース