高齢者や障害者、外国人や貧困家庭など、町にはさまざまな問題を抱えた人々が共存している。行政による社会福祉制度はあっても、困っている人への支援は十分ではないだろう。そんな中、注目されているのが「地域福祉」だ。地域の人々と民間や行政の福祉関係者が協力して、町の福祉的な課題を解決していく枠組みで、地域福祉が町おこしや地域の活性化に一役買っていることも多いという。東洋大学社会学部社会福祉学科の加山弾教授に聞いた。
「たとえば、子どもの貧困の深刻化を受けて、子ども食堂の運営団体が福祉施設のスペースを活用したり、カフェやサロンなどの施設を利用した障害者がその施設の担い手として活躍したり、地域福祉の形はさまざまです。そうした場では、近くの住民が手伝い、食材や物品を提供してくれることもあり、多彩な人々が参加する受け皿でもあります。こういう取り組みがあると、それぞれの地域が抱える潜在的なリスクに柔軟に対応できるし、住民同士の交流が生まれるほか、福祉当事者の雇用創出にもつながります。地域福祉は、付加価値が高いまちづくり機能を併せ持つことが多いのです」
成功事例を紹介しよう。
◆恋する豚研究所(千葉県香取市)
ここでは社会福祉法人「福祉楽団」による福祉事業の一環として、障害のある人たちが豚やハム、ソーセージなどを製造している。
「注目は、福祉の看板を掲げるのではなく、商品そのものをブランド化することで販売しています」(同研究所担当者)
加工工場には食堂が併設され、しゃぶしゃぶ定食など高品質でおいしい豚肉を楽しめる。
週末は、多くの人で賑わっているという。
◆パン工房「八兵衛」(愛知県蒲郡市)
知的障害者の就労支援事業として、特定非営利活動法人「楽笑」が運営するパン工房だ。海のある町ならではの素材を使った地産地消のパンが有名で、「『ちくわロール』は、第2回蒲郡市いちおし逸品にも選ばれました」(担当者)という。
楽笑は、ほかにも地元で捕れた魚の干物を製造販売する酒菜屋「十兵衛」などを運営していて、地域の食材で人と人とをつなげる試みが注目されている。
◆NPO「ワイワイあぼしクラブ」(滋賀県湖南市)
知的障害者や認知症高齢者のグループホームなどを運営するNPO。ホームでは専門職のスタッフだけでなく、「地域住民もボランティアとして参加している」(クラブ担当者)そうだ。
地域の人々が活躍・交流する場としても機能している。
「福祉活動に参加する」というとハードルが高く感じるかもしれない。
でも、食事をしに行く、買い物に行くということなら、普通の感覚で参加できる。余裕があれば、ボランティアとして参加するのもいいだろう。
「『他者のために力を貸す』という従来の福祉の形に加え、最近は、福祉の看板を掲げるのではなく、『まちづくりの中に福祉がある』というアプローチが増えています。たとえば『アートと福祉』『農業と福祉』といった新しい取り組みです。社会福祉法人などが有形無形の専門資源を活用し、多くの人々が出会い、つながれるようにすることで、『わが町』の描く地域共生社会に近づけていくことが期待されます」
2019/01/27 日刊ゲンダイDIGITAL