横須賀うわまち病院心臓血管外科

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急性大動脈解離におけるMalperfusion ・ 腸管虚血

2018-02-16 14:25:54 | 医療
急性大動脈解離の治療 臓器虚血への対応
腸管虚血

 急性大動脈解離における腸管虚血は重篤で死亡率が高い

 発生頻度 A型1.5-5.8% B型 1.0-7.4%

メカニズム
① 偽腔の圧迫による真腔狭窄
② 腹部分枝への解離の進展による分枝の真腔の狭窄
③ 非閉塞性腸管虚血(NOMI:Non Occlusive Mesenteric Ischemia) 

臨床所見
① 腹痛
② 腸管壊死に伴う全身への影響
③ 敗血症および血管内脱水による循環不全

診断
 発症時から腹痛や下血を発生している場合は診断が容易であるが、意識障害を合併していたり、術後の未覚醒や人工呼吸管理中の状態では診断が困難な症例が多い。腸管壊死に至る前に診断することが救命につながるため、腸管虚血を痛がった場合は迅速かつ積極的に検査・治療を進めていく必要がある。
 もっとも重要な検査所見は造影CTである。たとえ腎機能障害を合併していても、造影剤を使用して腸管虚血を診断することが優先される。腸管虚血を呈する急性大動脈解離のCT所見は、上腸間膜動脈および腹腔動脈が分岐するレベルでの解離した大動脈の真腔狭窄、これらの動脈への解離の進展、および造影途絶所見である。また、腸間膜内の動脈の造影所見の有無や腸管壁の造影効果も参考になる。虚血に陥った腸管は麻痺性イレウスによって内腔が拡張したり、壁やケルクリングが浮腫を起こすことによって肥厚する所見を呈する。また腹水の出現なども同時に見られることが多い。大動脈解離の血行動態は刻々と変化することが多いため、病態によっては繰り返し造影CTを行い比較する。
 腸管虚血に陥った症例では、乳酸アシドーシスが腸管壊死に陥る前から呈することが多いため、乳酸のモニタリングが重要である。動脈血液ガス所見のBase ExessやpH値も同時に比較して乳酸アシドーシスが進行した場合は迅速な対応が必要である。腸管壊死に陥った場合は、CKやLHD、GOTもなどの血清生化学検査値も上昇してくるが、この段階ではもはや救命できる時期を逸している可能性がある。
 腹部エコーは腹腔の観察にはリアルタイムに繰り返し検査できるため有用であるが、腸管虚血の症例では、腹腔内ガスが多く観察が困難な症例が多い。検査の再現性に乏しい欠点があるが、腸管壁の浮腫やSMA血流の低下などが参考になる。経験的には上腸間膜動脈の血流速度を測定し、50cm/s以下(通常は1m/s程度)の症例は腸管虚血に陥っている可能性がある。
 CTが発達した今日では、腸管虚血を疑う大動脈解離の症例に対して血管造影を行うことは稀であるが、NOMI(非閉塞性腸管虚血)を疑う症例では、腸管壁の造影効果の血管拡張薬の動注による改善所見によって診断する必要がある。これによって診断された場合は、カテーテルを上腸間膜動脈等に留置して、血管拡張薬の持続動注療法に移行する。
 試験開腹が必要な症例もある。実際に腸管が壊死に陥っている場合は診断が容易であるが、色調が悪いという程度の変化しか見られない症例もある。こうした症例はその後、壊死にまで進行することもあるため、腹腔内圧が上昇して臓器障害が進行する、いわゆるAbdominal Compartment Syndromeの制御もかね、かつ繰り返し腸管壁を観察できるように閉腹せずにおくことも考慮する。
 腸管虚血に陥ると、容易に腸管壁の細菌バリアが破綻してBacterial Translocationから敗血症に至るため循環が不安定であったり、炎症所見の高値、発熱など見られる場合は早めに血液培養をとっておく必要がある。
 腸管浮腫による循環血液量の減少も血行動態が不安定になる一因なため、適切な血行動態のモニタリングも管理には必要である。

腸管虚血の診断:
CTでの腸管壁造影所見、上腸間膜動脈および腹腔動脈の造影所見
腹部エコーでの上腸間膜動脈血流の検出および血流速度測定
試験開腹での腸管の観察
乳酸アシドーシスの観察
生化学検査所見 CK LDH GOT WBC上昇


治療
① 大動脈解離のプライマリーエントリーの閉鎖(Central Operation)
② ステントグラフト留置による真腔の拡大
③ 開窓術による真腔血流の増加
④ 分枝へのバイパスまたは血管内治療
⑤ 薬物治療(パパベリンやプロスタグランジンE1など血管拡張薬の選択的持続動注)
⑥ 腸切除・人工肛門造設
⑦ 腹腔内の減圧

詳細は 大動脈解離診断と治療のStandardより(筆者が執筆担当部分)

NOMI:

 血管病変による急性大動脈解離による腸管虚血は主に、真腔狭窄、解離の分枝内への進展など画像所見によって判別もしくは予測可能なことがおおいのですが、いわゆる非閉塞性腸管虚血(NOMI)の場合は、画像所見ですぐに診断することは困難なため、これは腹痛、ラクテートの上昇がみられた時には、まず優先的に疑って対処する必要があります。上記症状が疑われた場合はまず、腹痛の発症機序の検索が必要ですが、NOMIが疑われた場合は、造影CTで小腸や結腸の造影の染まり方を検討し、造影むらがある、部分的に染まりが悪い場所がある場合は、直ちに腹部血管造影を行います。造影で末梢の染まりが悪い、門脈の造影が遅延するなどの所見の場合は、試験的に血管拡張薬(パパベリンやプロスタグランジン製剤)を選択的に動注し、それによって造影所見が改善するかを確認します。造影所見が改善すれば、NOMIと診断され、持続動注療法を開始します。また診断が確定できない、という場合も、疑った場合は持続動注療法にうつことが多いです。
 先日経験した症例は幸い、動注療法で腹痛が軽快し、麻痺性イレウスにはなりましたが、アシドーシスに至る前に改善し、救命できました。
 高齢、腎機能低下、術中の過大侵襲などが原因と引き金になります。高齢者の患者さんを手術した場合は、あらかじめ念頭に術後管理を行う事が早期発見早期治療につながると思います。
コメント
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