横須賀うわまち病院心臓血管外科

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心不全の長期予後を改善する薬

2018-02-25 00:56:52 | 医療
 心不全の病態は、心臓が送り出す血液の量が足りなくなってしまうことでおこるいろいろな機能不全です。
 一分間に心臓は約5リットルの血液を大動脈に送るといわれています。一回拍出量が80mlで一分間に60回の心拍数があるとすると、80×60=4800ml すなわち、毎分約5リットルです。

 心臓の収縮により、一回は左室内の血液を、大動脈弁を通過して大動脈に送り出しても、すぐに大動脈弁逆流のように心臓に戻ってしまうと、その逆流した量はマイナスになります。また、僧帽弁逆流では、左心室から大動脈に向かう血液と、左房に逆流する血液があるので、逆流分がマイナスになります。他に、もし動脈管開存やバルサルバ洞動脈瘤破裂、動静脈瘻のように、右心系や左室内などに短絡してしまう血液があると、これもマイナスになります。こうした構造異常の場合は、外科手術の治療効果が非常に期待できる疾患です。

 血液の流れる経路が正常でも、心臓の筋肉の動きが悪くなり、それによって左心室の血液を送り出せない状態もあります。これは心臓の筋肉そのものの病気で、虚血性心疾患による心筋の血流障害であれば冠動脈バイパス術などで血流を増やすことで心筋収縮の改善を期待できますが、拡張型心筋症やその他の心筋疾患のように、心筋細胞そのものの異常の場合は、なかなか外科治療では効果は期待できません。
 この場合は、心臓そのものを交換する心臓移植や、機械によって心臓の機能を補助する補助人工心臓や各種の機械的循環補助装置が必要です。最新の研究では、骨格筋の細胞をシート状に培養して、心臓表面に張り付けることで心筋の収縮力を改善させる治療が注目され、虚血性心疾患が原因の場合は保険で認められ、一部の患者さんに対する治療が始まっています。近い将来、今話題のiPS細胞を使った心筋シートを臨床に使う日も近いといわれています。
 こうした高額な先端治療をする前に、基礎的な治療としては、心機能を改善し生命予後(寿命)を延長する効果が証明されている薬剤もあります。
 過去にはいわゆる強心剤といって、交感神経などを刺激して心筋収縮力をあげさせて心機能を改善する薬剤が主に使われていましたが、15年ほど前から、実はこの強心剤治療は寿命の延長効果どころか、寿命を短くするとも言われるようになり、逆に、交感神経の刺激を抑制して心臓を休ませる治療のほうが寿命が延長できるということがわかってきました。それ以来、広く心不全に使用されるようになったのが、β受容体拮抗薬、いわゆるベータブロッカーです。
 ほかに心臓や血管に対する毒性の強い生理活性物質として、アキギオテンシンIIというホルモンがあります。血管を収縮させて、血圧を上昇させることで心臓の収縮時の負担を増加させる作用がありますが、このアンキオテンシンIIを生成させない、もしくは受容体を拮抗するACE阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬、またアンギオテンシンIIが刺激してアルドステロンを分泌させ、アルドステロンが体内に液体を貯留させることで心臓の負担を増加させることを阻害する抗アルドステロン薬、これも心不全の予後改善に有効と言われています。これらの基礎治療薬を組み合わせて長期使用することで、少しずつでも長期の成績を改善しようとする管理が、ここ10年ほどで一般化したと思います。
 短期的には利尿剤も心臓の負担を軽減するという意味で効果がある処方です。

まとめますと、心不全の薬物治療は
①β受容体拮抗薬
②アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬
③抗アルドステロン薬
④その他の利尿薬
 などがあります。
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