横須賀総合医療センター心臓血管外科

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心筋梗塞の機械的合併症② 心室中隔穿孔の治療

2018-04-04 15:49:41 | 心臓病の治療
 心筋梗塞の機械的合併症の中でも最も死亡率の高いのが心室中隔穿孔です。

 突然左心室と右心室が交通して、左心室の血液が大量に大動脈より圧の低い右心室に入り込んでしまうため(左右シャント)、急に心不全が進行します。特に急性心筋梗塞では、穿孔部位の周囲は壊死した心筋であるため非常にもろく、小さい穴が防波堤の決壊みたいにどんどんおおきくなって経時的に重症になっていくため、最初は大丈夫と思っても、直ぐに重症化してしまうリスクがあります。

 救命のためには穿孔した穴をふさぐ外科的手術しか基本的にはありません。多くの場合、心原性ショックになっていたり、重症の心不全を呈しているため術前の状態としては不良なことが一般的です。

 手術は通常、人工心肺を使用して心停止下に左室を切開して、穿孔部位の周囲に牛(自己)心膜パッチをあてる手術が一般的です。穴に直接パッチを縫着して閉鎖する術式はDaggett手術と呼びますが、心筋梗塞発症時の心筋は非常に脆く裂け安いのでこの術式では救命率が低く、その後に提唱されたExclusion Technique(David-Komeda手術)は、穿孔部から離れたできるだけ正常の心筋に心膜パッチを固定し、しかもこのパッチを左室の中の機能的な左室側と中隔の側の左室とに隔壁を作るのに使います。これによってパッチの右室側は、圧は右室圧になり、心筋の切開縫合部にかかる圧も小さくなり出血量も少なくて済みます。
 最近は穴の両側にパッチを貼るDouble Patch法や、右室、右房のアプローチでの閉鎖する方法もあります。二重にパッチをあてる方法は、残存シャントの可能性が少なくなり、また中隔の針孔により組織のカッティングのリスクも軽減されます。小さい穴の向こう側にパッチをあてるのは難しいのですが、いくつかのコツ、テクニックを駆使すれば可能です。
 左室切開する方法は、心膜による隔壁によって左室の機能的内腔が小さくなって、循環としては拡張障害を呈する可能性があります。右室や右房の切開ではそうした拡張障害など左室切開した後遺症がないのがメリットです。右房アプローチは右冠動脈の領域の梗塞で、三尖弁に近い高位の梗塞の場合に適応になりますが、適応できる症例は少なく経験した医師も少ないと思います。筆者は右房アプローチでダブルパッチ法で救命した経験がありますが、これは心室を切開しない画期的な手術法なので、中隔の高位に穴がある症例は、一度右房切開して右房から穴の位置を確認する意味があると思います。また、このような高位の中隔に穴がある穿孔に対して左室側からパッチをあてて閉鎖すると三尖弁の腱索に縫合糸がひっかかり、術中、術後に三尖弁逆流を呈し、三尖弁の修復が必要になる可能性があります。

 最近はカテーテルによって運ばれたデバイスにより穿孔部を閉鎖するのに成功した報告もあり、次第に低侵襲な報告へ行くと考えられます。
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