横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

急性大動脈解離の病態

2018-04-07 11:30:51 | 心臓病の治療
急性大動脈解離 大動脈疾患の中でも突然死を起こすことのある疾患です。

 前触れなく突然大動脈の内膜に亀裂が入り、その亀裂から血液が大動脈壁の内膜と外膜の間を裂くように入り込み、最初の裂け目(エントリー)から上下方向にその裂け目が連続し、偽腔を形成します。避けて偽腔を形成した大動脈壁は弱くなって、大動脈圧に負けて拡大し、拡大した外膜が破裂して出血します。
 破裂して出血した血液が、心臓を包む膜(心膜)の中に貯留すると、心臓の動くが妨げられる心タンポナーデとなり、血圧低下からショックとなり、死亡する可能性が高くなります。この大動脈解離の病態の中で、死因の一位は心タンポナーデであり、死亡原因の7割とも入れています。
 そのため、上行大動脈に解離が及んでいるもの(Stanford A型)と及んでいないもの(Stanford B型)で分類しており、A型は上行大動脈の破裂が直接心タンポナーデに直結するために死亡率が高く、緊急手術の適応といわれています。一方、Stanford B型では心タンポナーデになる可能性は少ないため、緊急手術は行わず、薬物療法などの保存的治療の対象になります。

 上記の破裂以外に大事な病態として、大動脈の解離が心臓の近くのバルサルバ洞(大動脈基部)に及んだ場合、大動脈弁が変形して大動脈弁逆流を起こすことがあります。急性の大動脈弁逆流の発生は、急性心不全の原因となります。この程度がひどいと突然死の危険が高くなります。Stanford A型の場合は、上記の心タンポナーデと同時に大動脈弁逆流の有無は治療する上で非常に大事な情報となります。

 続いて大事な病態として、大動脈の分枝の閉塞による臓器血流障害(Malperfusion = マルパーフュージョン)があります。大動脈の分枝には冠動脈、頸動脈、腹部臓器を環流する動脈など多くの枝があります。解離によりこの分枝が閉塞した場合、たとえば、冠動脈が閉塞すると急性心筋梗塞、頸動脈が閉塞すると脳梗塞や意識消失、腹部分枝が閉塞すると腸管壊死、腎動脈が閉塞すると腎不全、下肢につながる腸骨動脈が閉塞すると下肢の壊疽などが起きます。分枝の閉塞は約1割の患者さんに発症するといわれ、脳虚血による意識障害で発生する人も全体の一割といわれています。

 また、次の病態として、大動脈解離に由来する全身の炎症反応(全身性炎症反応症候群 = SIRS:Systemic Inflammatory Responce Syndrome)があります。これにより原因不明の高熱が持続したり、炎症由来物質(サイトカイン)が肺に障害を与えて呼吸不全を起こしたりすることもあります。

こうした病態を理解して、その病態に個別に適切に対処することが救命率を向上することにつながります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする