横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

自己心膜による僧帽弁葉の拡大=Augumentation

2018-04-01 10:38:45 | 心臓病の治療
 僧帽弁逆流の原因として、腱索の断裂や延長による弁葉の逸脱に関しては、切除+縫合、もしくは人工腱索による弁葉の逸脱の適正化によって逆流が制御されます。弁輪の拡大に対しては、人工弁輪などによる弁輪の縫縮により逆流制御が可能です。

 しかしながら、心筋疾患による左室の拡大が原因で、弁葉、腱索が一塊になって左室内に落ち込んでしまう病態=Tethering/テザリングの場合は、弁輪の縫縮だけでは、左室内に牽引される方向が変わって逆流の再発が多いと言われます。そこで、乳頭筋の近接(Approximation)による前後の乳頭筋先端をあわせることで、乳頭筋と僧帽弁の距離を短縮してテザリングを軽減する方法が有効と言われています。前後の乳頭筋の先端を二等辺三角形の頂点、もう一方の頂点を僧帽弁前尖の中央部(A2)に見立てた場合、乳頭筋の先端を合わせると、二等辺三角形の辺⇒二等辺三角形の高さに距離を縮めることができ、この短縮効果によってテザリングを軽減されるという理屈です。他に、乳頭筋の先端から僧帽弁輪にゴアテックスの糸をかけて乳頭筋を僧帽弁方向へつり上げる方法も有効と言われています。
 また、弁尖が左室内に落ち込んで、そのせいで前尖と後尖の間に隙間が空いて逆流が起こるのは、弁葉の面積が小さいことも関連していることから、自己心膜をパッチ状に使用して前尖(もしくは後尖)の面積を拡大する方法=Augumantationも有効性が言われています。一般には後尖のAugumantationが今まで紹介されてきましたが、前尖をAugumantationした方がTetheringには有効のようです。後尖は極端に言うと無くなっても、前尖の面積がしっかり弁口をふさげば逆流は防止できるのです。要は前尖の面積が十分あることが逆流の制御には重要といえます。また拡大した左室を縮小させることで乳頭筋と僧帽弁輪の距離を短縮する左室形成術も症例によっては有効です。左室形成術は、乳頭筋ー僧帽弁距離を短縮するというコンセプトで考えると、心尖部の位置をより僧帽弁側に移動させるようにデザインするSAVE手術がより術後の心機能を考察された形態と思われます。

 こうした症例は左室機能の低下していることが多いため、大動脈遮断して心停止して行う通常の心臓の手術には耐えられない可能性もあるため、心拍動下に行ったら血流遮断しないで心室細動下に行う方法も検討する必要があります。心拍動下や心室細動下に行う心臓手術は視野の確保が難しいことも予想されます。大動脈弁逆流がある場合は、やはり大動脈遮断しないと視野はとれなくなる可能性が高くなります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする