患者さんが手術に関して不安に思う事の一つが術後の疼痛です。人間の体は部位によって同じ刺激に対しても痛みの感じ方が違うし、創の治り方も違います。術中は全身麻酔によって全く痛みを感じない状態での手術になりますが、術後は痛みゼロというわけにはどうしてもいきません。
心臓血管外科で扱う手術創は、大きく分けて①胸骨正中切開、②側方開胸、③腹部正中切開、④腹部斜切開、⑤下肢の手術創(静脈採取、下肢バイパス)があります。
この中で最も痛くない創があるとすると、胸骨正中切開の創部と下肢の手術創でしょう。胸骨正中切開では胸骨を縦断しますが、術後はステンレスのワイヤーやチタンやハイドロキシアパタイトのプレートを使って固定されるので安静にしているときは痛みを感じず、体動や咳のときに痛みや刺激を感じる程度だとおっしゃる患者さんが多いです。または、鎮痛薬を内服すれば全然我慢できる程度、とおっしゃる方がほとんどです。過去にの痛み自体を経験が少ない若い患者さんの場合は痛みの訴えが強いことがあります。もしくは若い人ほど痛みに関する神経が敏感なのだと思います。
腹部正中切開の傷も胸骨正中切開の創よりは笑ったりすると、腹筋が刺激されたりするため胸部よりも痛いとおっしゃる患者さんが多いです。冠動脈バイパス手術と腹部大動脈瘤など、胸部の手術と腹部の手術を二回受ける患者さんも少なくないので、どちらが痛いかと聞いてみると、ほとんどが腹部より胸部がいたくないとおっしゃいます。
意外に痛いとおっしゃるのが側方開胸の創です。やはりこれは痛みに敏感な肋間動脈の領域の創部になるので、どうしても神経繊維が極めて少ない正中部の創に比較して強く疼痛を自覚されてしまう傾向にあります。最近増加している小開胸の低侵襲手術(MICS=Minimally Invasive Cardiac Surgery)においても、創は小さくても疼痛がないわけではありません。皮膚切開は小さくても内部の肋間筋の剥離は比較的に広範囲になっていることが少なくありません。
腹部斜切開、下肢の創部について、今まで痛みについて患者さんの訴えをあまり聞いたことはありません。
ほとんどの手術創について、「痛いですか?」と質問すると、ほとんどの患者さんは、「痛み止めを飲めば我慢できる程度です」とおっしゃいます。
横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも、術後の疼痛対策として特に重視するのは、痛みを強く感じやすい若い患者さんと側方開胸の患者さんです。側方開胸には冷凍凝固装置を使用して肋間神経ブロックを行っています。神経ブロックがうまく効いていると、創部周辺の知覚鈍麻がのこりますが、全く痛くないとおっしゃる患者さんもすくなくありません。腹部正中切開には局所麻酔薬による局所神経ブロックや硬膜外麻酔による疼痛管理を行っています。術後は患者さんの痛みにあわせて鎮痛薬の内服をしてもらいますが、定時で内服する必要がある患者さんは多くありません。