横須賀うわまち病院心臓血管外科

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腹部大動脈瘤と冠動脈バイパス術の同時手術

2020-10-07 16:02:44 | 心臓病の治療
 腹部大動脈瘤には冠動脈疾患が合併する可能性が30-50%あると言われ、実際に冠動脈に術前検査で狭窄病変などが見つかりカテーテル治療や冠動脈バイパス術が必要になる患者さんは10-30%います。胸痛や胸部圧迫感などの胸部症状がなくとも、無症候性の心筋虚血が見つかることが多いため、腹部大動脈瘤が見つかった人には必ず冠動脈CTや冠動脈造影で精密検査を術前検査として行います。日本ではそうした対策によって腹部大動脈瘤の手術死亡率は非常に低いものとなっておりますが、海外での腹部大動脈瘤の人工血管置換術の死亡率は、たとえばイギリスなどでは5%と日本の5倍以上と聞いたことがあります。最近はこの手術成績が改善した可能性はありますが、その高い手術死亡率の原因として周術期の心筋梗塞が多いと考察されている論文を読んだことがあります。それを根拠に昔から腹部大動脈瘤の術前検査として冠動脈評価が重要である、と教育されてきました。

 実際に冠動脈疾患が見つかった腹部大動脈瘤の患者さんの多くはカテーテル治療を大動脈瘤手術の術前、もしくは術後に行っていますが、カテーテル治療の場合の多くは現在主流の薬物溶出ステントを留置することになるので、2剤の抗血小板薬をしばらく内服する必要があり、大動脈瘤手術の時期に影響が出る可能性があります。当医局の教授がかつて執筆した論文では6cm以上の腹部大動脈瘤に関しては、カテーテル治療を先行することの大動脈瘤破裂リスクが上昇する可能性があるので冠動脈バイパス術との同時手術を検討することが必要と結論しています。

 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では積極的に低侵襲心臓手術を実施しており、冠動脈バイパス術の35%に左小開胸アプローチでの冠動脈バイパス術を実施しています。腹部大動脈瘤の術前検査で冠動脈病変、特に左前下行枝など主要分枝の閉塞を伴っている場合は、この低侵襲心臓手術と腹部大動脈瘤の人工血管置換術もしくはステント留置術を同時に行うことで二回の全身麻酔を回避することができ、しかも低侵襲心臓手術によって、腹部大動脈瘤手術そのものとおおきな侵襲の差が無く実施することが可能です。

 実際に腹部大動脈瘤と同時に実施するかどうかの条件はありますが、より短期間の入院、少ない入院回数で治療可能な方法として、症例によってはメリットの大きい治療選択と考えます。
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