人工心肺を使用しない心拍動下冠動脈バイパス術 = オフポンプCABG(通称 OPCAB)では、心拍動下に冠動脈を切開して吻合する際に、出血に対していくつかの工夫をして実際の吻合を行っています。
この工夫とは
① 内シャントチューブを挿入
② 炭酸ガスを吹きかけて血液を飛ばす
③ 中枢側をスネア(閉鎖) = クリップで閉鎖、または、リトラクトテープなどの牽引糸をかけて牽引
などをいいます。
来月行われる冠動脈外科学会(金沢市)では、そのうちの、内シャントチューブに対してのシンポジウムが行われるようで、筆者はその中の指定縁者を頼まれています。
実際には国内では4社の製品があるらしく、横須賀市立うわまち病院では、そのうちで内部にスプリングが入った構造の製品を全症例に使用しています。この製品に関して国内で三番目に多く使用しているからという理由で当施設が指定縁者に選ばれたようです。内シャントチューブは、施設によっては全く使用しないところも最近は多いようですが、自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科医局のグループでは一貫して、前下行枝の吻合の際は、原則使用しています。その他の部位の吻合の際には、中枢側の遮断のみを行うことが多いのですが、噴出する出血を減少させて視野を確保する目的で使用することがあります。
この内シャントチューブ、内部に血流が通るようにチューブ状の構造をしていて、吻合中の末梢への血流を少しでも確保して、吻合中の血行動態を安定させ、また切開口から噴き出す血液を減少させて、吻合の視野を確保する目的で使用します。より大きな口径のチューブの方が末梢への血流がより確保されますが、大きい口径のものは、実際の血管の内面との隙間がなくなり、血液の漏れがなくなる一方、その間隙に縫合針を挿入して吻合する操作に邪魔になります。かといって、実際の内径よりもかなり小さい口径のものを挿入すれば、吻合はやりやすくなる一方、隙間から噴出する血液が多くなり、視野が悪くなり、出血量が多いと輸血が必要になったり、凝固因子や血小板が失われて止血困難に陥るリスクも増えます。
内シャントチューブのほぼ中央部には、糸が結び付けられていて、その末梢にタグが装着されています。これによって、内シャントチューブが誤って血管内に入ったり術野などに落下して見失うリスクがなくなります。また、このタグおよび糸を牽引することにより吻合中の微妙な視野や針を刺入する冠動脈壁を調整することが可能です。
製品の特長として、万が一、血管吻合の際にこの内シャントチューブに針糸が貫通してしまったまま吻合してしまっても、8-0ポリプロピレンの糸よりも弱いため、糸を牽引する、もしくは内シャントチューブを牽引すると、内シャントチューブの方が裂けて、糸は切れずに除去することが可能です。
かなり冠動脈の吻合に関するニッチな部分のディスカッションが行われることになると思いますが、冠動脈外科学会ならではのいかにも専門性の高い、マニアックなシンポジウムになりそうです。