横須賀うわまち病院心臓血管外科

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第180回 日本胸部外科学会関東甲信越地方会

2019-06-14 05:38:20 | 心臓病の治療
 胸部外科学会の第180回関東甲信越地方会が都内で6月8日開催されました。
 横須賀市立うわまち病院からは2演題を発表しました。

① 左肺上葉切除後で高度の胸郭変形を伴う遠位弓部大動脈嚢状瘤に対し、ALPSアプローチで瘤切除+パッチ閉鎖術を行った1症例報告
 これは80代の男性の嚢状大動脈瘤に対して、左肺上葉切除後のため弓部大動脈全体が左肺尖部に偏移して癒着、固定化された症例に対して、瘤の部分切除、パッチ閉鎖した症例の手術中の工夫について発表したものです。ALPSアプローチは、Antero-Lateral Thoracotomy + Partial Sternotomyの頭文字をとった開胸方法で、これにより正中切開と側方開胸の両方のメリットを享受でき、術後の胸郭固定も安定していることが特徴のアプローチ方法です。肺尖部に固定化された今回の症例では、このアプローチ方法でしか、治療不可能であり、また大動脈全体が胸壁に固定され受動できないため、視野的にパッチ閉鎖しか方法がなかった症例です。術後経過良好で退院され、その後の再発も現時点ではありません。
 発表においては、胸骨正中切開で通常の弓部大動脈置換のつもりでアプローチしたらどうか、という質問があったようですが、今回は左肺の胸郭形成後、左肺上葉切除後であり、その肺がなくなったスペースに弓部大動脈が異常に偏移し、しかも強固に癒着して受動できないため、胸骨正中切開ではアプローチ不能と判断し、左前側方開胸か、それに胸骨部分切開を組み合わせたALPSアプローチかで悩んだ症例でした。最終的には弓部大動脈置換を行うのに有利なALPSアプローチを選択しましたが、結果的に瘤切除+パッチ閉鎖となったことを考えると、左第3肋間での前側方開胸のアプローチが最も低侵襲だったとも思われます。その胸腔側に弓部全体が落ち込んで肺尖部に癒着したようなわかりやすい画像を提示できればもっとわかりやすかったと思います。

② 永久気管瘻のある左主幹部狭窄を含む不安定狭心症に対して左開胸アプローチで冠動脈バイパス術を行った1症例報告
 永久気管瘻がある場合は、通常のアプローチ方法である胸骨正中切開を行うと癒着した永久気管瘻が裂ける、また縦隔炎を発生するリスクがありますが、左開胸(第5肋間)を採用することでこれを予防できます。最近のMICS-CABGのアプローチでは、これが可能で、9cmほどの皮膚切開から、専用の開胸器、牽引システムを使用して左内胸動脈を剥離し、心拍動下に冠動脈の再建のための血管吻合を行います。今回の症例は、前下行枝、回旋枝、後下行枝と3枝の血行再建を行いましたが、回旋枝(側壁)、後下行枝(下壁)の視野不良の為、第5肋間の小開胸を延長して、肋骨弓を離断することで、創部を拡大し、心臓全体を観察できるように術野を露出し、容易にオフポンプCABGを実施することができた症例の報告。術後経過良好で、左開胸手術が回復が特に速いため、7日目に退院できました。

③ 筆者は、弁膜症のセッションの座長を依頼されました。
 この弁膜症のセッションは感染性心内膜円の症例報告をあつめたセッションで、術式の工夫など非常に参考になる外科医の腕の見せ所を勉強するいい機会になりました。議論が尽きないような、特殊な治療症例ばかりであっという間に時間が過ぎましたが、フロアからも活発な討論があり、盛り上がったセッションだったと思います。
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