人工弁置換術には、弁の留置の仕方によって、Supra-annular position, Intra-annular positionがあります。これらは、より組織が切れにくいマットレス縫合の際の縫着方法で、糸のかけかたが左室側から入れるか、左室側に向かって入れるのかによって、弁輪の上に弁座が乗るのか、弁輪の中に弁輪が反り返るような形態をさせながら逢着するのかの違いがあります。その中間的なポジションとして、単結節の糸で逢着する方法もあります。
大動脈弁のとくに狭小弁輪には最近は、より大きめの弁が入るSupra-annularの方が多用されます。
僧帽弁の場合は、日本ではIntra-annularが多く採用されるのに対して、アメリカではSupraがおおいようです。最近の新しい僧帽弁用の生体弁ではSupraに縫着することを前提にデザインされたものもあります。
一方、僧帽弁置換術においては術後遠隔期の弁周囲逆流は散見され、実際にそうした患者さんの再手術を行なったことは何度もありますが、この場合の多くの原因として初回手術に縫合糸をかける位置が弁輪組織からはずれていたり、組織が異常に脆弱な症例であることがあげられます。
大動脈弁置換術後遠隔期に発生する弁周囲逆流の中で、人工弁感染が発生して、縫着した組織が破壊されて崩れるという可能性はあり得ますでの、そうした症例に遭遇した場合は、まずは感染を疑います。
大動脈弁置換術後に定期的なフォローアップ検査を行なう目的は、人工弁そのものが機能不全に陥っていないかのチェックだけではなく、弁座の動揺や弁周囲逆流といった人工弁輪縫着部位に発生するトラブルを検出することにもあります。