横須賀うわまち病院心臓血管外科

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新しい心不全の分類と心不全パンデミックに対する医療面での社会的対応

2018-04-22 07:59:10 | 心臓病の治療
日本では高齢者の増加による心不全の増加が社会問題になるといわれています。すでに国内に100万人以上の心不全患者さんがおり、人口が減少するにもかかわらず2035年くらいまでは増加するといわれています。
そこで、心不全をより循環器の専門でない人にもわかりやすく、取り扱いやすくするために新しいガイドラインでは心不全の分類を変えて治療薬の観点から変更しています。

① 左室駆出率が低下した心不全  Heart Failure with Reduced Ejection Fraction = HFrEF ヘフレフ  EF(左室駆出率)40%以下
② 左室駆出率が維持された心不全 Heart Failure with Preserved Ejection Fraction = HFpEF ヘフペフ  EF       40%以上
 心筋の元気さが残っているのか、落ちているのかで心臓の病気を分類する考え方のようです。ヘフレフとかヘフペフとか、最初は、いまはやりのモフモフとかフワトロとかと同じ擬態語かと思ってしまいました。

 ヘフヘフなのかヘフペフなのか、心臓血管外科医としては一見とっつきにくく、しかも言いにくい。確かに病態を反映するけど、外科治療の選択肢としては、たとえば弁膜症なのか、虚血なのか、それとも心筋疾患なのか、という病気としての疾患概念が非常に重要であるため診断名が気になるところです。学生のころから、心不全は病名ではなく、病態を表す言葉だ、と指導されてきました。最近は循環器内科の先生たちも、患者さんに遭遇すると、「HEpEF CS1で利尿剤を投与して軽快しました(CS1とは肺水腫の病遺体を呈している心不全、だそうです。CS=Clinical Scenariohaは患者さんの病態をあらわす身体所見で分類しています)」などとカンファレンスで言っていて、意味が分からなかったりしておりましたが、これは病名や心不全の原因の診断よりも、心不全の病態が一時的に改善すればそれでよい、その後再入院しなければ一時的にはそれでよい、という概念からきているように感じました。患者の数が今後増加するので、すべての心不全患者に診断をつけることはせず、水際で利尿剤で制御したりして、入院を抑制し、根治治療にもっていく患者さんの割合を減らしてパンデミックに対応するということなのだ、と昨日の都内でのトリバプタンの講演会を聞いていて思いました。
 心不全が今後爆発的に増加することに対して、インフルエンザや新しい感染症が大流行するときの医療の社会的対応と同じように、質以上に数・面で取り組むための対応といえますが、「大動脈弁狭窄症で左室収縮が低下し、肺水腫で入院しました」などと病名を先に言ってほしい心臓血管外科専門医にはちょっと寂しくも感じますが、今後25年は患者さんが増加し続ける意味ではまだまだ社会に求められる点が多いというのも事実かと思います。
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