コードブルーの主人公の山ピーがドラマでやっているような、外傷患者に対して行う下行大動脈遮断。遮断した瞬間に血圧が回復して劇的な救命が可能になる。実際にこのシーンにあこがれて、救急医を目指すという人が多いように思います(実際の救急医のドクターは100%否定しますが・・・)。その証拠に、外傷に対する下行大動脈は、救急医の中では武勇伝のように語られ、それでもし救命したのであれば、まさにレジェンドとなります。
実際に下行大動脈を遮断して救命が可能となるのは、腹部大動脈瘤破裂の症例で、しかも手術室の中という環境に限られるのではないでしょうか。腹部大動脈破裂では、破裂部位の上流で大動脈を遮断する必要があり、通常の開腹アプローチでは血腫や、破裂による出血の勢いでその上流にアプロ―チできない場合は、直接瘤の上流の正常部分に到達できないため、同じ開腹創からの場合は、胃の頭側にある小網をあけて腹腔動脈の上流で横隔膜脚のレベルで遮断するか、または左開胸して下行大動脈の横隔膜上の部分を遮断するかに限られます。小網をあけて腹腔動脈上を遮断するのに数分で到達可能ですが実際に出血を手で圧迫していて手が離せないような状況では不可能であり、この場合は別創の左開胸アプローチが唯一の上流遮断です。左第5~6肋間で10cmほどの皮膚切開で開胸し、手をいれて下行大動脈をつかみ、Debakey鉗子で盲目的に遮断します。この下行大動脈遮断で注意が必要なのは、盲目的操作のため肺や周囲組織の副損傷が起きたり下行大動脈が解離したり、開胸部の肋骨や肋間動脈からの出血の制御に難渋したりすることがあることです。また、テーピングしてしっかり大動脈を把握して遮断する訳ではないので、遮断鉗子が容易にずれることもあります。また、上位の大動脈遮断によってそれより下位の大動脈分枝の血流が遮断されるため、長時間の遮断は臓器虚血のリスクがあります。特に脊髄、腎臓などの虚血による対麻痺や腎不全が術後に見られる可能性があるので、通常は大動脈瘤の直上に出来るだけ短時間のうちに遮断鉗子をかけなおす、または大動脈切開して上流部に大動脈閉塞用バルーンや尿道カテーテルを挿入して遮断する必要があります。皮膚切開から下行大動脈遮断までの時間は通常5分ほどですので、腹腔動脈上遮断と同様に緊急時に容易に到達可能な大動脈遮断方法です。
この下行大動脈遮断によって腹部大動脈瘤破裂の症例を何度も救ったことがありますが、他の疾患や外傷性出血に対して救急外来で開胸し下行大動脈遮断しても、次の止血などの処置がうまく行かないと意味がありません。心臓血管外科医が下行大動脈遮断するのは、その手技によって救命の可能性があるからであって、コードブルーの山ピーのようなドラマのシーンを再現するような場面は通常はありません。下行遮断したことでその場は救命した患者さんをみて、スタッフに山ピーみたい、って言われたことがあるので、このような記事を書いてみました。
腹部大動脈瘤破裂の症例はその場は救命できても、その後の多臓器不全、腹部コンパートメント症候群など種々の病態を乗り越えないといけません。手術室から生還しても、まだまだ油断はできません。
実際に下行大動脈を遮断して救命が可能となるのは、腹部大動脈瘤破裂の症例で、しかも手術室の中という環境に限られるのではないでしょうか。腹部大動脈破裂では、破裂部位の上流で大動脈を遮断する必要があり、通常の開腹アプローチでは血腫や、破裂による出血の勢いでその上流にアプロ―チできない場合は、直接瘤の上流の正常部分に到達できないため、同じ開腹創からの場合は、胃の頭側にある小網をあけて腹腔動脈の上流で横隔膜脚のレベルで遮断するか、または左開胸して下行大動脈の横隔膜上の部分を遮断するかに限られます。小網をあけて腹腔動脈上を遮断するのに数分で到達可能ですが実際に出血を手で圧迫していて手が離せないような状況では不可能であり、この場合は別創の左開胸アプローチが唯一の上流遮断です。左第5~6肋間で10cmほどの皮膚切開で開胸し、手をいれて下行大動脈をつかみ、Debakey鉗子で盲目的に遮断します。この下行大動脈遮断で注意が必要なのは、盲目的操作のため肺や周囲組織の副損傷が起きたり下行大動脈が解離したり、開胸部の肋骨や肋間動脈からの出血の制御に難渋したりすることがあることです。また、テーピングしてしっかり大動脈を把握して遮断する訳ではないので、遮断鉗子が容易にずれることもあります。また、上位の大動脈遮断によってそれより下位の大動脈分枝の血流が遮断されるため、長時間の遮断は臓器虚血のリスクがあります。特に脊髄、腎臓などの虚血による対麻痺や腎不全が術後に見られる可能性があるので、通常は大動脈瘤の直上に出来るだけ短時間のうちに遮断鉗子をかけなおす、または大動脈切開して上流部に大動脈閉塞用バルーンや尿道カテーテルを挿入して遮断する必要があります。皮膚切開から下行大動脈遮断までの時間は通常5分ほどですので、腹腔動脈上遮断と同様に緊急時に容易に到達可能な大動脈遮断方法です。
この下行大動脈遮断によって腹部大動脈瘤破裂の症例を何度も救ったことがありますが、他の疾患や外傷性出血に対して救急外来で開胸し下行大動脈遮断しても、次の止血などの処置がうまく行かないと意味がありません。心臓血管外科医が下行大動脈遮断するのは、その手技によって救命の可能性があるからであって、コードブルーの山ピーのようなドラマのシーンを再現するような場面は通常はありません。下行遮断したことでその場は救命した患者さんをみて、スタッフに山ピーみたい、って言われたことがあるので、このような記事を書いてみました。
腹部大動脈瘤破裂の症例はその場は救命できても、その後の多臓器不全、腹部コンパートメント症候群など種々の病態を乗り越えないといけません。手術室から生還しても、まだまだ油断はできません。