こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

だましだまされる

2014年11月23日 10時32分38秒 | おれ流文芸
「お客さん。着いたよ」
 運転手の声が、夢世界を遊んでいた頭を少し蘇らせた。タクシーに乗り込む前からしっかりと握り締めていた千円札を前方に突き出した。
「これで足りる?」
「あ、どうも。えー、よれよれだよ。これだから……」
 運転手のぶつぶつ言う声が耳に入る。
「すみません。酔ってて」
「いや、ええですよ。はい、有難うございました。二百五十円のお釣り」
 少しでも早く迷惑なお客とおさらばしたいのが、ありありだった。
 Uターンしたタクシーが立ち去る。尾灯を見送ると、またしても酔いが頭を擡げた。
 フラフラと足を前に運んだ。いくら酔っていても、自分が住むアパートは間違わない。不思議だが、いつもそうだった。
 神納壮之は元より酒に強くない。相手に勧められない限り、自分から呑む方ではない。ただ勧められると、断れない。おかげでここ数日は度を越してしまった。今夜も正体不明になる寸前まで呑むはめに陥った。
 借りている部屋は二階の一番端にある。錆の目立つ鉄の階段を覚束ない足元で上った。
「あ?」
 薄暗い通路の行き止まりに黒い影があった。壮之の部屋に背を寄り掛からせている。顔が陰になって誰かは分からない。
「……うちに用事があるのかな?」
 ちょっと冗談めいた口調で訊いた。酔いで体がふらつくのを止められない。
「遅いのう。いったい何しとんのや」
 聞き覚えがあった。しかし、深酔いした頭でピンと来るのは無理な話である。
「遅い?他人に言われる筋合いはあらへんわ。遅かろと早かろと、カラスの勝手…でしょ。ん?お宅、誰やいね?」
「あほ!人の顔も分からんまで飲みくさってからに。早よ鍵を出さんかい」
「鍵?……ああ、鍵ね。鍵なら、ここに……ちゃんとあります!」
 壮之がポケットから引っ張り出した鍵を、男は無言で引ったくった。
「あ!何すんねん」
「ぼけ。少しは人様の迷惑を考えんかい。大声出しくさってからに。さあ、さっさと部屋に入れ!」
 壮之は体を抱えられて、やっと相手の正体を知った。
「おやじ?」
「そうや、わしや。やっと分かりくさったわ?この親不幸もんが」
「……い、いつ出て来たんや?」
「もう、話は後や。さあ、入れ!」
 放り込まれた壮之は、玄関口にしゃがみ込んだ。瞬間、彼の意識は別世界に飛んだ。
「ほんまにだらしない奴や。こんな生活しとるんやったら、田舎へ連れて帰らなあかんわ」
 壮之の父親、耕三は一人呟いた。壮之は幸せそうな高鼾をかいている。

けたたましい目覚まし時計に壮之は叩き起こされた。半身を起こした壮之の目に、胡坐をかいて睨みつける父の姿が飛び込んだ。いっぺんにしゃんと意識が戻った。
「……やっぱり……夢やなかったんか?」
「下らんこと言うとらんと、さっさと起きんかい。もう八時になるぞ」
「勘弁してや。まだ早いわ」
「ええ加減にせんかい!この道楽者が」
 耕三はかけ布団をめくり取った。
 朝食が用意されていた。昔は飲食店をやっていた耕三にはお手の物だった。白いご飯に味噌汁と納豆、法蓮草のお浸しにハムエッグと食卓に並んだ。
「どうせ朝飯などまともに食っとらんのやろう。来る時に食材を持って来といたんじゃ。今朝はちゃんと食え」
 まるで母親の言い分である。仕方がなかった。壮之の母は彼が十二歳の時に亡くなった。以来、耕三が二役を器用にこなして来た。
「今日は、わざわざ何の用なんや?」
 納豆を捏ねながら、壮之は訊いた。大よそ見当は付いている。つまりは念押しだった。
「お前に、ええ話があるんや。別嬪さんやぞ」
 やはり!耕三は二時間以上かけて兵庫県からの来阪だ。何か魂胆があって然るべきだった。これまでの来阪も縁談話だった。
「四十近い男が女っ気なし。放っておけるかい。いい加減に所帯持ってくれんと、わしゃ死ねんで。それにのう。今度の相手は、初婚じゃ。二度とないぞう」
「初婚でも出戻りでも同じや。断ってくれたらええが。俺は俺でちゃんとやってるさかい。約束してる女も、ちゃんとおるわい」
 壮之は意思に反したデカい口を叩いた。
「夕べのザマを見せられて信じれるかい。仕事かて、なんや訳の分からんケッタイなモンしくさって。田舎で百姓やっとる方がまだマシやわ」
 壮之は舞台製作の個人会社で働いている。注文に応じて、ドロップ幕に背景を描き、装置を仕上げ、照明のプランを練る。自分では、いっぱしの舞台屋を気取っている。他にアルバイトをしなければ暮らしていけない収入しかないが、プライドだけは人に負けないものを持っている。
「おやじに俺の仕事は分からん」
「あほ抜かせ。ちゃんとした稼ぎものうて、寄ってくる物好きな女はおらんやろ」
「ちゃんとおる」
「ほな、わしに会わせてみい、ほんまにおるんやったらな」
「ああ。会わしたるわい、いつでも」
 売り言葉に買い言葉である。壮之は抜き差しならぬ立場に追い込まれた。耕三に付き合っている女を紹介する方向に話は進んだ。

「おやじを納得させて田舎に帰さなあかん。ええ知恵ないか?」
 壮之が相談を持ちかけたのは、旧知の湧永浩志。アマ劇団オスカのリーダーである。オスカの公演に関する製作面は壮之の会社が丸ごと引き受けている。直接劇団と接するのは、壮之の役割だった。五年以上の付き合いになる。湧永とは、もうツーカーの仲なのだ。
「しゃーないなあ。壮ちゃんの頼みや、何とかするか。うちの女の子に芝居させたるわ」
「そうか。恩に着るで」
「それで、どの子がええ?壮ちゃんの恋人やからな。好みの相手やないと、失敗するで。あのおやじさん。しっかりしとるから、そう簡単に引っかからんぞ。ぬかりのないように手筈を整えるんが先決や」
 湧永は面白がっている。前に来阪した耕三を誘って、湧永を含めた三人で居酒屋に行った。呑み助の耕三と湧永は芋焼酎を呑みあって意気投合。だから、耕三を割と理解していた。
「相沢有紀ちゃん、どないやろ?あの子、やって呉れるんやったら、頼んでーな」 劇団オスカの舞台装置を製作するたびに、いつも手伝ってくれる有紀。公演では、ほんの端役ばかりだが、生真面目に取り組んでいる姿には好感が持てた。平凡な顔立ちだが、女性らしい優しさをちゃんと持ち合わせている。話も気も結構合う相手だ。個人的に外で会いたいと思ったりもするが、どうも気後れして行動に移せずにいる。断られるのが怖いのだ。
「へえ。有紀ちゃんねえ?ええ選択肢やがな」
 湧永は意味ありげにほくそ笑んだ。

「はじめまして、相沢有紀です。神納さんに、いつもよくして頂いてます」
 何の打ち合わせも出来なかったのに、有紀は巧みに耕三と接した。さすが劇団員である。
 口だけではない。交際の深さをそつなく見せた。有紀は壮之の部屋のキッチンに立った。手際よく食事を用意する。今時のメニューではない、ちゃんとした家庭料理だった。
「得意なのは煮っころがしで、シチューやグラタン好きじゃないから。完全におばあちゃんなんですよ、わたし」
 有紀の控え目な説明に、耕三の顔は綻んでいる。気に入ったらしい。「旨い旨い」と平らげては、機嫌よく饒舌になった。
「なんで、もっと早う紹介してくれなんだんや。ええ娘さんやないか」
「ま、まあな。安心したやろが」
 ホッとした。これで耕三は家に帰ってくれるだろう。
「そいで結婚はいつする?」
「え?」
 壮之はわが耳を疑った。
「結婚式や、結婚式。なんやったら、わしがすぐ手配したる。ええな?」
 思わぬ方向への矛先に壮之は慌てた。
「ま、待ってや。結婚は……彼女の方の考えもあるさかい。いくら俺がその気になっても」
「あほ。はっきりせんやっちゃなあ。のう、有紀さん。はよ一緒になりたいやろが」
 いきなり問われた有紀は顔を赤らめた。彼女のはにかみぶりが、壮之には意外だった。
「見ろ、壮之。有紀さんは、その気やないか。まかしとけ、段取りはわしが進めたる」
「あ、あの……?」
 強引な父親に、壮之は口あんぐりとなった。

「はははは。そいつは愉快や」
 湧永は腹を抱えて笑った。他人事だから笑っていられる。
「有紀ちゃんに迷惑かけてしもてからに」
 壮之は口を歪めて、珈琲を啜った。
 同じ年代なのに、湧永は女性にモテる。ちゃんと家庭を持ちながら、ほかに何人もの女友達がいる。実に不公平極まりない。
「実はな、壮ちゃん」
「何や?」
「お前、有紀ちゃん、どない思うてる?」
「え?」
 湧永はにやりと笑った。
「あの話、お前の親父さんも承知の上なんや。頼まれてなあ、断れなんだ。それでお前が心憎からず思てる相手を選んだんやけどな。間違うてなかったやろ、有紀ちゃんで。あのなあ。有紀ちゃん、お前、いい人やて言うてたぞ。ありゃあ、お前に好意を間違いなく持っとるわ」
 壮之はまたしても言葉を失った。騙しているはずが、騙されていたのは、自分だった。
「済みませんでした。私……」
 有紀が部屋の入り口から顔を覗かせた。彼女もすべてを心得た上でのお芝居を……いや、嘘のない行動を見せた訳だ。正直どう思っているのか?彼女の口から訊きたい。
「さあ、どないする?男の決断、見せてみろ」
 湧永は真剣な顔に変わった。もう冗談は終わったのだ。湧永を見やり、次に有紀に目を移した。優しく相手を思いやる笑顔はいつもと同じ。彼女の魅力が手の届くところにあった。壮之は拳を握りしめた。覚悟は決まった。
「こんな僕でもええんか?」
 声が少し上擦っている。我ながら情けない。
 有紀が頷いた。瓢箪から駒が出た。騙したつもりで騙された。それで幸運を手繰り寄せた。これが「結果オーライ!」てヤツだ。

 田舎の道は、壮之が大阪へ向かったあの日のままだった。両脇に広がる田圃は、黄金色の稲穂が波打っている。じきに収穫だ。
「すごい田舎で、ビックリしたんちゃうか?」
「ちっとも。神納さんが、ここの風景にピッタリなんに感心してるんよ」
 壮之は思わず表情を崩した。彼女といると、不思議に優しくなる。耕三は息子の変化を決して見逃すまい。そして笑って茶化すだろう。
「騙されて得するヤツがおるんやのう」と。

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畔焼き日和

2014年11月22日 01時33分25秒 | おれ流文芸
背丈程度の長さに切った青竹の節を、鉄筋を突っ込んで抜いた。スポン、スポンと小気味よく作業は進んだ。即席のタンクを作るのだ。まだ時間は十分ある。慌てる必要はない。
 傍に用意しておいたコーヒーカップから湯気が漂っている。青竹を転がすと、カップに手を伸ばした。凍えた体に暖かい珈琲は格別だ。フーッと溜息をついた。
 笠松雄基は今も気が乗らない。村の行事に参加しないのは拙いと思う。それでも参加した先を考えれば気が重い。悩みを振りきるかのように頭をブルッと振った。残りの珈琲を一気に呷ると、両手を叩き合わせた。前向きになれぬ気持にハッパをかけたのだ。
 作業の続きにかかった。節を抜いた青竹に灯油を注ぎ込む。こぼれないようにと息を止めた、慎重に灯油缶を傾けた。コプコプと流れ込む灯油をジーッと見詰めた。よく見ていないと溢れ出すのに対処できない。何にしても竹を使った簡易タンクの容量は小さい。次はぼろ布をねじり込んで栓の役割と同時にタイマツ状に仕上げる。すぐに灯油は布に滲みこむ。これで用意は万全だった。
「お~い!おるか?」
 納屋の入り口に兄の忠志が立っていた。既に加工済みの青竹を二本余分に抱えている。
「なんや。自分も作ってたんか?」
 どうやら弟の分も用意したらしい。いつも雄基を気にかけてくれる兄だった。
「ああ。どうや、これやったら通用するやろが」
「うん。ほな出かけるか?」
「もうそんな時間になってるんか?」
 時計を見ると、確かに十二時を過ぎていた。空腹を感じなかったのは作業に集中していたせいだ。畔焼きは一時に開始である。
「マッチあるか?」
「ああ、ライターを持ってる」
「さすがソツがないのう」
 忠志はニヤリと笑った。雄基も応じて笑った。久しぶりの兄弟による阿吽の呼吸だった。
 畔焼きは毎年二月に入った早々の日曜日に行われる。昔と違って休日でないと村の行事は立ち行かない。午前中は雑草に露が下りている可能性があるので、昼過ぎの一時から畔焼きは開始される。この日を契機に村の田圃作りは本格的に始まる。
 忠志は弟を伴って二百メートル下ったところにある笠松家所有の田圃に向かった。畔焼きは始まりの集まりはせず、てんでに所有田畑の畔を焼き始めていいのだ。村のあちらこちらから畔の枯草を焼きながら奥へ移動する。最後は全員が顔を揃えたところで、村の一番奥まったところにあるため池の土手の枯草を一斉に焼く。その段取りは昔から少しも変わらない。
「さあ、やるか?」
「ああ」
 雄基はライターで青竹のタイマツに火を点けた。灯油が染み込んだ布にゆっくりと炎が生まれた。横を見ると、忠志は枯草に対峙している。手慣れたものだ。勾配のついた畔の下側にタイマツの炎を走らせる。枯草に火が移ると、あとは勝手に火が蛇みたいに下から上に向かって舐め上げてくれる。忠志はもう雄基を振り返らなかった。火を扱うには集中しなければ危険が伴うのだ。長年畔焼きに参加している忠志には、それがくどいほどわかっていた。
 雄基も青竹の松明を下に向けた。チャプチャプンと灯油が竹のタンクで踊っている。パーッと雑草に火が移った。大きな炎が舞い上がる。顔が熱い。もう寒さはどこかに姿を隠してしまった。火は風を呼ぶ。起きた風が火を畔の勾配にそって走らせる。
「おう。笠松の息子はんかい?」
 声を掛けられてビックリした。振り返ると、見知っている顔があった。同じ隣保に属する男だった。確か川瀬と言ったっけ。
「ミツグさん。今日はええ塩梅や。畔焼き日和やで。よう枯れて乾いとるから、すぐ燃えてまうわ」
「火の勢いだけに用心しとったらええやろ」
 親子ほど年の開きがあるのに、忠志はタメ口である。雄基は押し黙ったまま、枯草にタイマツの日を押し付けた。昔から人と話すのは苦手だった。実の親にすら気を許せない話し方になってしまう。他人、それも年長者になると、相手の問い掛けに短い返事を返すか頷くしかできない。町に出て少しは解消できたはずの内向性が、またぶり返したようだ。
 次の田圃に移った時、馴れ馴れしく男が寄って来た。メラメラ燃える松明を肩に担いでいる。幼馴染みの田淵だった。と言っても気楽に話せないのは同じである。でも相手は違う。田舎にいると誰でも仲のいい友達に見えるのか、愛想よく話して来る。
「ユウちゃん。少しは慣れたか?」
「ああ」
 田淵は一学年下になる。昔子供会で一緒に火の用心の見回りをした仲である。彼も雄基と同じ立場だった。村への出戻り組である。雄基より三年早く帰郷したと聞いている。
「こないして村の行事に参加しとったら、すぐ慣れるよって。みんなも喜んでくれるわ、ユウちゃんの村入りを。心配いらん。経験者やからな、僕は」
 田淵はやけにお喋りである。市役所の秘書課にいる影響もあるのだろう。田舎の公務員は得てしてそんなタイプが多い。
「奥さん、こないだスーパーで出会うてな」
「そういや、そないなこと言うてたなあ」
 妻が言ったかどうかは覚えていなかった。それでも話題を合わせていれば何事もなく時間は過ぎる。時々雄基は自分の事なかれ主義に呆れる。しかし、それで世渡りをしてきたのだ。
 田淵は雄基の傍を離れなかった。無条件に話を聞いて貰えるのが心地よいのだ。もしかしたら田淵も出戻り組の孤独感を払しょくできていないのかも知れない。忠志の姿は消えていた。村の集まりに慣れている兄の行き場所はどこにでもある。心配は無用だ。
 ため池の土手を下から見上げた。五メートル近い高さだ。冬を越して広がる枯草はよく燃えそうだ。村の人間が三十人ばかり、ズラーッと並んで待機している。役員の合図で一斉に枯草へ火を放つ予定だ。
「今日はよう燃えそうでんな」
 右隣にいた見知らぬ男が言った。無視もできず雄基は笑顔を作って頷いた。
「笠松はんは、今日が初めてやな」 
 相手は雄基の名前を知っていた。当然と言えば当然な話だった。村は大きくない。誰それの噂話などすぐ村中に広まる。田舎に住みなれた人間に噂話が届かないはずはない。
「ほな用意してください。いっぺんに火を点けますさかい」
 役員が土手のてっぺんに仁王立ちして怒鳴った。土手の両端にはやはり役員の若手がジョウロを手に動き回っていた。水を撒いて火が燃え移らないラインを作っているのだ。大規模な畔焼きだと消防車の出動もある。それに比べて雄基の村はやることが小さい。
「それじゃあ、火を点けて下さい」
 役員の指示で待機中の人間は青竹を持ち直して火を点けた。黒く焼け焦げたぼろ布の残骸は待ち構えていたように炎を上げた。
「あれ?」
 雄基は驚いた。青竹を下に向けると、なんと先っぽに詰められて焦げたボロ布がボロッと抜け落ちたのだ。灯油がこぼれ出る。その量はたいしたものではなかった。ただ、それで竹のタンクは空っぽになった。
(どうしよう?)
 雄基は焦ったが、拾った焦げ布を竹の先に詰め直したところで燃料はない。炎が生まれる可能性が皆無なのは、さすがの雄基にも分かる。思わず隣を見た。救いを求める気配に気づいた相手は、形相を崩した。
「そらどないしようもないなあ。みんなに任せて、待っといたらええやんか。別にズルするわけやないし、みんな分かってるで」
「そないさして貰うわ」
 答えて雄基は気付いた。いつの間にか地の言葉になっているのを。町に出て以来、使う機会がなく忘れていた故郷の言葉だった。
「待っとり、待っとり。すぐ終わりよるで」
 周りの人間たちが口々に雄基へ声を掛けた。見やると、人の好さそうな笑顔が雄基に向けられていた。雄基ははにかんで頷いた。
「それじゃあ、畔焼きを始めます!」
 役員の号令で村の連中は竹タイマツの火を枯草に押し付けた。一斉に炎が上がった。メラメラと土手にそって炎が登って行く。ザワザワと風が起こった。風を受けて炎の勢いは増した。白煙も風に流される。風の向きがいきなり変わり村の人間たちを包む。むせる。目に染みる煙。少し混乱してざわついた。また風向きの変化で白煙は上に流れを変えた。
 土手の中腹まで激しく炎が舐めた。焼けた後の黒い絨毯が広がる。
 雄基は炎が作り出す光景に見惚れた。この地に生まれ育ったのに、初めて見るのだ。先ほどの煙が滲みた目は潤んだままだ。かすみ
もせずしっかりと見える。 
「おうい!そっちに水や!」
「任しとけ!」
 役員たちはコマネズミのようにジョウロを持って走りまわる。炎越しに見る彼らは何とも頼りなく小さい。しかし、彼らがいま炎を牛耳っているのだ。
 雄基の目は池の土手に釘づけだった。何も聞こえない。たった一人の世界で炎が描きだした生の絵を楽しんでいた。
「パチパチパチパチ!」
「パチパチパチパチパチパチ!」
 拍手の波は雄基が浸る世界の壁を打ち破った。
「?」
 雄基はキョロキョロと見回した。
 誰も彼もが顔を輝かせて手を打ち鳴らしている。何かに憑かれたようだ。ひたすら拍手が続く。雄基は周りに倣って手を打ち合わせた。続いて狂ったように拍手した。一大饗宴の終演を惜しんで拍手は続いた。
 土手の脇にあるこじんまりとした広場に村の連中は集まった。大きな輪を作って、ど真ん中に青竹のタイマツを山に積んだ。元気者が腰に挟んでいたなたを掴んで、かなり太い竹タイマツを選んで叩き切った。スパッと切れた青竹から残っていた灯油が飛び散る。残った灯油は青竹の山に振りかけた。
 役員がマッチを擦った。ぼろ布の残骸を拾って火を移した。燃えだしたぼろ布を、青竹の山に投げた。ぼーっと火の手が上がった。灯油のおかげで火は消えない。燃える竹がぼん!と破裂した。新たな灯油が炎を生む。次々と爆ぜる竹が加わって激しく燃え上がる。火炎瓶に似ている。パチパチと火の粉を舞い散らし燃え続ける。
 炎が映えて顔を赤くした男たちはてんでに笑い興じた。下世話な話から高尚な話題まで、キリのない談笑が続く。いつしか雄基も隣り合わせた男と話し出した。この場で孤独を守るのは不可能だった。
「ええー、ええ時間なんで、お開きにしたいと思います!」
 役員が大声を上げた。
「今日はみなさんお忙しい所、参加していただいてありがとうございました。滞りなく終わることができたのもみなさんのおかげです。本格的な春を迎える準備を終えて……」
 ぞろぞろ帰り道に着く。感じる。大事をなし終えた満足感がみんなを包み込んでいる。
「今日は最高の畔焼き日和やったなあ」
 田淵が感極まった顔をして振り返った。
「ほんまにそやったわ。次は油切れせんようにするで。春をちゃんと迎えなあかん」
 来年の畔焼き日和に雄基は思いを馳せた。
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仕事を終えて

2014年11月21日 00時24分52秒 | おれ流文芸
 大学受験に失敗したあと、浪人生活に入ったが、途中、お金が心細くなったので、アルバイトをと思い立った。書店へ面接に行くと、社長に勧められて、なんと正従業員になってしまった。元々本を読むのが好きで、志望大学も文学部だった。本屋なら将来の夢からかけ離れていない。それだけの理由だった。
 書店の仕事は面白かった。店売スタッフで、新刊書の注文や陳列、在庫のチェック、委託期限の切れた本を返本したりと、目の回るほど忙しかった。大学の事は、いつの間にか、二の次になっていた。
 書店に勤務して3年目。父が聞いた。
「将来は、何をするつもりや。これからは外食産業が儲かるらしいぞ。うちの土地が県道沿いにあるから、飲食店をやってみたらどうや?」
 いい話だった。仕事は面白いが、将来本屋を経営するとは考えられない。なら……?
 一から出直しだった。書店を辞めて、調理師学校に入った。何の経験もなしに飲食店がやれる自信はなかった。とにかく基礎を勉強する必要を感じた。1年で卒業して調理師資格を得た。学校の斡旋で商工会議所の中にあるレストランのコックに。自前の飲食店を経営するという夢をしっかりと抱いての修行だった。
 レストランは6年。予想以上の勤務となった。チーフと言う責任があったからだ。オーナーに独立の夢を告げて、何とか退職した。まだやることがあった。経理学校に通うと同時に、喫茶店、卸売市場とアルバイトを重ねた。自分がやりたい飲食店に必要だと感じていたからだった。
 独立したのは、父の提案を受けてから10年目だった。ただ、自前の店は、父が言った土地ではなく、姫路市の国道沿いのビルのテナントに出した。客の動向を予測したら、田舎の土地では、かなりの低迷を我慢するしかなかったのだ。
 国道沿いの店は、かなり流行った。結婚をして、パパママの喫茶店を続けた。ちょうど10年。3人の子供に恵まれ順風満帆だった。
 4人目の子供を授かった時、状況は一変した。酷いアトピーになった子供を守るために、思い切って、当時ではまだ珍しかった『禁煙喫茶店』に踏み切った。しかし、時代はまだそこまで来ていなかった。結局喫茶店は閉めた。家族のために田舎にUターンした。
 子供4人を抱えて、遊んではいられない。仕事探しに奔走した。木工工場や2×4施工の建設会社の創設スタッフもやったが、これは水の合わない畑違いだった。長居は無用とさっさと辞めた。結局自分に合う仕事はと思案した結果、出した答えは外食産業だった。
 40歳の誕生日を前に、地元では目立った業績の弁当製造会社にハローワークの紹介で入った。給与面を考えて深夜勤務を選んだ。夕方から翌朝までの仕事だった。ベルトコンベアーが主体の製造工場だったが、調理師の免許を持つ私は、工場の厨房部門に。食材の下拵えから、揚げたり焼いたりを担当する。何百人分の刺身を引いた。職場環境はきつかったが、やはり私には水の合った仕事だった。
二十五年続いたのも当然と言えるだろう。
 現役を引退した今、やっとゆっくりと昔を振り返られる。不思議と充実した道のりだった。
 私が担った仕事は、五回六回と転職となってしまったが、後悔も何もない。父の助言があったとはいえ、自らが将来の夢を抱き、ひたすら実現のために選んだ仕事だった。だから、それぞれの長くても短くても同じぐらい面白く取り組めたと思うからだ。
 仕事を選ぶには、まずそこに夢が見られるかどうかが重要である。夢に繋がっていると思えば、どんな仕事も楽しい。楽しければ、その仕事が好きになれる。そうなれば鬼に金棒だ。どんな過酷さも克服できる。夢の実現のために。仕事は自分の気持ち次第なのだ。
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母が逝きて

2014年11月20日 08時44分35秒 | おれ流文芸
車を飛ばしながら、次々といろんなことが頭をよぎる。別に焦りはない。もう覚悟が出来ているからだろう。なのに、母の顔が浮かんでは消える。笑顔であり、悲しみや怒りの形相すらも、頭の中をぐるぐると回り続ける。運転するのに集中がままならない。


 前方にコンビニが見えた。右折して駐車場に入った。別に何かを買おうと言う訳ではない。頭を落ち着かせないと、事故を起こしかねない。シートを後ろにずらして、背を倒した。ゆっくりと目を閉じた。


「お母さん、もう危ないって。すぐ来れる?」


 病院からの連絡は、ちょうど家に帰り着いた矢先だった。相手の声は別に切迫したものではなかった。危険な状態に陥り、周囲に覚悟を決めさせては持ち直すという繰り返しが二週間近く続いているせいである。


 私も三時間前までは、母の病室にいた。荒い息だけが生きている証しの母を、ベッド越しに見詰めていた。昨夜から仮眠もとらずに付き添っていたのは、何となく予感があったからだ。もう母は戦いをやめようとしていると。母はミイラのように萎んだ体に不釣り合いなギョロ目を息子に向けたままだった。


(母さん。俺が分かるのか?)


 夕方に付き添いを交代した時から、何度問いかけただろうか。もう見えているはずがない。しかし、私が話し掛けたり、手や背中をさすってやると、じーっと見つめ返す。長い時間、母は目をそらさなかった。ゼーゼーと荒い息は途切れささずにいた。


(ありがとう。ありがとう)


 元気だったころの母の声がそこにあった。


 二日前までは、付き添う息子に目を向けても、すぐ逸らした。それまでとなんら変わらない母の反応だった。それが昨夜はまるで違ったのだ。


 ひとりしか残っていない息子への別れだったのかも知れない。付き添いを交代する際に、ベッドの母の顔にくっつくぐらい顔を近づけて、声を掛けた。


「今日は、もう帰るわな。夜に、また来るさかい。がんばれよ、お母ちゃん」


 すると、息がすーっと静まった。ギョロ目が見開いた。きらっと光るものを感じた。なぜかベッドを離れるのに未練を覚えた。


(あれは……母さんが、俺に別れを言ったんだ……そうだよな、お母ちゃん……)


 何とか心を落ち着かせてコンビニを離れた。病院まで十五分もあればつけるだろう。


 病室に入ると、父と兄嫁の姿が目に入った。ベッドの母に目を向けなかった。予感は、もう確信に変わっていた。病院の駐車場に車を滑り込ませた時、何かが体を通り抜けたのだ。


 振り返った父は、力なく、頭を、いやいやをするように振った。母に目を向けた。もう荒い息は途絶えていた。


(お母ちゃん。昨日は俺に別れを言ったんだよな。有難うな。俺って親不孝だったな……)


 涙が自然に湧き上がった。切なかった。

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夏の記憶

2014年11月19日 19時04分37秒 | おれ流文芸
 茂木誠実はとにかく家でじっとしていない。学校から帰ると、カバンを玄関に放り出して即座に飛び出す。外で遊びまわるのだ。もう肌が日焼けを繰り返して浅黒い。
 名は体を表すと言う。誠実の場合は全く逆だ。考えるよりも行動するタイプだった。弟の龍大も名前とはかけ離れている。兄の誠実と対照的に、いつも部屋に閉じ籠って本を読んでいる。荒々しい龍大の名前にそぐわない。
「うちの子ら、静と動っちゅうんかいな。うまい事育ってくれたなあ」
 両親はいつも自画自賛する。
「おい、龍大、カブト捕りにいこか?」
 誠実はよく弟を誘う。中一と六年生。年子である。しかも性格は対極だ。それでも龍大は兄と一緒ならどこへでも出かけた。
 弟が尻にくっつくと、誠実は顔をクシャクシャにして喜ぶ。自分の事はそっちのけで弟を楽しませるためにバタバタと走り回った。
「ほら、この根っこのとこ掘ってみいや。大物がようけおるぞ」
 野山を駆け回っている誠実の知識はもう専門家だ。コナラの大木の根元を掘ると、クワガタやカブトムシがいた。
「すげー!やっぱりスゴイわ、兄ちゃんは」
 弟の褒め言葉が誠実には一番だ。頭をガリガリ掻きながら「へへへ」と照れ笑いをする。
 運動神経はずば抜けている誠実も、勉強は大の苦手。会話も下手だった。本を読まない彼の語彙は、あまりにも少なかった。
 ただ龍大は兄の顔色や語調から、兄が言わんとすることは即座に了解した。
 考えてみればいい兄弟だ。双方がお互いの不足部分をカバーし合っている。
盆を過ぎると、夏休みも終わりが近い。暑ささえ盆を挟んで微妙に和らぐ。子供らも心理的に背後から急かされた気になる。
「龍大、おるんか?」
 障子越しに誠実が声を掛けた。
 マーク・トウェインの『トムソーヤの冒険』に龍大は没頭していた。本を読んでいるのを邪魔されたくない。眉根が寄った。それでも兄を無視しない。龍大は本にしおりを挟んだ。
「兄ちゃん、どっか行くんか?」
 障子をあけると、顔を綻ばす誠実がいた。
「はよ用意せえや。行くで」「どこへ?」「自転車で遠乗りや。夏休み最後の大冒険や」
 誠実は得意げに胸を反らした。
「遠乗り?自転車で?どこまで行くのん?」
 龍大は質問を連発した。
「目的なしや。行けるとこまで行くぞ」「暑いのに、しんどいやんか」「何言うとんや。もう夏休み終わりやで。思いくそ楽しむぞ」
 目が線になった兄の顔を龍大は好きだ。
まだ朝の七時前である。涼しい中を、二人は出発した。誠実は大人用の自転車に跨る。龍大は補助輪をやっと外した子供用だった。
「おい、ついて来れるか?」
心配そうに振り返る誠実に、龍大は口をキッと結んで見せた。
(心配せえでええわ、兄ちゃん)
負けん気だけは兄に負けない。龍大はペダルを思い切り踏みこんだ。
そういえば、あの時もそうだった。去年、龍大は負けん気を実証した。二倍近い体格の中学生に、悲壮な覚悟で立ち向かった。突き放されながら、何度も何度も武者ぶりついた。
「お前、ちっこいくせに生意気やぞ!」
 ガキ大将の猛は虫の居所が悪かったのだろう。いきなり誠実の頭を小突いた。目の前の暴挙に、龍大は逆上したのだ。(俺の兄ちゃんに何すんや!)猛の体に武者ぶりついた。龍大の体はぶるぶると震えている。
「兄ちゃんに何しょんや!アホタレ!」
 龍大は必死だった。死にもの狂いで来られると、相手が小さくてもかなり閉口する。
「アホ!離さんかい!」
 猛は狼狽えた。それでも力の差は歴然だった。龍大を突き飛ばし、振り回した。
「いやや!いやや!」
 龍大は吸い付いて離れぬスッポンだった。
「コラッ!タケっさんに何すんじゃ!」「構わへん。やってもたれ!」
 高みの見物だった猛の取り巻き連中が、意外な展開に血相を変えた。龍大の上着を掴んで引き放そうとする。
「痛っ!」
その一人が悲鳴を上げた。誠実が棒切れで相手の尻を思い切り叩いたのだ。誠実の形相はまるで赤鬼だった。凄い剣幕に他の連中もタジタジとなった。
「弟に手ぇー出すな!」
 勢いに任せた誠実は猛の背中をどやしつけた。龍大に気を取られていた猛はモロに打撃を受けた。声にならぬ悲鳴を上げた。
 連中は転がるように逃げだした。

 ガチャガチャと危なかしい音を立てながらも、二人の自転車は快調に走った。普段来る機会のない隣町との境界にあるM台地を縦断する道へ踏み込んだ。
 M台地には自衛隊の駐屯地がある。周囲は膨大な開墾地と森だ。大根やスイカの生産地である。広大な景色は二人の心をすっかり解放させた。もう不安はかけらもなかった。
 暑さが急に増した。十時を過ぎている。ジリジリと照りつける太陽に汗が所構わず吹き出す。流れ落ちる汗が目に入ると堪らなく痛い。シャツの端でゴシゴシ拭った。それでも、次々と汗は湧き出る。
「キーッ!」
 いきなり誠実がブレーキをかけた。思いもしなかっただけに、龍大は慌てた。必死でブレーキに手をやった。あわやぶつかる寸前に子供用自転車は停まった。
「なんで急に停まるんや。危ないやん!」
 龍大は口を尖らせた。彼なりの抗議である。
「龍大、ラムネ飲むぞ!」
 誠実は額の汗を手で荒っぽく拭うと、左の方を指差した。その先にバラック建ての小さな店がある。かき氷の旗が風に揺れている。それがないとまず店だと気付かない。
 店先に自転車を停めた。誠実はポケットから十円玉を出した。
 店の中は大きめのテーブルが中央にある。カウンターとおぼしき所に、鋳物の氷かき機が鎮座している。人影はまるでない。
 龍大は喉の渇きに襲われて、思わず唾を呑み込んだ。救いを求めて兄を見やった。
「すみません!」
 誠実は大声で店の奥に呼び掛けた。
「はいよ」
 のんびりした返事だった。のろのろと姿を現わしたのは老婆である。
「ラムネください、一本」「はいよ」
 老婆は相変わらずのろのろと冷蔵庫からラムネを取った。ポンとラムネ玉の栓をあけると、プシュッと泡が噴き出す。誠実は慌てて口を瓶の先に運んだ。こぼれる泡を器用に吸い取った。龍大に瓶が渡った。性急に飲む。炭酸が悪さをしてむせた。
「慌てんでええで。ゆっくり飲めや」
 誠実は兄らしい鷹揚さを見せた。
「あんたら、このクソ暑い中、どこまで行くんや?汗まみれやないけ」
 気のいい老婆だった。
「兄ちゃんと自転車旅行や!」「ほうけほうけ。兄弟か、あんたら。そやけど偉いのう」
 老婆に褒められて、龍大は首をすぼめた。
「気ぃ―つけて行きや」
 老婆は名頃惜しげだった。もしかしたら今日の客は誠実らだけだったのかも知れない。
 二人はガチャガチャとペダルを踏んだ。ぐーんとペダルが軽い。ラムネの効果は流石だ。
 勾配がきつい。歩いて自転車を押した。坂道を上りつめると、いきなり広がる広い畑。別世界だった。遠くに地平線を望める開墾地である。枯れかかったツルの絨毯にゴロゴロと転がるスイカ。息を呑む光景が続く。
「M台地のスイカは有名なんやぞ。前は大根ばっかりやったらしいけどな」
誠実は得意げに話した。龍大は「ふんふん」と頷き、兄の偉大さに尊敬の念を募らせる。
「スイカ旨いやろな」「アホ。人のもん黙って食うたら泥棒やぞ」「そんなんアカン」「当たり前や」
二人はケラケラ笑った。
「あっちの畑の端っこまで走ったら、もう帰るぞ」「うん。そしたら競争や。兄ちゃんに負けへん」「よっしゃ、行くぞ。よーいどん!」
 誠実の号令で二人はペダルを力いっぱい踏み込んだ。「ガシャガシャン!」異常な音が響いた。龍大の踏み込んだ足に手応えがない。スコーンとペダルが下がった。
「あっ!」
 龍大はバランスを崩すと、「ガシャーン!」と横倒しになった。チェーンが外れていた。
 誠実は自転車を飛び下りる。激しく倒れるのをよそに、弟に走り寄った。
「自転車動くけ?」「あかん。チェーン外れてるわ。それにペダルがひん曲がってるぞ。道具あらへんし、修理できひんな……!」
 誠実はため息をついた。それでも情けなさそうに眉根を寄せる龍大をおもんばかって、ニーッと笑って見せた。しかし、誠実の方が不安に押し潰されそうだった。
「ドッドッドッドッ」とエンジン音がした。三輪のトラックだった。荷台にはスイカが山積みだ。二人に近づくと停まった。
「どないしたんや?お前ら」
 怒鳴り声と思えるほど大声だった。日焼けして若いのか年寄りか判別がつかない顔だ。目だけがぎょろぎょろと動いた。
「なんや自転車がどないかなったんやな」
 男は運転席から身軽に飛び下りた。
「こないなとこでこないなったらお手上げやわな」
 男は饒舌だった。快活に笑い修理を進めた。
「お前らどっから来たんや?」「富田村です」
「へえ、富田け。あっこにわしの友達がおるわ。梶谷言うんや。知っとるか?」「梶谷って三軒あるさかい。それに別の地区にもおってやし……」「そらそうや。知ってるはずないのう。ガハハハハッ!」
 男の開けっぴろげな態度は、兄弟の不安を吹き飛ばした。修理を終えた男は、荷台からスイカを取った。ぐいと力を入れるとスイカはバカッと割れた。
「ほれ。喉が渇いたやろ。俺の作ったスイカは旨いぞー!遠慮せんと食え」
 日焼けして真っ黒な顔の口元に白い歯が現れた。笑っている。
 確かに旨かった。冷えていないのに、こんな旨いスイカは初めてだった。スイカの汁でシャツを赤く染めて、むさぼり食った。
「ええ食いっぷりや。お前ら兄弟け?よう似とる。ええ兄ちゃんやのう、お前」
 誠実を褒めた男はタバコをふかしながら、またげらげらと笑った。

 通夜の席だった。親戚連中が酒を飲んでげらげらと笑っている。
 龍大は祭壇に掲げられた写真に目を移した。笑顔の兄がいる。日焼けして真っ黒になった顔に白い歯が印象的だった。働き者の兄の死。まだ信じられない。仕事で屋根に上り足を滑らせたのだ。炎天下で兄は死んだ。
 兄と遊んだ日々、あの夏の大冒険!子供の頃ばかりがさっきから走馬灯のように頭をよぎる。あの時、我を忘れてかぶり付いたスイカの味。あれは、兄が傍にいたから。頼れる兄の存在に安心できたから。最高に旨かったのだ。
 また写真を見た。(俺……一人っ子になっちまったで。馬鹿野郎、兄ちゃんの馬鹿野郎!頼りない弟を置き去りにしやがってからに……馬鹿野郎!)
 情けない。涙がまた流れる。(見えない、見えないんだ、兄ちゃんの写真が……!クソッ)嗚咽をグッと噛み締めた。
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冬野菜じたく

2014年11月17日 15時39分42秒 | おれ流文芸

 毎年十二月後半、冬を迎えるためにバタバタと畑を駆け回る。冬野菜を厳しい寒さから守り収穫するために、昔から行われて来た作業を施している。それも霜が降りるまでに済まさないと意味がない。時間との競争である。
 白菜は一番外側の葉っぱでくるむと稲わらをしごいたもので頭の部分を縛る。防寒結束である。こうすると雪が降ろうと収穫が出来る。キャベツやダイコンなどが植わる畝は稲わらを工夫した屋根とか不織布や寒冷紗でトンネルを作り冬の低温から守る。
かなりの種類と数ある野菜への対策をひとつひとつ手仕事でこなすからもう大変だ。凍える手をこすって温めながら進める作業は、まるでわが子を慈しむに等しい。
降り積もった雪を被り野菜たちがポッコリと頭をもたげている。雪をはらい掘り起こすと、野菜は健在だ。厳しい寒さに立ち向かい糖分を蓄えて、より美味しくなっている。冬場に味わう野菜は冬支度しだいである。
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エッセ・みんなが主役

2014年11月15日 01時15分40秒 | おれ流文芸
 
 電話が掛かった。慌てて受話器を取って耳に当てると、予期せぬ相手だった。
「加西JCの黒川といいます。実は齋藤さんにご相談したいことがありまして、お電話を差し上げてるんですが……」
 加西JC、黒川さん、ご相談。どれひとつピンと来るものはなかった。
「姫路で劇団を主宰してはる齋藤さんですね?」
「はあ。そうですが」
「加西で市民による演劇をと、われわれの企画に上がったんですが、なにしろJC会員は門外漢ばかりでして。それで、よろしければ齋藤さんのご指導を賜りたいと……」
 えらく丁寧な申し出だった。演劇に関わる事なら別に断る理由はなかった。後日会う約束をして電話を切った。
 もう四十年以上アマチュア演劇に携わっている。加古川の劇団を皮切りに、姫路で三劇団を渡り歩いた末、自分が主宰するアマチュア劇団を創立した。舞台に上がった回数は三百をゆうに超えている。主宰する劇団では脚本・演出・舞台美術・キャスト……と便利屋である。おかげで演劇についてはいっぱしの持論を展開できるまでになった。
 県内の学校や公共施設への巡回公演や、高校の演劇部を指導しているが、まさか自分が住んでいる地元から指導の要請があるなど考えもしなかった。文化不毛の地という思い込みがあったからだ。
 ただし、加西市は播州歌舞伎発祥の地として知られている。演劇の芽は皆無と言う訳ではない。どんな形の依頼であろうと前向きに考えようと思った。
「加西市を象徴する古代の美女、根日女(ねひめ)を主人公にした舞台をやりたいんです。それも市民によるスタッフキャストで。出来れば市民劇団につなげられればと希望しているんですが」
 市内の喫茶店で出会った黒川さんは熱く語った。風格を備えた好青年だった。人造石を造る会社の社長さんである。JCのイベント担当の役回りだという。学生の頃鑑賞した演劇の感動を地元の自分たちの手で生み出したいと訴えた。
「齋藤さんの劇団の舞台を観させて貰いました。メンバー五人出向いたんですが、驚きました。素人と見くびっていたのが恥ずかしくなりました。みんな、感動して涙を流しました」
 少し前に主宰する劇団の公演をやった。兵庫の歴史の魅力を求めて進める『郷土シリーズ』として、赤穂の有名な忠臣蔵を基にしたした時代劇。四十七士の一人、矢頭右衛門七が女性だったらとの発想で書いた脚本である。浅野内匠頭と吉良上野介の葛藤から始まり、討ち入りを経て、切腹するまでを描いた。ピアノの生演奏をバックにした日本人の魂の表現は、かなり好評だった。その舞台をワザワザ観てくれたようだ。
「加西にこんな素晴らしい舞台を作る人がいると知り誇らしくなりました。それで加西市民による舞台づくりは齋藤さんのご指導が絶対必要だと、みんなの意見が一致したんです」
 少しこそばゆい思いをしたが、ここまで褒められては引き受けるしかない。まして生まれ育ったふるさとに錦が飾れるチャンスだと不埒な考えが頭の隅をよぎった。
「微力ですが出来る限り協力させていただきます。一緒にやりましよう」
 市民劇団を誕生させ、播磨風土記に記述のある加西市が誇る古代の美女、『根日女』を題材にした芝居作りのイベントがついにスタートした。舞台公演まで1年半のスケジュールが決まった。まず市民劇団の参加者を集められなければ話は始まらない。JCのスタッフが動いた。チラシ配布と新聞記事掲載に、口コミで『根日女の舞台を創りませんか?』と広めた。JCの組織力はさすがだった。
 同時に脚本を書き始めた。芝居作りの方は私の手にかかっていた。
「あなたに愛する人はいますか?をテーマにしたいんですが」
 JCの若いメンバーが青臭い要求を出した。勿論、私に異存はない。芝居は理屈抜きにクサい方が万人に不思議と受けるものだ。
 二週間かけて百五十枚の原稿用紙に根日女伝説のストーリーを埋め込んだ。伝わる歴史上の人物に、私が生み出したオリジナルなキャラクターを縦横無尽に動かした。
 のちに大和朝廷の大王(おおきみ)になる二人の皇子(みこ)に愛される賀茂の里の豪族コマの娘、根日女の波乱に満ちたストーリー展開である。播磨風土記の資料や、地元の歴史家が残した『根日女物語』読み漁って、構想を練り上げた。
 市民劇団の参加者は三十人近く集まった。主婦に会社員、農業と自営、学生に遊び人(?)……実にバラエティに富んだ顔ぶれだった。
「芝居作りにアマとプロの差はない。あなた方一人一人の情熱と姿勢がそれを左右すると知っておいてください。目標はプロを超える舞台です。ノウハウは私が教えます。全力でぶつかって下さい。そうすれば芝居の醍醐味を皆さんは手に入れる事が出来ます。一年半、とにかく頑張り抜きましよう!」
 私の檄にメンバーたちが奮い立った。最初だからこその意気込である。それがゴールの日まで続けば大成功なのだが。さて、どうなるかは神のみぞ知るである。
 練習時間は一日三時間、週二回。後半は毎日の強行軍になるだろう。観客の心に届く舞台を創れるのは、観る人の数倍の努力とひらめきだけだ。舞台の上と下が同じ領域にいるようでは感激も感動も決して生まれない。観客が出来ないことをやらなければならない。
 肉体鍛錬、滑舌、表情、オーバーアクション、叫び……基礎訓練は欠かさず続けた。観客の数倍動けるようになるためのスタミナと敏捷さ、数倍の大声と滑舌。観客ではなく演技者になるための基本技を身に付けさせるための執拗な繰り返しだった。
 キャスティングを決めたのは二か月後。真っさらの状態で参加して来た連中も、何とか、基礎練習についていけるまでになっていた。主役の根日女が決定すれば、あとはバランスを考えて配役すればいい。根日女だけは少々演技が下手でも、はっとするような存在感がある女性でなければ。主役が輝きさえすれば、脇が集団で支えるのは簡単だ。演出の力が問われはするが、そう難しくはない。
 公演は二日間。一回二時間弱の舞台である。その数時間のために一年以上も練習で切磋琢磨するのが演劇である。出ずっぱりのメインキャストならまだしも、セリフが群衆で叫ぶ一言だけと言うメンバーもいる。裏側で黙々と働くスタッフには、光が当たる場さえないのだ。当然中途で挫折する者だっている。それを乗り越えて行った先に晴れ舞台が待っている。勿論感動も。
「ようやく辿り着きましたね。本当に夢みたいです。ご苦労様でした」
 黒川さんは目を潤ませて私の手を掴んだ。開演直前の緞帳幕の向こうに客席のざわめきを感じながら、出演者と舞台スタッフが集まっている。長期間の練習と裏方の活動を通じて心が一つに成り得た逞しい顔が揃って輝いていた。
 円陣を組んだ。開園五分前のブザーが鳴る。
「この日のためにやって来た、耐えてきたみんなが主役になる日です。心置きなく晴れ舞台を楽しんでください。忘れないで、みんなは、いまひとつです。失敗も成功も、みんなのものです。さあ、やりましょう!」
 肩を組み合い、手を取り合った五十人を超える勇者たちは、声なき歓声を上げた。
 開演のブザーと共に緞帳幕がスルスルと上がる。舞台袖から舞台監督がキューを入れた!照明が入る。兵士の衣装を身に付けた役者たちが上手下手双方から怒号を上げて舞台に躍り出る。大和朝廷の波乱を象徴する戦闘シーンだ。ハプニング的な演出で観客の度肝を抜く。動きの激しい殺陣が繰り広げられる。言葉を失って見入る観客の目。舞台に集中しているのは明白だ。異次元の世界に観客を引っ張り込むのに、まずは成功したようだ。
 雷鳴が轟く中で国造(クニノミヤツコ)コマの娘、根日女が賀茂の里の人々の祝福を受けての誕生。美しく気高く育つ根日女。彼女の前に出現する大和の国の先の大王(オオキミ)の忘れ形見の二人の皇子(ミコ)。恋する彼らの姿を、笛とオカリナの音色が祝福する。
 大和朝廷の政争の中、二人の皇子は根日女を賀茂の里に残して大和に戻る。そして戦乱。根日女の父コマも兵士を率いて皇子らを援護する。ひたすら天に祈る根日女。
 ついに大和が統一され、弟皇子が大王(天皇)の座に。「今こそ、愛する『根日女』を大和の国の母として迎えよう」と、賀茂の里に赴く兄皇子。しかし!
 根日女は皇子らの願いに応えられなかった。いくさで多くの里人の命が犠牲になっている。里も荒れた。その地を後にする事なぞ根日女には出来なかった。なぜなら彼女は賀茂の里人らにとって唯一無二の太陽の存在となっていた。傷心の気持ちを抱えて去る皇子を見送った根日女は賀茂の人々を優しく見つめて言葉を発した。
「この賀茂の里を、賀茂の里人を、賀茂の山河を、私は愛します。あなた方とともに、このふるさとを愛しましよう!」
 日の光で満たさせる舞台に群衆の歓喜がみなぎる。心がときめき熱くなる音楽の中、緞帳幕がゆっくりと落ちる。拍手が起こる。
 拍手の波の中、再び緞帳幕が上がり、舞台に勢ぞろいした面々。嬉しさを隠せずに、そして誇らしげに顔を上げた。両手を観客にささげる。みんなはいま主役だった。
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絵の心得不心得

2014年11月11日 22時58分01秒 | おれ流文芸
 
小学生の頃、絵が得意で写生コンクールの
入賞の常連だった。朝礼時、全校児童の前で
校長先生に名前を呼ばれ賞状と副賞のクレ
ヨンや絵の具を受け取った時の晴れがまし
さと言ったらえも言われぬものだった。
 実は当時の私はひどい内弁慶で、友達や先
生、大人を相手に殆ど喋れなかった。だから
勉強も遊びも運動も全く目立たない存在で、
両親も諦めさせた根暗な生活を送っていた。
 そんな私が道を外れず成長できたのは、絵
のおかげだった。写生会の度に入賞するのだ
から、友達も先生も一目置いてくれたのだ。
(僕の得意は絵だ!)と自信もついた。
 ところが中学になると、絵は脚光を浴びな
くなった。理由は自分でもよく分かっていた。
漫画やアニメの虜になったのは小学5年生
くらいから。その影響が中学生になって表れ
た。風景の写生画にディズニー風の木や川の
流れを描いてしまう。認められるはずがない。
絵はなるべくして不得手になってしまった。
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ミニエッセ・卵焼き

2014年11月10日 13時19分09秒 | おれ流文芸

 小学校時代のお昼の時間。アルマイトの弁当箱のふたを立てて、中身が見えないように食べた。終戦から十年。まだまだ田舎は貧しかった。麦ごはんに醤油で和えた削りカツオを絨毯のように表面を覆ったものをよく覚えている。醤油がご飯に染みて結構たらふく食えた。ただ弁当を包んだ新聞に醤油が滲みこんで褐色の跡になったのが、人の目にさらされるのが恥ずかしかった。
 当時我が家には鶏が一羽飼われていた。毎朝新鮮な卵を産み落とした。それも一個。白い殻の卵は実に貴重だった。学校に通う兄弟二人の弁当のオカズに回る事は滅多になかった。夕食に焼かれた卵焼きは瞬く間に無くなった。そんな時、必ず、
「お母ちゃんの分も食べんかいな」
 末っ子の私に母は自分の分をくれた。母が焼いた卵焼き。醤油味で、砂糖は入っていない。焦げすぎたものも美味しかった。母の子供への思いやりだったのが、子供心に母は卵焼きが嫌いなんだと思ってしまった。卵は何日か分をためて置いて、運動会や、お祭りなどのご馳走作りに使われた。それくらい卵焼きは庶民には高根の花だった。
 時代の流れに応じて卵焼きは食卓や弁当のオカズの主役に転じた。ご馳走だった。何はなくとも卵焼きがあれば十分だった。運動会の弁当には、卵焼きがたっぷりと詰められた。美味しそうに頬張る母の姿に、初めて母の好物が卵焼きだったと気付いたのも、そんな時代だった。。
 スーパーの目玉として卵一パックが九十八円。チラシで見つけると売り場に家族総出で並んで買った。十パック手に入れても買い過ぎではなかった。すぐ卵料理で使ってしまうのだ。万能の食材ぶりだった。
 茶碗蒸し、かに玉、卵どんぶり、卵サラダ、プリン……腕によりをかけた。子供や妻は大喜びで食べた。ぞれなのに、
「わしゃ、卵焼きが食べたい」
 母だけは変わらず卵焼きを望んだ。砂糖を入れた厚焼き卵を焼くと、「こんな甘いのんはいらん」と来る。醤油味にして焼いてやると、目を線にして美味しそうに食べた。
 母が亡くなって、十数年。我が家の食卓に並ぶ卵焼きは具がいろいろ入った甘めの物が中心になった。しかし、私の席にはシンプルな卵焼きが。母が好んだ醤油味が並ぶ。母譲りの味覚がそうさせるのだ。卵本来の味を生かした醤油味の卵焼きは今も好物である。
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コラム・お酒に感謝

2014年11月06日 12時46分24秒 | おれ流文芸


いきなり記憶が」ぶっとんだ。目が覚めたら、真っ昼間にセンベイ布団にくるまっている自分を発見した。  出勤すると上司に「もう、大変やったで。酔っ払いをアパートに担ぎ込んで寝かせるのは」と言われた。「ああ、情けない!」と暗くなっていると、「酒は先に酔うた者の勝ち、酔っ払いは天下御免や」 「そやけど、お前大胆やで、アルバイトの女の子の手を握って口説きよってからに。あれは、酒の席で済ませてしもうたらもったいないで」……絶句。  そう、妻と私の縁結びの神は、お酒だった。
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