こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

キャベツ畑の親心

2014年12月01日 00時10分51秒 | おれ流文芸
 ある日、夫婦喧嘩をした勢いにまかせて、「怒ってばかりで、勝手なことばかりしてるお父さんなんか、みんな嫌いよね!」
 と、子どもたちに同意を求めた私だった。
 すると、意外にも小3の長男ショーゴが、
「うー、ううん。お父さん好きだよ、僕。とっても恰好いいんだぞ、仕事してるお父さんって」
 と、口を尖らして抗議してきた。
 黙ってはいるけれど、小4のお姉ちゃんも4歳になるチビちゃんも、お兄ちゃんと同じ気持ちなのが顔色から読み取れた。
 私はそれ以上何も言えずに、頬笑むしかなかった。
 決して甲斐性のあるほうではなく、趣味に生きがいを見いだしているようなお父さんなのである。その日の機嫌によって、子どもたちへの対応がきつくなったりするようなお父さんなのである。それなのに子どもたちは、ここはという時に、ちゃんとお父さんの味方をする。それも、お父さんの存在を立派だと認めているのだった。何とも驚きだった。
 ショーゴが格好いいと言っているのは、アマ劇団の主宰者として、若い人たちを指導している時の一心不乱な姿のことだと分かっている。
 私が好きになったのも、そんなお父さんの姿からだった。そして、ひと回り以上の歳の差も何のその、結婚に漕ぎ着けさせたのも、そんなお父さんの損得抜きの男のロマンめいた魅力に打たれたからだった。
 そんな私と同じ見方を、息子のショーゴがしている。夫婦喧嘩の最中なのも忘れて、私はいつの間にか感動を覚えていた。
 子どもは親の背中を見て育つと言われるが、ショーゴは父親の姿に男の何たるかを見つけていたのかもしれなかった。
 3人の子どもたちは、しょっちゅうお父さんに叱られている。「靴を並べなさい!」「歯は磨いたか!」「テレビは、そんな近くで見るな!」「ご飯は残すな!」「野菜を食べろ!」とこと細かに、とにかくうるさいお父さんなのだ。
「あんまり小さいことでガミガミ言ってると、子どもが委縮して、親の顔色を窺うようなネクラな性格になっちゃうでしょ!」
「うるさいな。俺には俺の子どもたちへの接し方があるんだよ!」
 私の注意に耳を貸そうともしない。
 でも、私も子どもたちも、今ではそんなお父さんの心の中がよく分かっている。
 近眼で苦労した自分を振り返って、子どもたちには目を大事にしてほしい。虫歯も心配、農家の息子で育ったお父さんにとっては米も野菜も無駄にせずに食べてほしい……!小言のひとつ一つにお父さんの深い思いがあるのである。
「お父さん、僕らに近視になってほしくないんだ」
 やはりショーゴが、一番お父さんを理解していたようだった。やはり男同士である。
 子どもと普段あまり遊ばないお父さんも、その気になった時は、とことん子どもたちと遊ぶ。
 ショーゴとは将棋の名人戦(?)、ナツミとはセッセッセを不器用な手つきでやっている。末っ子のリューゴとはテレビアニメの真似っこで、組んずほぐれつドタバタやる。そこへショーゴやナツミもなだれ込んでもうメチャメチャだが、いかにも楽しそうに暴れる。
「俺は勝手な父親だから、無理に子どもたちに合わせるなんてできっこない。だから、子どもたちが俺に合わせるしかないんだ。こんな父親を持った子どもも可哀想だけどな」
「行く末が案じられるわよ。大丈夫?」
 ときどき、子どもたちの寝顔を見ながら、夫婦でそんな会話を交わす。チラッと見ると、いかにも申しわけなさそうな顔をしているお父さんの目が、とても優しく子どもたちに注がれていた。根は子ぼんのうなのである。
 最近、わが家は家庭菜園を持った。ちょうど家の裏手にあって、喜んだお父さんは、
「みんなに農薬の心配ない野菜を食わしてやるぞ。美味しいて、栄養タップリなやつをな」
 と、真剣に野菜づくりに取り組み始めた。
 しかし、この野菜づくり、子どもたちにはとんだ藪蛇となった。何かと言えば手伝いに駆り出されるのだから、ボヤッとしてられない。
「お父さん、小さい頃から野良仕事を手伝わされて大きくなったんだ。土くれにまみれて野菜づくりをよくやったぞ。そのお陰で今のお父さんがあるんだ。だからお前たちも、野菜づくりを通じて、お父さんみたいにいい正確になったらいいなあって、親心だ」
 と勝手なことをほざいて、草引きだ、水やりだとこき使っている。最初は嫌がっていた子どもらも、今ではすっかり諦め切ったのか、えらく神妙にお父さんを手伝うようになった。
「これな、キャベツだぞ。まだ若葉だけど、これから大事に世話してやったら、その分だけ大きく育つんだぞ」
 畑で子どもたちに大袈裟な説明をしているお父さんは、とても幸せそうだし、子どもたちも興味ありげに見上げて聞き入っている。
 何やかやとあるけれど、いい親子関係なのだろう。        (1994年記)

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