こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

禁煙喫茶店の挑戦

2014年11月24日 01時05分42秒 | おれ流文芸
 三十歳でやり始めた喫茶店。自分の店を持つと心に決めてから五年目だった。調理師免許を求めて二年間の調理専門学校通い。簿記学校が一年、卸売市場にパートで働き、駅ビルにあった喫茶店と、郊外の喫茶レストラン、コーヒー専門店と渡り歩いた。いつも自分の店を持つという信念での行動だった。
 ついに喫茶店経営に達した時の嬉しさは格別だった。自分のアイデアを惜しげもなく取り入れた。何とか軌道にのせたが、途中で結婚したのが誤算だった。とはいえ、家族への愛を持てなければ今はなかったに違いない。子供三人に恵まれたが、末っ子はアトピー。私に選択の余地は限られていた。
 モクモクとタバコの煙に包まれる店内を見て、最終的に出した結論は『禁煙喫茶店』への転換だった。大事な我が子の健康を守るためには仕方がない決断だった。しかし、もう引き返せない。食事中心の店に転換を図った。
『禁煙喫茶店』は新聞やテレビに取り上げられた。当時では珍しい挑戦だったのだ。しかし結果的に失敗だった。まだ時代は禁煙に市民権を与えるまでに至っていなかった。喫茶店は閉店の憂き目にあった。転職した。
 定年後、じっくりと考える時間が増えた。夢の実現は、やはり記憶が今も鮮明だ。それに付随した禁煙喫茶店という冒険と、その失敗での悲喜こもごもも昨日のように思い出す。あの時、こうしていればなんて思ったりもするが、不思議と後悔はない。
 たぶん、自分が熟慮したうえでの行動だったのだ。それにあの時の子供たちは元気に育ってくれた。私の決断が子供の健康を守ったのだ。家族愛に殉じたとの思いがある。
「喫茶店の経営は中途半端やったんやね」
 と、子供に皮肉られたことがある。
「いや。自分で一番いい方法を選んだんだ。誰かに強要されたわけじやないぞ。それを中途半端なんて言えるか?お父さんは自分の人生に後悔なんかしない。まっすぐ生きてきたんだから。おかげで、僕には過ぎた息子らが、目の前にいてくれる」
 迷いのない私の言葉に、息子は頷いた。
「いいか。長い人生。浮きも沈みもする。しないはずがない。でもどんな時も自分を見失わなければ大丈夫。それに愛する家族のために生きるってことだ。最終的には家族を選ぶ。それが僕の生き方だったから、今の幸せがあると思う」
 いつしか、孫たちが話を聞き入っていた。
 熟慮と決断。愛するものへのこだわり。それをしっかりと持てる人間に育ってほしい。それが悔いのない人生につながる。
 妥協と打算の時代である。純粋に生きるのは難しいかも知れない。でも、次の世代に伝えたい。一途な愛の素晴らしさを。愛を守るために逞しく生きられるってことを。私の浮き沈みの激しかった人生は家族への愛のこだわりが乗り越えさえてくれたのだから。

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