老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

認知症老人同士の会話は続く

2020-04-26 19:58:15 | 老いの光影 第6章 「老い」と「生い」
4回目のネイル。サングラスをかけたSNOOPY


1517; 認知症老人同士の会話は続く

二人の婆さんは、認知症を患っており、数分後には記憶は薄れてゆく・・・・。

光代婆さん(83才)と智恵婆さん(88才)は、横並びに椅子に座り、
窓越しに風景を眺めていた。

春の日下がり
光代婆さん; 息子さんは、小学生なのかい?
智恵婆さん; (窓から見える杉の樹を指差し)あそこに柿がなっているよ

二人の会話は最初から最後まで噛み合わず
お互いに違う話をしていた。
でも、会話は途切れることなく続いていた。

不思議な話というか不思議な出来事であった。
なぜ、認知症老人同士の会話は続いたのか・・・・。

ふと、思った。
それは、二人の婆さんは、「あなたの話、オカシイよ(間違っているよ)、と
否定せず、聴いているからではないか。

話が間違っているかどうかよりも
自分の話を聴いてくれたことが、当の本人には嬉しいのである。

「さっきその話聞いたよ」「3回その話聞いたから」「いま、春だよ、柿はなっていないでしょ」などと
否定的に答えたり、間違いを指摘したりされる、と
そこで会話は中断し、席を立ってしまう。

認知症老人同士の会話から教えられたこと
相手の話を聞いて、間違いやオカシイことを指摘せずに、聴くことを大切にする。

認知症老人と話をするとき
テーブルをはさんで向かい合い話をするのではなく、
ソファやベンチを利用し
身体をやや斜めにし、相手の手を握れる間隔をとり座り会話する。
スキンシップが何気なくとれる。

デイサービスやグループホームだから、認知症老人の話を聴けるのである。
在宅は介護者の介護による疲労困憊があり、心の余裕がとれず、
同じ話を何度も聴くのは疲れが増し苛立ってくることさえある・・・・




壊れかけの受信機

2020-04-26 05:09:01 | 老いびとの聲

蓄音機に耳を傾け聴くニッパー


1516; 壊れかけの受信機

人間は、発信機と受信機が備わっている。
発信機は、言葉を話し相手に思いを伝えること。
受信機は、耳を傾け相手の言葉を聴きとり感じること。

きょうは、受信機のことを書いていきたい。
受信機ではないけれど、ラジオを連想した。
徳永英明さんの『壊れかけのRadio』を聴くと
なんだかしんみりと聴こえくる。


テレビがなかった時代のラジオから流れてくる音楽に
昔の人は、耳を傾けたものだった。
トランジスタラジオを畦道に置き
聴きながら野良作業をしていた父親。

ある40代半ばの女性ケアマネジャーは
在宅訪問のとき
老妻や長男嫁から何度も何度も同じような話(愚痴)を聞くのは嫌になる。
そのような在宅は11時過ぎ頃に訪問し
「もうお昼が近いので、これで失礼します」と話を打ち切り、おいとまをする、という。
嗚呼、壊れかけの受信機を持つ人だな、と思ってしまった。

在宅介護者から同じよう悩みや愚痴を話されても
ケアマネジャーはジッと耳を傾け聴くことから
相手との信頼関係が築かれていく。

在宅介護者は、悩みや愚痴を聴いてくれるだけでも
気持ちが軽くなったりスッキリしたりして救われたりする。
それは、認知症老人も同じ。
認知症老人の話をじっくりと聴くことで、老人は心落ち着き、穏やかになる。

半分わかったような気持ちで、相手の話を聞いていると
相手はわかる。この人は、わたしの話を聴いてはいない、聞いているだけ。

相手の話を聴くということ
それは、相手の言葉を聴いた「わたし」は
もうひとり「私」と自己対話をとおし
相手の気持ちを(心情)汲んでいく。


ビクターのトレード犬 ニッパーを思い浮かんだ。
ニッパーは、蓄音機から流れてくる音楽に耳を傾け聴いている。
ニッパーに見倣い、耳を傾け老人やその家族の聲を聴く。