老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

感謝知らずの老女(おんな)

2020-04-28 12:23:01 | 老いの光影 第6章 「老い」と「生い」


1520;感謝知らずの老女(おんな)

96歳の真代婆さんをみて
昔、井上陽水が歌っていた『感謝知らずの女』を想い出した。

替え歌に作り直してみた。

『感謝知らずの老女(おんな)』
編詩 星光輝  作曲 井上陽水

私はあなたの為に
すべて忘れて介護をした
食事作りも洗濯も
みんなあなたの為にしてあげた
だけどあなたは
感謝知らず 感謝知らずの老女(おんな)
あなたの好きなちらし寿司を
いつか誕生日にあげた
そしてあなたは言った
もっと旨いのが欲しいわ ah…

だからあなたは
感謝知らず 感謝知らずの老女
ありがとうと一言
なぜいえないのかなぁー
たとえ寝たきりになっても
私はあなたの介護をするだろう
しかしあなたはこの愛を
あたりまえだと 思うのだろう
だからあなたは
感謝知らず 感謝知らずの老女
ありがとうと一言
なぜいえないのかなぁー
感謝知らずの女 感謝知らずの老女
感謝知らずの老女 uh…


同じ敷地内の隠居宅にひとり棲む老女。
目が見えても「何にも見えねえ~」と呟く。

母屋から長男嫁は手作りのおかずを届けても
「旨くねえ~」と言いながら食べる。
「旨くねえ~」と言われてから作ることはやめた。
弁当や総菜を買ってきてテーブルの上に置いた。
気に入らないと弁当を手つかずのままゴミ箱に捨てたり、
家の裏に行き野良猫にあげたりしていた。

週3回デイサービスを利用していた(要介護2)彼女は、
デイサービスで悲劇のヒロインを演じていた。
「家の嫁は、何にもしてくれねえ~」「何にも食べてねえ~」とまことしやかに話す。
どこでどう老女は捻じれた性格になってしまったのか。

在宅訪問のとき、「素直に“ありがとう”と一言話せば、嫁さんはもっと良くしてくれるよ」、と話すも
「・・・・・・・」であった。
姑のプライドから照れくさいのか、それとも捻じれた性格からなのか、
「ありがとう」の言葉が出てこない。
 
真冬、玄関を開け放したまま石油ストーブをつけているから、灯油の減りがはやい。
息子から、怒られてもどこ吹く風の老母であった。

コロナウイルス騒動の最中、息子(69歳)は、桜の花が咲く前に、
突然の脳梗塞に襲われ亡くなった。
「大きな荷物を置いて夫は逝ってしまった」、と話す長男嫁の気持ちは塞ぎ、
「この先、どうしていけばよいのかわからない。姑の世話はもうしたくない」。

長男嫁は狸寝入りしている姑に 
「薄皮饅頭をテーブルの上に置いておくよ」、と話しかけられても、目はつむったまま。
足が遠のき、姿がみえなくなると、薄皮饅頭を手に取り一口で食べてしまう。
その後お茶を飲むわけでもなく、また横になり寝てしまう。

有線放送に『感謝知らずの女』をリクエストし
真代老女と一緒に聴いてみたいけれど、
あるのは村の有線放送機器が茶箪笥の上に置かれ埃が溜まっていた。

人間、自分に対しても他人(ひと)に対しても、
「ありがとう」の感謝の気持ちと
「すいません(申し訳ありません、ごめんなさい)」の謝る気持ちを持つことの大切さを感じた。

暮らしが貧しくてもこころは貧しくなく、
感謝知らずの人にはならぬよう、
日頃から小さな幸せや感動に感謝しながら生きていきたいものだ。
 
コメント (2)
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