自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

秋の暑さとサクラの開花

2013-10-18 | 植物

サクラが季節外れに開花する理由については,取り上げたことが二度あります。そのことにちなむ話です。

先日10月12日はとても暑い一日となりました。10月の最高気温が観測史上最高だったと騒がれた地方があります。なんと,真夏日だったのです。もちろん,観測開始以来,もっとも遅い真夏日になります。東京もその一つ。

それで,写真入り記事で紹介されたのが公園のソメイヨシノ。枝にはサクラの花が数輪。ある新聞社の配信記事にはこうあります。「江東区の亀戸中央公園では、135本ある桜(ソメイヨシノ)のうち1本で開花が確認された。同公園によると10月に入ってから咲き始め、この時期の開花は初めてという」と。

また,別の記事では,宮城県白石市でもソメイヨシノが咲き人々を驚かせていると報道しています。さらに記事は続きます。「白石市によりますと、この地域で秋に桜が開花したのは確認されたことがなく,……」「仙台管区気象台の担当者は,『サクラは、冬の寒さを経験したあとに暖かくなると咲く性質があるので,この時期の気温が高いだけで咲くのは考えにくく,開花の原因は分からない』と話しています」と。記事はこのまま終わっています。

たまたまテレビニュースを視ていると,仙台のこのサクラが紹介されていました。それで,わかったことがあります。それはサクラの葉が完全に散っていたことです。東京の例は,写真ではよくわかりません。

一目で開花した理由がわかりました。葉の落ちた枝のあちこちでわずかに咲いていて,満開とは縁遠い風景でした。わたしの経験を思い浮かべても,秋にサクラ(ソメイヨシノ)が咲くのは珍しくありません。風か虫の影響で葉が落ちたサクラを丹念に調べていけば,どこかで一輪,二輪,見かけます。ちらほら咲いている,そんな感じです。

この現象はふしぎではありますが,開花メカニズムについては,すでに科学の目が解き明かしています。それによると,単に暑さに起因しているわけではないというのです。単純に考えれば,もし気温だけが関係しているのなら,サクラを一枝手折ってきて温かい部屋に置いておけばいいでしょう。そうすれば開花するはず。

実際はそうはなりません。もしそうなるのなら,毎年多くの人が試みているでしょう。これを考えても,開花のしくみはそんな簡単なものではないことがわかります。

ふつうの開花メカニズムを整理すると次のようになります。

  1. 花芽は暑い最中,7月にできる。
  2. 夜長になりかけると,葉がそれを季節の変化とみて「間もなく寒さが訪れる前ぶれである」と感知する。
  3. 葉は成長抑制ホルモン(アブシシン酸)をつくって花芽に送り,越冬芽(休眠状態)にする。こうなると,いくら暖かさがやって来ても,どんなに暖かくなっても開花しない。
  4. 成長抑制ホルモンは冬の寒さによって壊され,越冬芽は目覚めかける。そして,春の暖かさを感じるごとに,ぐんぐん成長する。

では,寒さを経験していないのに,なぜ秋に咲いたのでしょうか。このメカニズムは上の3に関係あります。葉から成長抑制ホルモンが花芽に移動する前に落葉してしまったため,メカニズムに狂いが生じたことによるのです。開花が抑制される前の状態なら,気温に左右される場合がありうるわけです。したがって,暑い日が続いたことによって春だと早合点して咲いたわけではないのです。もし早合点したのなら,花咲じいさんが魔法をかけたように木全体がパアッと花をつけてもよさそうです。

もし,一本の木を実験台にして,成長ホルモンが移動する前に人為的に緑の葉を取り去った場合,どうなるでしょう。もちろん,暑い環境下におけば同じように開花するだろうと容易に察しが付きます。

逆に,いったん成長抑制ホルモンが移動した後であれば,冬にいくら暖かくしても開花時期を極端に早めることは不可能なのです。今から10年余り前に大阪府立植物園で,ソメイヨシノをビニルハウスに入れて開花を早める一大実験が行われたそうです。結果は2月25日が満開日だったといいます。多少の早咲きにはなりますが,あくまで寒さを体感してこその開花だという点が生理学上のポイントになっています。

地球温暖化の影響がサクラの開花にも影を落とすのではないかといわれています。暖冬傾向が花のみごとさを減じるというのです。厳冬こそ,真にサクラの花芽を育てます。

科学部の記者にこうした現象に関心がある人がいれば,こんなあいまいに記事が出されっ放しにはならないでしょう。気象台の担当者が理解できなくても,研究者なら理解しています。植物園にでも問い合わせて,説明を付したらいいだけの話です。聞く相手が違っていたわけです。メディア関係者の心得としてはいかがなものでしょうか。こんな調子ですから,毎年のように同じ類いの記事が流れ,真実の姿がみんなのものになっていきません。

情報の受け手であるわたしたちの心得として,情報を鵜呑みにしてはならないなあとつくづく思います。

 


ようこそ,ルリタテハの幼虫(続々々)

2013-10-18 | ルリタテハ

10月11日(金)。一日が経過。かたちが安定してきました。長さは3.2mm。くびれ部分の金属光沢はツマグロヒョウモンのそれを連想させます。

10月12日(土)。変化は見られません。

10月14日(月)。 色に目立つ変化はなし。蛹の表面に 口吻,触覚,脚がくっきり見えます。

 

10月17日(木)。 変化は感じられません。改めて尾端を固定している絹糸を見ると,相当頑丈に見えます。これだけでからだの落下を防いでいるので当然といったところでしょうか。念のために,写真を撮りました。糸がびっしり張り巡らされているのに驚かされます。糸はひとつながりになっているはず。