自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

氷の中の,そして靴の下のいのち

2016-12-06 | 随想

人の感度って,ほんとうにさまざまで,おもしろいなあとついつい感じてしまう話題がこのほど紙上に紹介されました。

九州のある市のテーマパークにあるスケートリンクが企画した話題です。リンクの氷の中に死んだ魚を5000匹閉じ込めて,つまり氷漬けにして,その上を滑ることを目玉にしたもの。紙上報道では,当初の趣旨について「海の上を滑っている感覚を味わってもらいたい」ということばが紹介されています。そして,宣伝文句に「5000匹の氷漬けにされた魚の上をスイスイと滑走」「前代未聞のアトラクションで,日本初,いや世界初間違いなし!!」とあったといいます。“あった”というのは,事情があって今はこのことばが消されたことを指します。それにしても,「ここまでやるかー!」って感じです。

11月12日から来年5月までの予定で,このスタイルで開業。開業後,さっそく批判が出なかったのでしょうか。

月末,近県のローカルテレビ局がこの企画を紹介。局の報道姿勢は不明です。それはともかくとして,これが批判のきっかけになってネット上で大騒ぎに。当のテーマパークは急きょ,企画を中止せざるを得なくなったというわけです。紙上に載った総責任者のことばは次のもの。「みなさんの意見,不快にさせたことを重く受け止めた。大変反省している。FB上の書き込みについてもこれから管理を見直したい」。

以上が,今回の騒動のあらましです。


わたしが感じるのは,魚のいのちに思いを馳せる精神のなさです。魚をわたしたちが口にするのは,いのち相互の止むを得ない関係であり,宿命でもあります。いのちをいただく意味を受けとめる素養がすこしでもあれば,自制心がはたらいたのかもしれません。娯楽を優先するこの手の企画,いのちの軽視だと思われてもしかたないでしょう。

“前代未聞”だとか,“世界初”だとか,そんなキャッチフレーズを押し出す発想は,じつに安っぽく見えます。商業主義の最たるものではないかな。組織として,ことばのチェック機能がちっともはたらいていなかったのです。

じつのところ,同じように見える企画に,花や魚の氷漬けもあります。魚や骨格などをアクリルに封入したグッズもあります。乾燥させた骨格もあります。しかし,それらは人の感覚に訴える一定の価値を持っています。美とか真とかに迫る価値を包み込んでいます。それを見て,忌避する人はほとんどいないでしょう。生け花を見て,かわいそうだと嘆く人はいてもとても稀でしょう。盆栽を見て,かわいそうな育て方だと思う人はいてもごく僅かでしょう。歓迎される氷漬け企画には,それらと相通じるものがあります。自然をいろんなかたちで理解したり,愛でたりする方向性が文化の薫りを漂わせてもいます。

この点,元いのちのかたちだったものの上を,靴で平気で滑ってたのしむ娯楽はこれらとまるで質がちがっています。

そうした疑問が,当初から出て来なかったのがふしぎなくらい。組織の課題でもあります。まことに,人の感度はさまざまです。

(付記)写真は本文とは関係ありません。