ここ数年、この時期には、福乃友酒造の「冬樹」を飲むことが恒例になっている。最近では、「冬樹」もずいぶんと有名になってしまったが、手づくりできちんとした酒をつくるという福乃友酒造のスタンスは変わっていないようだ。福乃友酒造は、秋田県大仙市神宮寺にある蔵元で、手作りにこだわり、「個性派」を自認しており、それは社長の「無理をして事業を展開してダメになるよりは、地道でもいいから、ずっと継続することだけを考えて酒作りをしよう」という言葉によくあらわれている。
特に「無調整純米吟醸 冬樹」は、本来酒作りには適さないといわれる飯米のキヨニシキを使ったいわば異色の逸品で、全国的にも稀なほど鉄分が少ないといわれる雄物川の伏流水の井戸水を使用しているのも特徴だ。
本当の手作りなので毎年毎年微妙に味が違う。というと、通ぶっているように聞こえるかもしれないが、誰でもわかるほどに味が違うのだ。しかも、味が違っても基本的にうまいということはかわらないのがうれしい。昨年の冬樹は酸味が強かったが、今年のはとてもフルーティーな風味だった。一口飲んだ瞬間、しばらくぶりにうまいと口走ってしまった。この思いを誰かに伝えたいと思い、家事をしていた妻に「今年の冬樹はうまいよ」といったら、あきれられてしまった(いつものことではあるが……)。
ともあれ、今宵の酒はうまい。年末に飲む酒がうまいのは、心にゆとりがあるからだろうか。