WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ハーフノートのウェス・モンゴメリーとウイントン・ケリー・トリオ

2010年08月21日 | 今日の一枚(W-X)

●今日の一枚 283●

Wynton Kelly Trio-Wes Montgomery

Smokin' At The Half Note

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 もう十年近く前のことだが、突然、自転車の旅にでようかと計画したことがあった。恐らくは人生の半分以上を終えた自分自身を、身体を痛めつける中で考え直してみようかと思ったわけだ。先ず手始めに、70㌔程のところにある妻の実家までの道を自転車で走破しようと思い立ったが、峠を3つ程越えるアップダウンの激しいコースと十分な身体的準備もせず敢行したため、当初往復の計画が、片道でダウン。最後の方は足に乳酸がたまり、もう一歩も歩けない始末だった(帰りは車に自転車を積んで帰宅した)。この話を中学生の長男にしたところ、父親を乗り越えようということだろうか、突然自分も挑戦するといいだし、お盆を利用して妻の実家へと自転車で旅立っていった。さすがに若者、往路を4時間ほどで走破し、4~5日の滞在の後、復路も3時間半ほどで走破した。復路は、休みのとれた私も所々車で伴走したが、泣き言ひとついわず走り続ける長男にわが息子ながらなかなかに感心した。まったく親ばかである。

 『ハーフノートのウェス・モンゴメリーとウイントン・ケリー・トリオ』(青盤)。イジーリスニングでないウェスだ。1965年のニューヨーク「ハーフ・ノート」でのライブ2曲と同年のスタジオ録音3曲からなる作品である。白熱の演奏だ。ウェスのオクターブ奏法全開なのだが、ギターを弾いた経験のない人にそんなことをいってもリアリティーがないだろう。けれど、ギター奏法の知識などなくとも十分に楽しめる。ギター&ピアノ・ソロ満載の「フォー・オン・シックス」。『インクレディブル・ジャズ・ギター』にも収録されていたが、こちらは一段とノリがよい。落ち目といわれていたケリーも熱いソロを展開し、まさしく白熱だ。

 ドラムスのジミー・コブ。もう20年程前だが、一関「ベイシー」でのライブで生演奏を見たことがある。ナット・アダレイのグループでの演奏だったが、理知的でドラムスの求道者然とした外見にすっかり魅了され、まだ若かった私はカッコいい、とあこがれたものだった。

 


オールディーズ

2010年08月20日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 282●

The Beatles

A Collection Of Beatles Oldies

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 昨秋、発売されて話題になったThe Beatles Box、ミーハーな私は当時の宣伝にあおられて大金はたいて日本盤黒BOXを買ったのだった。ビートルズのLPは相当の枚数を所有していたのだが、私が大学に行って実家をあけている間に、中学生や高校生になったいとこたちがビートルズに興味をもって借りていき、結局かなりの枚数が散逸してしまった。その後、CDで揃えようかと思ったのだが、ビートルズのCDはすごく音が悪いとの風評に二の足を踏んでいたのだった。

 初期のモノラル作品がステレオ化されたこの黒BOX、評判どうり確かに音は悪くはない。おかげでここ半年、ビートルズを聴く機会も多くなった。しかしそれにしてもなぜ『オールディーズ』がCDで発売されないのだ。

 1966年リリースされた『オールディーズ』、1963年から1966年までのシングル曲とアルバム収録曲から選曲された、ビートルズ活動期に発売された唯一の公式コンピレーション・アルバムである。ビートルズには、アルバムには収録されていないシングル曲が多数あるため、2枚組みの『パストマスターズ』なるCDが発売され、黒BOXにも入っているのだが、内容があまりにも雑多なため、はっきりいって聴く気になれない。そこにいくと、『オールディーズ』はヒット曲が効果的に配され、ひとつの作品としてきちんと成立している。当時、このLPは多くのヒット曲が収録されているためお買い得感があり、実際私が買ったビートルズのレコードはこのアルバムが最初だった。

side one

1. She Loves You  2. From Me To You  3. We Can Work It Out   4. Help! 
5.  Michelle  6. Yestarday  7. I Feel Fine  8. Yellow Submarine

Side two 

1. Can't Buy Me Love  2. Bad Boy  3. Day Tripper  4. A Hard Day's Night  5. Ticket To Ride  6. Paperback Writer  7. Eleanor Rigby  8.  Want To Hold Your Hand

 しばらくぶりに、『オールディーズ』を聴いてみた。音がいい。黒ボックスのCDだって決して悪くはないが、LPは音の鮮度が全然違う。最近時々思うのだが、古い作品を聴く時はやはりLPで、できれば当時のオーディオセットで聴くのが一番いいのではないだろうか。ビートルズもそうだが、ストーンズもツェッペリンも、かつて家にあった家具調ステレオで聴いた音が忘れられない。今の装置で、あるいはCDで聴くと、音が悪くなくとも、ちょっと違うんだよなあ、などと思ってしまう。浅薄なノスタルジーのなせる業だろうか。

 ところで、昨秋、The Beatles Box を買ったとき、おまけとして、缶バッチコレクションをもらった。ビートルズのアルバムジャケットを缶バッチにしたもののセットだが、私は結構気に入っており、長男は馬鹿にして嫌がっているが、玄関ホールに飾って自己満足している。

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立原正秋箴言集(5)

2010年08月19日 | 立原正秋箴言集

この世の現象に恒常性がなく、すべてが空であるにしても、私はあの小さな存在を守ってやらねばならなかった。(『冬のかたみに』)

自伝的作品『冬のかたみに』の最後の方の、「百メートルほど前に、日傘をさして乳母車をおして歩いている妻の後姿があった。それは小さな存在だった。」という文に続いてでてくる言葉です。誠実な人間の強さと優しさを感じ、共感できます。


立原正秋箴言集(4)

2010年08月17日 | 立原正秋箴言集

人間というのは不思議なもので、自分達のやっていることが、ひとつの力となって高められてくると、前後が見えなくなり、わけもなくその坩堝のなかに入りこんでしまうものです。そんなときに、これは危ない、と感じる人はごくまれです。それがわかる人は、やがて、人間のまいにちのごく平凡な生活に目を戻し、あの坩堝は危なかった、と歩いてきた道を振り返るものです。(『きぬた』)

 『きぬた』の終りの方にでてくる言葉です。ほとんど人生訓ですが、それでもなかなかに含蓄のある言葉であり、私などはときどき思い出します。


ズートのクッキン

2010年08月14日 | 今日の一枚(Y-Z)

●今日の一枚 281●

Zoot Sims

Cookin' !

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 気分が良い。空はちょっとくもりがちだが、過ごしやすい気候だ。家族は帰省中で、家にひとりだ。昨夜の食べ残しのレタスサラダとごはんを使って、朝からレタスチャーハンをつくり、読みかけの本をゆっくりと時間をかけて読んでいる。レタスチャーハンを作りながら大音響で聴いた一枚を紹介……。

 ズート・シムズの1961年録音作品、『クッキン』。LP時代は幻の名盤などと呼ばれたアルバムであるが、CD時代になってそれも今は昔だ。単身でロンドンを訪れたズートが現地のジャズメンとロニー・スコット・クラブで競演したライブ作品である。ズートの作品の中では特に評価の高い、『ダウン・ホーム』と『イン・パリ』の間に録音された作品でもあり、まあいつものことだがズートは好調である。

 なんといってもズートは元気がいい。フレーズもよどみなくスムーズに流れる。「スウィンガー」の異名をとるズートらしく、爽快なスウィング感である。とにかくズートは楽しげである。このウキウキするアルバムにほかにどういう説明を加えればいいのだろう。


トシコ-マリアーノ

2010年08月13日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 280●

Toshiko Mariano Quartet

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 今日は車で1時間程の妻の実家で家族と合流する予定だったが、疲れが溜まったせいか身体全体がだるく、予定をキャンセルした。QPコーワゴールドを飲み、昼間から熱い風呂に入ったら、身体の方のコンディションもだいぶ改善された。したがって、必然的に、今宵も「ジャズ喫茶ごっこ」第2夜である。

 何を聴こうか迷った挙句、たまたま目についたのは秋吉敏子&チャーリー・マリアーノの1960年録音作品『トシコ・マリアーノ・カルテット』である。チャーリー・マリアーノと結婚したばかりのトシコが発表した初期の快作である。ベースの柔らかい音がとても気に入っており、以前はよく聴いたアルバムである。愛聴盤だったといってもいい。最近はなぜか聴く機会が少なくなってしまった。

 やはり、名曲⑤ Long Yellow Load が印象深い。トシコが生まれ育った満州の長い黄色い道と、アメリカのジャズの世界で黄色人種の演奏家として歩き続けていく長く険しい道をシンクロさせたこの名曲は、それ自体素晴らしいが、チャーリー・マリアーノの哀愁のアルトがそれを際立たせている。正直いえば、この演奏におけるトシコのソロはやや凡庸なものに思え、チャーリー・マリアーノのソロもやや冗長で、意味不明のことをだらだらと長くしゃべる頭の悪さ(ちょっといいすぎ?)を感じてしまうのだが、美しく印象的なテーマ部のアレンジと演奏のまとまりは、やはり出色である。素晴らしい。感動的な演奏だ。

 これまで⑤ Long Yellow Load の印象が非常に強く、この曲だけを繰り返し聴くことの多かったこのアルバムであるが、今回の「ジャズ喫茶ごっこ」で大音響で全5曲を通して聴いてみると、そのどれもが中々に素晴らしい演奏であることを再認識した。やはり、「ジャズ喫茶ごっこ」は時々やってみるものである。


バードランドの夜

2010年08月13日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 279●

Art Blakey

A Night At Birdland

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 本当にしばらくぶりのオフだ。ああ疲れた。温泉にでも行きたい。昨日まではHCを務める高校バスケットボール部のサマーキャンプに付き合い、今日からやっと3日間休みだ。妻や子どもたちはすでに妻の実家に帰省しており、昨夜はしばらくぶりに「ジャズ喫茶ごっこ」(だいぶ飲んだので「ジャズバーごっこ」といった方がいいだろうか……)をした。

 暑い日々が続いていたので、ここは思いっきり汗をかこうと、昨夜のジャズ喫茶ごっこで取り出したのがこのアルバムだ。アート・ブレイキー・クインテットの1954年録音作品、『バードランドの夜』第1集・第2集、ハードバップ誕生の歴史的瞬間を記録したといわれる作品である。第1集・第2集を通して聴いたのは何年ぶりだろう。もう記憶にすらないが、10年あるいは20年ぶりかも知れない。

 録音の古さからホレス・シルヴァーのファンキーなピアノがサウンド的にいまいちビンビン響いてこないのがたまにきずだが、クリフォード・ブラウンのはちきれんばかりの明快なトランペットの響きが生き生きと伝わってくる。アルトのルー・ドナルドソンもなかなかがんばっており、安酒のまわった私は、年がいもなくひとりで悦に入り、身体を揺さぶりリズムを取ってしまう有様だった。

 ところで、ちょっと前にさかんに売り出されたRVG(ルディー・ヴァン・ゲルダー)リマスタリングと銘打ったCDで聴いてみたのだが、以前聴いていたレコードの方がより生々しく感動的に思えるのはどういうことだろう。RVGは、アルフレッド・ライオンとともにBlue Noteの音をつくりあげた稀代の名エンジニア、ルディー・ヴァン・ゲルダーの手でLAの倉庫に保管されていた最良のマスタへテープをリマスターしたものだが、不遜な物言いだが、ちょっと違うんだよなと思ってしまう。もちろんそういう試みがジャズのひとつの楽しみだということを否定するわけではないのだが、やはり演奏や録音というものはその時代の雰囲気と熱気とともにあるのであり、ジャズを聴く楽しみの中にはそういう時代精神にひたることもあると思うのだ。もちろん、そのCDを購入し、聴いたのはこの私であり、市場経済の中での選択の自由を謳歌している私の責任なのだが……。いずれにせよ、私はRVGには懐疑的である。この次は、レコードを聴こう。