WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

さようならK先生

2022年05月01日 | 今日の一枚(U-V)
◎今日の一枚 577◎
上田知華+KARYOBIN
上田知華+KARYOBIN[3]
 上田知華さんの訃報に接した数日前、かつて同僚だったK先生が亡くなった。退職して10年程である。早すぎる死だ。先月、末期のすい臓がんが発見されたが、延命治療を望まず、自宅で療養していたとのことだった。
 彼とは2校で同僚となり、教科は違うが学ぶことの多い先生だった。退職して数年間はいくつかの学校の非常勤講師を務めた。底辺校の国語の授業での作文指導を楽しそうに語っていた。その後は、中国人など海外から来た生徒の学習支援のために、無料の学習塾を運営したりしていたようだ。
 私が30代前半の頃、赴任したばかりの進学校で彼のクラスの副担任を務めた。卒業式後の最後のHRに驚愕した。生徒が自ら企画運営し、それぞれの生徒が挙手して次々に発言していった。生徒たちは、自分の思いを吐露し、人前では言いにくい自分の醜い部分について話す生徒も多かった。HRは長時間に及んだが、担任のK先生はほとんどしゃべらず、笑顔で話を聴いていた。ずっとだ。すごいクラスだと思った。自分にこのようなクラスが作れるだろうかと自問自答した。
 彼の死を知ったのはやはり元同僚の先輩教師からの電話だったが、火葬・葬儀は近親者のみで済まされており、その日に「お別れ」のみ行われるという。供物・香典も固辞するとのことだった。「お別れ」に行くと、彼の置手紙をもらった。「お別れ」に来てくれた人への手紙だった。死と向かい合い、それを受け入れながら書かれた、いい文章だった。彼らしいと思った。

 今日の一枚は、上田知華+KARYOBINの1980年作品、『上田知華+KARYOBIN[3]』である。apple music でしばらくぶりに聴いている。前作よりソフィスティケートされた作品であり、完成度も高い。ヒットした④パープルモンスーンはもちろんいい曲だ。女性が自分を解放して自己表現し、元気になりはじめた、80年代初頭の雰囲気をよく表しているように見える。けれども、私は②ベンチウォーマーを聴きたいと思う。この時代の、内気な女性の内面の葛藤をよく表しており、共感を禁じ得ない。

 同時期に、同じすい臓がんで亡くなったからだろうか。何の関係もないはずの上田知華とK先生とがダブってイメージされてしまう。
 さようなら、K先生。
 
 


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