WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

遅ればせながらの花火

2021年11月10日 | 今日の一枚(M-N)
◎今日の一枚 557◎
Modern Jazz Quartet
Together Again
 先日(11/7)、私の住む気仙沼市で花火があった。本来、8月のみなと祭りで打ち上げるはずだった花火である。コロナ禍でみなと祭りそのものが中止されたため、遅ればせながら打ち上げられたのである。軽度の障害のある花火好きの次男の熱烈な希望で、見物に出かけた。
 私たちが見た場所は、気仙沼湾横断橋の全景を見ることができる蜂が崎の展望台である。市街地の対岸にあたるが、横断橋ができたため自宅から容易に行くことができるようになった。なかなかの眺めだった。
 気仙沼魚市場も七色にライトアップされてきれいだった。素晴らしい眺めだが、観光客が宿泊するホテルと同じ岸辺にあるため、観光客はこの眺めを堪能できないのではないかと思った。余計なお世話である。
 気仙沼湾横断橋もライトアップされ、なかなかの眺めである。私の旧式のiphoneではうまく撮影できなかったのが残念である。

 今日の一枚は、MJQの『トゥゲザー・アゲイン』である。1982年のモントルーのライブ盤である。再結成後のMJQのライブだ。早いスピードで流麗に、しかも楽曲の美しさ損なわずに展開される演奏には感服である。すっかり忘れていたアルバムだったが、たまたま発見してかけてみたら、あまりの素晴しさに聴き込んでしまった。

  1. "Django" - 5:47
  2. "The Cylinder" (Milt Jackson) - 5:18
  3. "The Martyr" (Jackson) - 8:43
  4. "Really True Blues" (Jackson) - 5:39
  5. "Odds Against Tomorrow" - 8:53
  6. "The Jasmine Tree" - 4:42
  7. "Monterey Mist" (Jackson) - 4:05
  8. "Bags' New Groove" (Jackson) - 4:15
  9. "Woody 'n' You" (Dizzy Gillespie) - 3:47
※曲目が間違っていました。修正しました。


おかえりモネ展

2021年11月07日 | 今日の一枚(S-T)
◎今日の一枚 556◎
Salena Jones
Mystery Love
  「おかえりモネ」の最後の2週、「大人たちの決着」「あなたが思う未来へ」は、非常に印象深い内容であった。いままで放送された内容と結びつき、一挙に疑問が氷解され、いろいろ考えさせられるものだった。
 先日、私の住む気仙沼市にある「海の市」という物産施設を訪れた。たまたま用事があって近くに行ったところ、「おかえりモネ展」を開催しているというので立ち寄ってみたのである。どうせ気仙沼市のやる事だからまた中途半端なものだろうという思いもあったが、話のタネにと考え赴いた。ところが結果からいえば、意外と充実したものだったように思う。あまり期待していなかったのでそう思ったのかもしれないが、私のテンションは急上昇だった。
 入場は無料である。

 大きなパネルやドラマの場面の写真、撮影風景の写真を中心に構成されていたが、中にはこんなものもあった。
 テーマソングの映像を模して、ここに入って走るポーズで写真を撮るのである。恥ずかしながら、私もやってみた。こういうものがあると、やってみたくなるのだ。
 興味深かったのは、小道具の展示だった。実際に撮影に使われた小道具がいつくも展示されていた。なかなか興味深かった。
 「かさいるか」ちゃんと「こさめ」ちゃんである。
 チーム鮫島の関連小道具もいくつか展示されていた。
 りょうちんの「カンバン」である。このような着物を地元気仙沼ではカンバンという。全国的には「まいわい」というようだ。ずっと以前、網野善彦さんが気仙沼市でこの「まいわい」に関する講演を行ったのを思い出す。もう30年程前のことだ。
 最終週のりょうちんがこの「カンバン」を着るシーンは、実に感動的だった。彼は、自分自身の人生を生きる航海へと旅立とうといているのだ。

 今日の一枚は、サリナ・ジョーンズの1984年作品、『ミステリー・ラブ』である。サリナ・ジョーンズはLPもCDも持っていない。けれども、このアルバムはよく聴いた。学生時代に貸しレコード屋で借りたものを録音したカセットテープで聴いたのだ。そのテープは今も持っている。サリナ・ジョーンズのことは詳しくは知らないが、このアルバムは好きだ。何度も聴いた記憶がある。このアルバムを手に入れたいが廃盤のようだ。Apple Musicでも見当たらない。いくつかあるベスト盤の一つなのかもしれない。
 学生時代以来聴いていなかったサリナ・ジョーンズのことを思い出したのは、数年前、大船渡のあった頃のh.イマジンで聴いてからだ。たまたま訪れたときにかかっていたのである。それがサリナ・ジョーンズであることはすぐに分かった。細胞にインプットされているのである。それほど聴き込んだのだ。音のいいセットで聴くしばらくぶりのサリナ・ジョーンズは、なかなかのものだった。以来、『ミステリー・ラブ』を手に入れたいとずっと思っている。
1. Mystery Love
2. Up Where We Belong
3. Love Is In The Air
4. Still
5. The Way We were
6. Sentimental Journey
7. You've Got A Friend
8. Stuck On You
9. My Love
10. Antonio's Song
11. Lately
※LPから録音したのだが、どこまでがA面なのかわからない。


天皇制批判の常識

2021年11月07日 | 今日の一枚(A-B)
◎今日の一枚 555◎
Ben Sidran
Laver Man
 小谷野敦さんの本のタイトルである。『天皇制批判の常識』(洋泉社新書:2010)という書物である。この本の中で、小谷野さんは、従来の戦争責任や権力論、階級・君主制論と全く別の視点で、天皇制度を批判し反対している。すなわち、「法の下の平等」の視点から、日本に居住していながら国民として扱われず、基本的人権を保障されない天皇あるいは皇室という存在を犠牲にして、社会制度が成り立っていることを批判しているのである。被抑圧者としての民衆ではなく、天皇の人権という観点から論じているところが面白い。なお、この本の中でも触れられているが、社会学者の橋爪大三郎さんも、基本的人権が認められない不合理に皇族を縛り付ける国は人権と民主主義の国では無いとして、 同じような視点から天皇制度に反対している。
 基本的に首肯すべき見解だと思うが、この本が出た2010年頃にはこうした見解にリアリティーはなかった。論理として面白いと思っただけだ。ところが、秋篠宮長女結婚問題などを契機に、小谷野さんや橋爪さんの見解にリアリティーが生じてきたように思う。皇室も自由を求め始めているのだ。
 近代市民社会が人権というものを基本的価値として成立していることを考えると、このことは重大な矛盾だといえる。社会制度を守るために、特定の個人の人権を犠牲にしていいのかという根源的な問いかけがなされなければならないだろう。一方、そうまでして、守らなければならない《日本的な価値》(そんなものがあればの話だが)が、それに値するのかが問われなければならない。
 私自身は、歴史を学ぶ者として、天皇制度は肯定的な意味でも否定的な意味でも歴史的に大きな役割を果たしたと考えているが、その役割は終わりに近づいていると考えている。もともと日本は文化的アイデンティティーを内面化しやすく、天皇制度などなくとも「統合」の意識は生じやすいが、急激な近代化の推進のための国民統合の必要上作られたのが近代天皇制度である。したがって、歴史的には特異な制度である。けれども、肥大化し拡散した今日の時代状況は、もはや特定の価値観で統合することは困難に見える。皇室のあり方に対する「錯乱」した状況は何よりそれを表している。少なくとも、結婚問題を契機に発せられた皇室に対する罵詈雑言を見る限り、国民統合の象徴としての権威の失墜が露呈しつつあるように見える。皇室が悪いのではない。国民が変化してしまったのだ。

 今日の一枚は、ベン・シドランの1984年作品、『ラヴァー・マン』である。学生時代の愛聴盤だが、現在は廃盤のようだ。残念ながら、LPもCDも所有しておらず、学生時代に貸しレコード屋で借りたLPをダビングしたカセットテープで聴けるのみである。日本人を皮肉った①Mitubishi Boys のようなユニークな曲も収録されている。
 ベン・シドランは《ドクター・ジャズ》と呼ばれ、ジャズをベースにロックやファンク、フュージョンを行き来する、ボーダレスな感性の知性派であるといわれる。才能のある人なのだ。才能があるゆえに、興味関心が拡散していくのであろう。もったいないと、思う。このような才能のある人こそ、ジャズを突き詰め、突き抜けて、新しい境地を確立して欲しかったと思ったりもする。