(1)世論調査では、安倍政権の個別政策(安保法制や原発再稼働)に反対が過半数を占めている。
にもかかわらず、安倍内閣への支持率は高い。アベノミクスへの幻想が安倍政権への薄い支持をかろうじて支えているからだ。
テレビや新聞は、まっとうなアベノミクス批判を行わない。いま最大のメディアタブーのひとつは、アベノミクスの失敗だ。
(2)アベノミクスは、「第一の矢」(異次元の金融緩和)で本格化した。2013年4月、黒田東彦・日本銀行総裁は、
国債などを大量に購入することでベースマネーを138兆円→270兆円に倍増し、
2015年に消費者物価上昇率2%と名目経済成長率3%以上(実質経済成長率1%以上)
を実現するという目標を掲げた。だが、完全に失敗した。
2014年の消費者物価上昇率は1.8%(消費税増税の影響分を除くとマイナス0.2%)
実質経済成長率はマイナス0.9%
岩田規久男・日本銀行副総裁は、物価目標2%を達成できなければ辞任すると豪語したが、辞任するどころか、
2015年の消費者物価上昇率の目標を0.7%に引き下げ、
さらに80兆円の追加金融緩和を実施した。
(3)(2)の惨状をメディアが袋だたきにしないのは、アベノミクスがスポンサー(大手企業)の目先の収益を拡大する面が大きいからだ。実際、実質経済成長率はマイナスなのに、大手企業は史上最高益を上げている。
(a)日銀の金融緩和は円安と株高をもたらした。
(b)有利な法人税減税を行った。
(c)労働者派遣法「改正」やホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法案)を実施しようとしている。
(4)多くの人は「景気が好くなった」という実感を持てるはずがない。
そこで、安倍政権はひたすら株高でアベノミクスへの期待を持たせようとする。だから、①支持率が下がる出来事が起きるたびに、②支持率が下がりそうな政策を実行する際に、株高の「演出」が繰り返される。株式は「官製相場」となり、メディアは株価が最高値を更新と煽る。ちなみに「演出」の仕方は具体的には、
(a)日銀が上場投資信託(ETF)を購入して株式市場全体を買い支える。その購入額は5.5兆円超。
(b)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と3つの共済年金が株式を買う。その購入額は31兆円(2015年3月末)だが、現在はもっと膨らんでいるはずだ。
(5)問題は、こうした株価つり上げ政策によって外国人投資家の株式保有率が高まっていることだ。
「グローバリゼーション」が叫ばれた1990年代以降、
銀行を中心にしたグループ企業の株式相互持ち合いを解消し、
日本型企業集団を解体する
ことが「改革」とされた。そのため、国際会計基準が導入され、企業が保有する株式など金融資産を評価するルールが代わった。
購入時の簿価で評価 → 時価会計主義(その時の市場価格で評価)
不良債権処理の失敗を背景に、銀行や企業は保有株式を手放していった。それとは逆に、外国人株主の保有比率が上昇していった。
小泉政権期に飛躍的に伸びて20%台に乗った。
その後もジワジワ増加し、
アベノミクスがスタートしてからは30%を超え、
2014年度には31.7%に達した。
いまや売買に占める外国人のシェアは60%超。日本の株式市場は外国マネーに席巻されている。これに比べ、日本の個人投資家の保有率はわずかに17%にすぎない。
その結果、外国人株主による日本企業支配が強まっている。名だたる大企業が「外資系企業」【注】になっている。
<例:製薬企業>中外製薬、アステラス
<例:金融・保険業>三井住友FG、りそな、新生銀行、第一生命、東京海上、損保JAPAN
<例:不動産・建設>三井不動産、三菱地所
<例:製造業>日産自動車、スズキ、日立製作所、ソニー、ファナック、栗田工業、花王、オムロン、住友重機、村田製作所、任天堂、コニカミノルタ、
<例:その他>オリックス、国際石油帝石
【注】外国人の保有比率が3分の1を超えた企業(経済産業省の定義)。
(6)最優良企業のトヨタ自動車も外国人投資家の株式保有比率が3割超だ。このまま外国人の株式保有比率が高くなっていけば、トヨタ得意の「日本型経営」を維持できなくなる可能性がある。
そこで、トヨタは5年間売却できない代わりに「元本」を保証する個人向け特殊株「AA型種類株式」を最大5,000億円発行する計画を株主総会で可決した。
(7)外国人投資家の持ち株比率の上昇は、安倍政権の政策「外国人資本家を呼び込む」によってもたらされている。「5つのクジラ」((4)の(a)日銀、(b)GPIFと3つの共済年金)による株式購入だけではない。
(8)企業自身も多額のフリーキャッシュフローを持たないと、自社の株価を維持できない。そのため、企業は内部留保をせっせと溜め込む。
安倍政権は、企業の利益が大きくなる政策((3)-(b)、(c))を次々に打ち出している。その結果、法人企業統計から見た内部留保(利益剰余金)は、
2012年度 300兆円超
2013年度 328兆円
さらに、配当を増やさないと外国人投資家を呼び込めず、自社の株価も維持できない。そのため、企業は
2014年度 13兆円(純利益の4割)
もの株主還元を行っている。
(9)内部留保を溜め込み、株主に純利益の4割も還元する一方、現金給与総額および決まって支給する給与は
1990年代以降、下落を続け、
2010年にいったんプラスに転じたが、
すぐマイナスになり、
2014年に再びプラスになった。
しかし、消費税増税や輸入物価の上昇に追いつかず、
2015年5月まで実質賃金指数は25ヶ月連続でマイナス。
もはや、大手企業が史上最高益をあげても、株価が高くなっても、それがしたたり落ちるトリクルダウンは起きていない。
(10)(9)の結果、
家計消費は低迷し、
需要が引っ張る物価上昇は起きず、
起きているのは消費税増税の影響と円安に伴う輸入物価の上昇だけ。
さらに、雇用流動化に伴う若者の非正規労働化は、結婚も出産もできない状態をつくりだし、少子高齢化を加速させている。
こうしてやせ細っていく国内市場に対して大手企業は投資しない。いまや外国が投資先になって、外国企業を買収するM&Aを盛んに行っている。
その一方、円安に伴う輸入物価によって、輸入原材料に依存し、国内市場を相手にしている中小企業は経営を圧迫されている。
(11)以上、要するに、
(a)安倍政権は、「危険ドラッグ」(①異常な金融緩和+②官製相場)を使って、アベノミクスへの幻想をつなぎ止めている。それはつまり、①日銀の異常な金融緩和と、②日銀・年金による株式購入で株価を支えながら、外国人投資家に日本企業を買い取らせる政策だ。
(b)①法人税減税と、②労働規制緩和で若者から搾り取って、企業は内部留保を溜め込み、利益を国内投資や労働者の待遇改善には回さず、外国人株主に還元していく。
(c)(a)と(b)から浮かび上がってくるのは、日本は円安誘導もあって、150兆円の米国債を買って米国の財政赤字を支える一方、外国人投資家が167兆円もの日本株を買い、大儲けしている構図だ。
(d)(c)の結果、国内企業はますます先細り、それを補うために財政出動に依存せざるを得なくなる。日銀による国債購入財政ファイナンス)が延々と続くことになる。
(12)(11)-(d)は、金融市場を麻痺状態に腐らせている。ゼロ金利政策だけではない。金融緩和しても銀行から先に資金が流れていかない。
日銀の当座預金残高 213兆円(2015年5月末)
銀行預金残高 656.5兆円(同)
銀行貸出金 454.3兆円(同)
預金量の伸びに貸出金の伸びが追いついていない。国債は購入すればすぐ日銀が買い取ってしまう。250兆円余の有価証券残高の利益配当金などで何とか収益を上げている。
ということで、いくら日銀が異常な金融緩和を行っても、銀行の資産は伸びていない。銀行経営も官製相場に依存している。収益を上げるとしたら海外しかない状況に置かれている。
(13)日銀の国債保有残高は293兆円に達している(2015年7月)。
内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2015年2月)では、
2017年に物価上昇率3.3%になった後
2%になり、
名目成長率は2018年までに4%まで上がる
ことになっている。このシナリオどおりにいけば
金利も上昇せざるを得ない。
金利が上昇すれば、日銀の保有する国債価格が下落して、巨額の評価損が発生する。
国債価格の下落を抑えるためには自縄自縛のジャブジャブ介入を続けなければならない。
そうなれば、金融市場の不安定性が高まる。
つまり、アベノミクスには出口がない。
そこで、財政赤字を削減する必要性が叫ばれ、社会保障費の自然増の抑制という削減で、それを達成しようとする。それは労働法制の改悪とともに、格差と貧困の拡大をいっそう深刻化する。
つまり、日本国民から搾り取って、外国人投資家を儲けさせるために経済政策を行っているようなものだ。
アベノミクスは、「日本を取り戻す」ではなく、「日本を売り渡す」政策だ。
□金子勝(慶應義塾大学経済学部教授)「アベノミクスは「日本を売り渡す」」(「週刊金曜日」2015年7月24日号)
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にもかかわらず、安倍内閣への支持率は高い。アベノミクスへの幻想が安倍政権への薄い支持をかろうじて支えているからだ。
テレビや新聞は、まっとうなアベノミクス批判を行わない。いま最大のメディアタブーのひとつは、アベノミクスの失敗だ。
(2)アベノミクスは、「第一の矢」(異次元の金融緩和)で本格化した。2013年4月、黒田東彦・日本銀行総裁は、
国債などを大量に購入することでベースマネーを138兆円→270兆円に倍増し、
2015年に消費者物価上昇率2%と名目経済成長率3%以上(実質経済成長率1%以上)
を実現するという目標を掲げた。だが、完全に失敗した。
2014年の消費者物価上昇率は1.8%(消費税増税の影響分を除くとマイナス0.2%)
実質経済成長率はマイナス0.9%
岩田規久男・日本銀行副総裁は、物価目標2%を達成できなければ辞任すると豪語したが、辞任するどころか、
2015年の消費者物価上昇率の目標を0.7%に引き下げ、
さらに80兆円の追加金融緩和を実施した。
(3)(2)の惨状をメディアが袋だたきにしないのは、アベノミクスがスポンサー(大手企業)の目先の収益を拡大する面が大きいからだ。実際、実質経済成長率はマイナスなのに、大手企業は史上最高益を上げている。
(a)日銀の金融緩和は円安と株高をもたらした。
(b)有利な法人税減税を行った。
(c)労働者派遣法「改正」やホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法案)を実施しようとしている。
(4)多くの人は「景気が好くなった」という実感を持てるはずがない。
そこで、安倍政権はひたすら株高でアベノミクスへの期待を持たせようとする。だから、①支持率が下がる出来事が起きるたびに、②支持率が下がりそうな政策を実行する際に、株高の「演出」が繰り返される。株式は「官製相場」となり、メディアは株価が最高値を更新と煽る。ちなみに「演出」の仕方は具体的には、
(a)日銀が上場投資信託(ETF)を購入して株式市場全体を買い支える。その購入額は5.5兆円超。
(b)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と3つの共済年金が株式を買う。その購入額は31兆円(2015年3月末)だが、現在はもっと膨らんでいるはずだ。
(5)問題は、こうした株価つり上げ政策によって外国人投資家の株式保有率が高まっていることだ。
「グローバリゼーション」が叫ばれた1990年代以降、
銀行を中心にしたグループ企業の株式相互持ち合いを解消し、
日本型企業集団を解体する
ことが「改革」とされた。そのため、国際会計基準が導入され、企業が保有する株式など金融資産を評価するルールが代わった。
購入時の簿価で評価 → 時価会計主義(その時の市場価格で評価)
不良債権処理の失敗を背景に、銀行や企業は保有株式を手放していった。それとは逆に、外国人株主の保有比率が上昇していった。
小泉政権期に飛躍的に伸びて20%台に乗った。
その後もジワジワ増加し、
アベノミクスがスタートしてからは30%を超え、
2014年度には31.7%に達した。
いまや売買に占める外国人のシェアは60%超。日本の株式市場は外国マネーに席巻されている。これに比べ、日本の個人投資家の保有率はわずかに17%にすぎない。
その結果、外国人株主による日本企業支配が強まっている。名だたる大企業が「外資系企業」【注】になっている。
<例:製薬企業>中外製薬、アステラス
<例:金融・保険業>三井住友FG、りそな、新生銀行、第一生命、東京海上、損保JAPAN
<例:不動産・建設>三井不動産、三菱地所
<例:製造業>日産自動車、スズキ、日立製作所、ソニー、ファナック、栗田工業、花王、オムロン、住友重機、村田製作所、任天堂、コニカミノルタ、
<例:その他>オリックス、国際石油帝石
【注】外国人の保有比率が3分の1を超えた企業(経済産業省の定義)。
(6)最優良企業のトヨタ自動車も外国人投資家の株式保有比率が3割超だ。このまま外国人の株式保有比率が高くなっていけば、トヨタ得意の「日本型経営」を維持できなくなる可能性がある。
そこで、トヨタは5年間売却できない代わりに「元本」を保証する個人向け特殊株「AA型種類株式」を最大5,000億円発行する計画を株主総会で可決した。
(7)外国人投資家の持ち株比率の上昇は、安倍政権の政策「外国人資本家を呼び込む」によってもたらされている。「5つのクジラ」((4)の(a)日銀、(b)GPIFと3つの共済年金)による株式購入だけではない。
(8)企業自身も多額のフリーキャッシュフローを持たないと、自社の株価を維持できない。そのため、企業は内部留保をせっせと溜め込む。
安倍政権は、企業の利益が大きくなる政策((3)-(b)、(c))を次々に打ち出している。その結果、法人企業統計から見た内部留保(利益剰余金)は、
2012年度 300兆円超
2013年度 328兆円
さらに、配当を増やさないと外国人投資家を呼び込めず、自社の株価も維持できない。そのため、企業は
2014年度 13兆円(純利益の4割)
もの株主還元を行っている。
(9)内部留保を溜め込み、株主に純利益の4割も還元する一方、現金給与総額および決まって支給する給与は
1990年代以降、下落を続け、
2010年にいったんプラスに転じたが、
すぐマイナスになり、
2014年に再びプラスになった。
しかし、消費税増税や輸入物価の上昇に追いつかず、
2015年5月まで実質賃金指数は25ヶ月連続でマイナス。
もはや、大手企業が史上最高益をあげても、株価が高くなっても、それがしたたり落ちるトリクルダウンは起きていない。
(10)(9)の結果、
家計消費は低迷し、
需要が引っ張る物価上昇は起きず、
起きているのは消費税増税の影響と円安に伴う輸入物価の上昇だけ。
さらに、雇用流動化に伴う若者の非正規労働化は、結婚も出産もできない状態をつくりだし、少子高齢化を加速させている。
こうしてやせ細っていく国内市場に対して大手企業は投資しない。いまや外国が投資先になって、外国企業を買収するM&Aを盛んに行っている。
その一方、円安に伴う輸入物価によって、輸入原材料に依存し、国内市場を相手にしている中小企業は経営を圧迫されている。
(11)以上、要するに、
(a)安倍政権は、「危険ドラッグ」(①異常な金融緩和+②官製相場)を使って、アベノミクスへの幻想をつなぎ止めている。それはつまり、①日銀の異常な金融緩和と、②日銀・年金による株式購入で株価を支えながら、外国人投資家に日本企業を買い取らせる政策だ。
(b)①法人税減税と、②労働規制緩和で若者から搾り取って、企業は内部留保を溜め込み、利益を国内投資や労働者の待遇改善には回さず、外国人株主に還元していく。
(c)(a)と(b)から浮かび上がってくるのは、日本は円安誘導もあって、150兆円の米国債を買って米国の財政赤字を支える一方、外国人投資家が167兆円もの日本株を買い、大儲けしている構図だ。
(d)(c)の結果、国内企業はますます先細り、それを補うために財政出動に依存せざるを得なくなる。日銀による国債購入財政ファイナンス)が延々と続くことになる。
(12)(11)-(d)は、金融市場を麻痺状態に腐らせている。ゼロ金利政策だけではない。金融緩和しても銀行から先に資金が流れていかない。
日銀の当座預金残高 213兆円(2015年5月末)
銀行預金残高 656.5兆円(同)
銀行貸出金 454.3兆円(同)
預金量の伸びに貸出金の伸びが追いついていない。国債は購入すればすぐ日銀が買い取ってしまう。250兆円余の有価証券残高の利益配当金などで何とか収益を上げている。
ということで、いくら日銀が異常な金融緩和を行っても、銀行の資産は伸びていない。銀行経営も官製相場に依存している。収益を上げるとしたら海外しかない状況に置かれている。
(13)日銀の国債保有残高は293兆円に達している(2015年7月)。
内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2015年2月)では、
2017年に物価上昇率3.3%になった後
2%になり、
名目成長率は2018年までに4%まで上がる
ことになっている。このシナリオどおりにいけば
金利も上昇せざるを得ない。
金利が上昇すれば、日銀の保有する国債価格が下落して、巨額の評価損が発生する。
国債価格の下落を抑えるためには自縄自縛のジャブジャブ介入を続けなければならない。
そうなれば、金融市場の不安定性が高まる。
つまり、アベノミクスには出口がない。
そこで、財政赤字を削減する必要性が叫ばれ、社会保障費の自然増の抑制という削減で、それを達成しようとする。それは労働法制の改悪とともに、格差と貧困の拡大をいっそう深刻化する。
つまり、日本国民から搾り取って、外国人投資家を儲けさせるために経済政策を行っているようなものだ。
アベノミクスは、「日本を取り戻す」ではなく、「日本を売り渡す」政策だ。
□金子勝(慶應義塾大学経済学部教授)「アベノミクスは「日本を売り渡す」」(「週刊金曜日」2015年7月24日号)
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