語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】大政翼賛社会の不気味さ ~東芝問題と「ゆう活」~

2015年08月15日 | 批評・思想
 (1)東芝が「不適切会計問題」で揺れている【注】。
 予算どおりの利益を上げられない事業部門に経営トップが「工夫しろ」と求め、損失の計上を先送りにしていたことが、7月の第三者委員会の調査報告書で露呈したからだ。

 (2)東芝は、2003年施行の商法改正で認められた「委員会設置会社」にいち早く移行、企業統治(コーポレートガバナンス)の先進企業という評価を得てきた。
 しかし、仕組みは機能しなかった。
 その原因として「上司の意向に逆らえぬ企業風土」を、報告書は指摘する。

 (3)「東芝過労うつ病労災・解雇訴訟」では、原告A(東芝深谷工場で液晶開発にあたっていた女性技術者)は、昨年3月、原告勝訴が確定した(最高裁)。
 厳しいノルマを課せられ、長時間労働、人員削減の中、過労うつ病で休職、労災申請した。
 しかし、2004年、休職期間満了で解雇された。
 チームの増員要求にも、体調不良の訴にも上司は耳を貸さなかった。チーム内では、半年間に2人が自殺した(うち1人は労災認定)。
 上司が体調不良の訴を真摯に受け止めていれば、犠牲者は出なかった、と Aは言う。この事件の背後にも、
   「上の命令に逆らえない企業風土」
がチラつく。

 (4)かかる硬直的な上意下達の労務管理は、7月から国家公務員を対象に始まった「ゆう活」にも見ることができる。
 8時半~9時半の始業を7時半~8時半に繰り上げ、その分早く退庁し、夕方の時間帯を趣味や家族との交流に使う制度だ(「ワーク・ライフ・バランス政策」)。
 施行から1ヶ月。庁内からは「疲れた」との声が相次いでいる。
 国会が大幅延長になり、待機のため早朝出勤を強いられ、深夜まで職場にいなければならない。早朝出勤で、
   保育園へ送るのに苦労する。
   子どもと朝食を摂れなくなった。
 ワーク・ライフ・バランス政策が目指すはずの子育てと仕事の両立とは逆の状況が発生しているのだ。
 7月26日、都内で開催された(国内外で働く)女性の交流会で、安倍首相が、「始業時間が早くなっただけだという批判も聞こえるが、何か始めなければ何も世の中は変わらない」と、「ゆう活」批判に反論。
 自民党の野田聖子・議員が、
   「『ゆう活』に参加できない人たちを知っているか。子育てしている人たちだ」
   「朝早く来なさいということは、子どもはどうするの、ということ」
と切り返し、話題になった。

 (5)いま日本では、労働組合の組織率が18%を割り、意思決定層への監視勢力が機能しなくなった。こうした社会では、
   経営陣の保身のための会計捏造
   働き手を無視した政権の人気取りの「働き方改革」
が横行する。
 事実を究明し、対策を立てるという経営や政治の基本が壊れつつある。

 (6)「対抗勢力がなくなると組織は弱くなる」【御厨貴・政治学者】。これが、今の自民党勢力だ。
 対抗勢力に鍛えられることなく、一線の声を聞く緊張感もなく、「今だけカネだけ自分だけ」に落ち込んでいく。
 そんな「大政翼賛」の不気味を
   「東芝問題」
   「ゆう活」
は浮き彫りにする。  

 【注】「【東芝】「不正会計」の主役は安倍ブレーン ~産業競争力会議の犯罪者~

□竹信三恵子「東芝問題と「ゆう活」が示す大政翼賛社会の不気味 ~経済私考~」(「週刊金曜日」2015年8月7日号)
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