語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【櫻井よしこ】南シナ海問題で完敗でも拒否する中国 常軌を逸した習近平体制の暴走

2016年07月19日 | 社会
 (1)国際法を守る陣営と、守らない陣営との対立が、際立つ形で浮上した。
 2016年7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、南シナ海における中国の主張や行動は国連海洋法条約に違反するとしてフィリピン政府が訴えた件に関して、中国が南シナ海に独自に設定した境界線「九段線」には法的根拠がないとの判断を示した。裁定はこれで確定し、上訴はない。
 「南シナ海」は2000年前の古代から中国の海」としてきた主張が全面的に否定された。中国の完敗だ。

 (2)裁定の骨子、南シナ海のほとんどを中国領とする根拠としての九段線の否定のほかは、次のとおり。
  (a)中国がスプラトリー諸島のミスチーフ礁で造成した人工島はフィリピンの排他的経済水域の200カイリ内にあり、フィリピンの主権を侵害する。
  (b)スプラトリー諸島には国連海洋法の定義で定められる島はない。したがって、そこに人工島を造成しても、人工島を基点にして排他的経済水域、領海などは形成されない。
  (c)中国は、フィリピン漁民の活動を著しく妨害した。
  (d)中国は、生態系に取り返しのつかない害を与えた。

 (3)習近平政権には、さぞ激震が走ったことであろう。だが、中国側はこの裁判自体を認めず、裁定も受け入れないと早くから宣言してきた。米国が空母10隻を南シナ海に展開しても中国は恐れないなどと強弁してきた。
 実際、仲介裁判所の裁定公表の日程が決まると、中国はその直前まで、1週間にわたって最大規模の軍事演習を行った。
 裁定の公表当日も、習首席を筆頭に強い拒否を意思表示した。
 習主席は、北京で開かれたEUの会議でトゥスクEU大統領に向かって、「中国の南シナ海における領土主権と海洋権益は、いかなる状況下でも裁定の影響を受けない。裁定に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と宣言した。王毅外相は、「裁定に至る手続きは終始、法律の衣をかぶった政治的茶番だ」と批判した。

 (4)国際法を真っ向から否定する姿を見せつけも、アジアインフラ投資銀行に参加し、出資し、共に仕事をしようとする欧州諸国の理解を得られると中国首脳はマジメに考えているのだろうか?
 法を守らない中国に、透明な金融政策を期待することなぞできない、と考えようともしないのか?
 中国側の反応は、常軌を逸している。習体制は異常だ。

 (5)言葉による拒否だけでなく、中国は新たな軍事行動もとった。南海艦隊は海南省三亜市の海軍基地に最新鋭のミサイル駆逐艦「銀川」を配備し、命名式をやってみせた。スプラトリー諸島のミスチーフ礁とスービ礁には建設済みの飛行場があるが、そこで民間機による試験飛行を行い、成功したと発表した。中国は法の支配を離れて力の支配を選択した・・・・ということを世界に示したのだ。
 法に基づく国際社会の秩序を尊ぶ国々にとっての課題は、今回の裁定をどう具現化していくか、だ。まず南シナ海の支配を着々として強める中国に対して、21世紀のアジア秩序は国際法、平和的話し合い、各民族の尊重という普遍的価値と原則に基づくべきだと主張し続けることが大事だ。

 (6)次に、中国の暴走を抑止する力を形成することだ。
 各国が共に助け合う仕組みを構築し、米国を中心とする軍事的枠組みの強化に、日本が貢献しなければならない場面だ。
 南シナ海で起きることは東シナ海でも必ず起きる。アジアの秩序と安定のために、力を尽くすことが日本を守ることになる。
 そのために3分の2の議員発議で憲法改正を実現せよ、以下略。

 【注】
【櫻井よしこ】米でも絶賛の中国の要人が豹変 ~永遠なのは国益~

□櫻井よしこ「南シナ海問題で完敗でも拒否する中国 常軌を逸した習近平体制の暴走 ~オピニオン縦横無尽~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月23日号)
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 【参考】
【櫻井よしこ】米でも絶賛の中国の要人が豹変 ~永遠なのは国益~
【櫻井よしこ】西側は自国第一主義を深め、中国は民主主義の限界に自信を深める ~英国のEU離脱~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(2) ~商売上手な中国、政治主導の経済~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(1) ~踏んだり蹴ったり~

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【櫻井よしこ】米国でも絶賛の中国の要人が豹変 ~永遠なのは国益~

2016年07月19日 | 社会
 (1)戴秉国(たい・へいこく)は中国の要人。胡錦濤前政権の外交トップを務めた実力者。
 米国をはじめとする世界が戴をどれほど重視していたかはヒラリー・クリントンの回顧録“Hard choices(困難な選択)”、2014年刊からも見えてくる。
 同書に日本関連の記述は殆どない。勧告に関する記述の方が多い。他方、中国に関して2章に渡って詳細に記されている。
 2009年早春、クリントン国務大臣(当時)は初の外遊先に日本を選んだ。22時間滞在したが、日米対話は上滑りするだけで成果を残さなかった。ところが、日本の後に訪問した中国では丸4日を過ごした。そのとき出会ったのが戴秉国だ。
 戴氏はクリントン氏の気持ちを掴んだ。
 「会った瞬間から会話が弾んだ。われわれは(その後)何年もわたって会話を重ねた。彼は私に度々講義(lecture)をするのだった。いかに米国のアジア政策が間違っているか、彼は皮肉をちりばめながら、しかし、穏やかな笑顔を忘れずに語る」
 ある日の会話では、戴氏が胸から一葉の写真を取りだして見せた。小さな可愛い女の子、恐らく戴氏の孫の写真だ。戴氏は語った。
 「われわれの仕事は全てこの子たちのためですよ
 クリントン氏は、「彼の心情はそのまま私の心情でもあった」と述懐する。クリントン氏の未来世代にかける「情熱を共有」したことが、二人の関係が長く太く杖付いたことの基本だとクリントン氏は書いている。
 健康維持のための運動と長時間の散歩を戴氏に勧められてまんざらでもない彼女の姿勢は、彼に対する親近感の表れでもあろう。
 ヘンリー・キッシンジャー元国務長官も戴氏についてクリントン氏に申し送りしていた。「中国で会った人物の中で恐らく最も素晴らしく、かつ開明的人物」だと。そして、その識見の深さと、中国政界における戴氏の重要性を強調した。

 (2)米要人に絶賛された戴氏はしかし、豹変した。
 戴氏は、7月5日、米ワシントンで講演し、南シナ海領有権問題に関してオランダ・ハーグの常設仲介裁判所が7月12日に下す裁定は「ただの紙くずだ」と語った。
 中国外務省が公開した資料では、戴氏は次のようにも語っている。
「仲裁裁判所の決定は何も重大なことではない」
「いかなる国家も中国に対し、裁定に従うよう強制してはならない」
「フィリピンが挑発的な行動を取れば、中国は決して座視しない」
 激しい対米発言もしている。
「たとえ10隻の空母戦闘群全てを南シナ海に派遣しても、中国人を脅すことはできない」
 国家間の関係の前には、個人的友情や好意など、木っ端微塵に吹き飛ぶのだ。永遠なのは国益だけだ。

□櫻井よしこ「米でも絶賛の中国の要人が豹変 国家間で求められる国益の要点 ~オピニオン縦横無尽~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月16日号)
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 【参考】
【櫻井よしこ】西側は自国第一主義を深め、中国は民主主義の限界に自信を深める ~英国のEU離脱~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(2) ~商売上手な中国、政治主導の経済~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(1) ~踏んだり蹴ったり~

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【櫻井よしこ】西側は自国第一主義を深め、中国は民主主義の限界に自信を深める ~英国のEU離脱~

2016年07月19日 | 社会
 (1)日本を含む西側諸国は、自由と民主主義こそ大事で、中国にはそれが欠けていると、中国を批判してきた。
 だが、6月23日の英国の投票結果を見て中国は、西側の民主主義とはこんなものかと自信を深めているだろう。

 (2)ロシアと中国は、6月23日と25日、ウズベキスタンと中国の北京で立て続けに異例の首脳会談を行った。西側の混乱を分析し、それをどのように自分たちの勢力拡大につなげていくかを話し合った。両国が宇宙における軍拡競争をも念頭に共同戦線をつくる構えであることが発表資料から読み取れる。

 (3)EU離脱は、連合王国英国の輝きをおよそ全て消し去るほどの負の影響をもたらすだろう。国土の3分の1を占めるスコットランドは、スコットランド領内にある北海油田、英国の原子力潜水艦の母港といわれるクライド海軍基地を持って、英国から独立するだろう。
 米国系銀行を筆頭に、各国金融機関は欧州本部をパリ(フランス)、またはダブリン(アイルランド)に移し、英国経済の柱であり続けてきた金融センター、ロンドンのシティーも力を落としていきかねない。
 EUの側からは英国の離脱決定直後から早期の手続き会誌を要請する声があがった。離脱後の政策を描ききれていないから時間をかけて手続きを進めたい英国とは対照的に。

 (4)英国が連合王国の座を自ら放棄し、小国へと縮小していくプロセスからEUは学べるだろうか。疑問だ。
 どの国も全体像を見渡すことなく、「自国第一」の排他的思考に陥りつつある。EUには自国第一主義の遠心力が働いている。
   ①フランスの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首。
   ②ドイツの「ドイツ人のための選択肢」のフラウケ・ペトリー党首。
 強硬派が力をつけている。オランダ、ポーランド、チェコ、スロバキア、オーストリアでも同様の傾向が色濃い。  

 (5)バラバラになりかねないEU、弱くなるEUと米国の関係、その間隙を中露が突いてくる。
 <例>東シナ海における中国人民解放軍の空軍機の自衛隊機に対する威嚇行動【産経、6月29、30日】
 中国人民解放軍の戦闘機が「攻撃動作を仕掛け、空自機がミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱した」と、織田邦男・元航空自衛隊空将が明らかにした。「産経」はさらに、中国軍戦闘機が6月17日を含めて複数回、空自機に攻撃動作を仕掛けたと報じた。
 これまで空自と中国空軍の間にはこれ以上は互いに接近しないという暗黙の了解があった。しかし、いま中国空軍はその一線を越えたのみならず、空自機に正面から向き合う体勢をとった。織田氏はこれを事実上の戦闘行為と指摘した。

 (6)中国の挑戦は、空だけでなく海でも起こっている。
 中国は、初めて沖縄県尖閣諸島および鹿児島県口永良部島の海に軍艦を入れてきた。
 東シナ海での対日策の強硬化に見られるように、中国もロシアも西側の混乱に乗じて攻勢に出てくるだろう。

□櫻井よしこ「英国のEU離脱で深まる自国第一主義 西側民主主義の限界に自信深める中国 ~オピニオン縦横無尽~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月9日号)
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 【参考】
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(2) ~商売上手な中国、政治主導の経済~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(1) ~踏んだり蹴ったり~

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