語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【保健】機能性表示食品がトクホを上回るペースで増加 ~野放し~

2016年07月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)機能性表示食品の聖域化がますます顕著になってきた。
 ライオンの商品誇大広告は、消費者庁が再発防止策を勧告した【注1】。
 国(食品安全委員会)が、効果効能や安全性を審査して合格したものであっても、「医薬品のごとく効果を宣伝することは許されない」と、消費者庁は、初めてトクホにメスを入れたのだ。
 「トクホであっても聖域ではない。何をしても構わないということではない」という消費者庁の強い意志の表れだ。

 (2)保健機能食品(トクホ、栄養機能食品、機能性表示食品)に属さない健康食品も、消費者庁は、今までに何度も景品表示法違反で摘発している。
 景品表示法違反に該当しない場合でも、水素水を作るとうたった装置【注2】のように、国民センター自らが実験し、「飲用におる効果を表したものではない」と消費者に注意を喚起した例もある。
 食品ではないが、2014年3月には、二酸化塩素を使った空間除菌グッズも、消費者庁はメーカー側の実験結果を調査し、「合理的根拠がない」として景品表示法違反で摘発している。
 いずれも罰則のない行政処分だが、根拠のない健康食品や健康グッズを氾濫させないための抑止力にはなっている。これが、国(消費者庁)の本来の姿だ。

 (3)一方、機能性表示食品について、消費者庁は、
  (a)届出資料を基に寄せられる疑義情報
  (b)消費者庁による予算事業(機能性に関する科学的根拠の検証--届け出られた研究レビューの検証事業、買い上げ調査を実施)
などの結果を踏まえ、事後確認を行っている。しかし、今のところ、事後確認の検証結果については何ら公表されていない。

 (4)品目数は、
  (a)トクホ・・・・1991年にスタートし、25年後の2016年4月現在、表示が認可された商品は1,241品目。
  (b)機能性表示食品・・・・2015年4月にスタートし、1年後の2016年3月末で273品目が届出を受理され、6月には320品目を超えた。
 どうしてこんな短期間で(b)が販売されているかというと、
   ①トクホよりはるかに少ない開発費で済む。
   ②短期間で市場に出せる。 
   ③機能性表示食品なら摘発されない。
 特に③の実態が大きな要因になっている。

 (5)事業者からすると、トクホよりカネがかからないのに、トクホと同じように機能性(効果効能)を訴えることができ、しかも行政に摘発されないのだから、こんなありがたい商品はない。トクホより機能性表示食品を販売したほうが、はるかにメリットが大きいので、競って届出する。
 事後確認が一切されていない機能性表示食品制度は、まったく機能していない。まさに野放し状態だ。
 このまま進めば、機能性表示食品は「一切審査も調査もされない聖域」になってしまう。一刻も早く、一つの商品でよいから、事後確認をした結果を公表すべきだ。

 【注1】「【保健】勧告すべきはライオンのほかにも ~トクホ商品誇大広告~」 
 【注2】「【食】「水素水」ブーム便乗商品に気をつけろ ~効果は疑問~

□垣屋達哉「トクホを上回るペースで増える機能性表示食品 このまま野放しで大丈夫か?」(「週刊金曜日」2016年7月1日号)
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【中国】脅威論の「虚」と「実」 ~中国海軍の実力~

2016年07月27日 | 社会
 (1)中国は国防費を急増させ、必死で軍艦を造っているような印象が日本にはあるが、実際はどうか。
 中国の国防費は2,979億元(2006年)から9,543億元=14兆円余(2016年)に。10年間で3.2倍。だが、中国のGDPは2005年から2015年までの10年間に3.7倍、歳出は6.4倍だから軍拡に必死というわけではない。抑制が利いているほうだ。日本の高度成長期、1970年から80年にはGDPが3.4倍、防衛予算は3.9倍になった。急成長した他の国々でも同じ現象が起きた。税収、予算が拡大すると軍への分け前も増えるのは自然の勢いだ。

 (2)中国だけが特別ではないとしても海軍の増強は事実ではないか。
 数的には中国海軍はこの10年間で潜水艦が58隻から61隻(うち旧式15隻)になり、駆逐艦は27隻から19隻に、それより小型のフリゲートは44隻から54隻(うち旧式22隻)になった。かつては何百隻もあったミサイル艇、魚雷艇を整理して、代わりにコルベットを18隻建造している。
 潜水艦、水上艦とも旧式を廃棄しつつ、新型を入れているが、装備の更新は、よほど貧しい国は別としてどの国の軍も行うことだ。「近代化による戦力向上」は他国でも起こるから、基本的には相殺される要素だ。
 中国海軍の近代化は日本、韓国、台湾などに比べてひどく遅れ、いまやっと追いつきつつあるが、技術的に課題が多い。建造中の艦から数年先を見通せば、数的には微増だろう。

 (3)中国海軍が米海軍に対抗し、西太平洋やインド洋で海上覇権を狙うという人もいるが。
 米海軍相手ではまったく勝負にならない。空母は「遼寧」はJ15戦闘機約20機を搭載できるが、それを発進時に加速する装置「カタパルト」は米国しか造れない。それがないから戦闘機はミサイル、爆弾を少しだけ付けるか、燃料を減らしてやっと発進できる。艦載の空中早期警戒機も、運用できない。米海軍の原子力空母10隻(近く11隻になる)は戦闘攻撃機F/A18を55機搭載できるから、計600機に対しJ15が20機程度では話にならない。ほかにも空母を建造している様子だが、「カタパルト」はないようで、外洋では米空母と対決すれば単なるカモだ。外洋で制空権をとれないから、中国の水上艦は戦時に地上基地戦闘機の行動半径1,000kmから出れば全滅は必至、いわゆる「第一列島線」を超えて出られないだろう。

 (4)中国は精密誘導が可能な弾道ミサイルを開発し、それで陸地から米空母を狙うとも言われている。
 空母の位置、針路、速力をリアルタイムで知るのは容易ではない。偵察衛星は時速27,000kmで各地上空を1日に約1回通過するだけだから移動目標はつかめない。偵察機や潜水艦で空母を発見し、陸上のミサイル基地に通報して発射させるなら、発見から弾着まで30分ほどかかるだろう。その間に空母は20kmほど移動するし、針路を変えることもあるので狙えない。航空機や潜水艦から対艦ミサイルを発射するほうがよほど現実的だ。

 (5)米空母の近くに中国の潜水艦が浮上、「音が低い中国潜水艦は脅威だ」と騒がれたことがある。
 「通常推進」型の潜水艦は浮上してか、または吸気筒を海面上に出し、ディーゼル機関で走って蓄電池に充電し、潜行中は電気モーターで走るから、原子炉を積む原潜より潜行中の音が一般的には低い。空母が通る地点に、低速でひそんでいると発見しにくいのは当然だ。しかし、水中を高速で走るとすぐに電池がカラになるから空母を追いかけることはできず、待ち伏せにしか使えない。
 中国は実用になる艦船攻撃用の原潜2隻と、通常潜水艦39隻を持っているが、原潜は旧ソ連が1970年代に造った「ヴィクターⅢ」がモデルで、なお音が大きいようだ。
 米、英海軍と海上自衛隊は冷戦時代に400隻近い旧ソ連潜水艦隊を主な仮想敵としていたから、潜水艦の探知技術や、懐中での音波の伝播状況を研究する「水中音響学」が非常に発達し、旧ソ連とは大差があった。中国海軍はロシアとフランスの技術を取り入れているから、相手の潜水艦を探知するソナーの技術は低いようだ。P3Cのような対潜哨戒機もほとんどないし、駆逐艦の艦載ヘリも小型で対潜水艦作戦能力は乏しいから、米、日の潜水艦には対抗できないだろう。

 (6)それでも「米中衝突」を予測する議論が多い。
 中国は中東からの原油の第一の輸入国で、他の資源も大量に輸入する最大の貿易国家だ。世界的な制海権を握る米海軍に対抗し、インド洋などの長大な通商路を守ることは不可能だから、経済が発展するほど、米国とは協調せざるをえない。
 米国にとっても、中国からの投資、融資や中国市場は不可欠だから、大局的に見れば両国衝突の要素はない。

 (7)しかし、南シナ海で中国が人工島を造り、要塞化を進めているのは何のためか。
 海南島に中国の弾道ミサイル原潜4隻の基地がある。米海軍は万一に備えてその「音紋」を収集したり、海中の音波の伝播状況のデータを蓄えようと努める。中国は、それを妨害しようと人工島の基地を築いている。米国のいう「航行の自由」とは、実は「偵察の自由」なのだ。日本にとり二台輸出市場である米中がもし武力紛争を起こせば、双方の経済は大混乱、日本の経済に致命的打撃となり、尖閣諸島とは比較にならない。日本が米中の対立を助長するのは愚策だ。

 (8)尖閣や離島が中国に「占拠」されたら、自衛隊が奪還するという構想を描いているようだが。
 南シナ海正面の中国東部戦区は「台湾正面」だから、戦闘機約400機(6割は新型機)が配備され、尖閣はゆうにその行動半径だ。自衛隊は那覇に40機だから、決め手となる制空権の確保が難しい。
 日本が制空権をとれるようなら中国は攻めてこないし、中国軍が奇襲上陸しても補給が切れて全滅する。
 日本が制空権をとれないようなら、水陸両用車「AAV7」やオスプレイを買い、「水陸機動団」による逆上陸を考えるのは、自殺行為、頓珍漢な戦略だ。

□語り手:田岡俊次(軍事評論家)/聞き手と構成:成澤宗男(編集部)「中国脅威論の「虚」と「実」」(「週刊金曜日」2016年7月22日号)
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