語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】参院選大勝も激戦12県で大敗 ~劣る「勝利の質」~

2016年07月20日 | 社会
 (1)2016年7月10日の参院選の結果、与党の議席は146議席(自民121、公明25)となり、3分の2(162議席)が視野に入ってきた。
 ところが、自民党選対の責任者は、反省の弁を口にする。その背景には、「勝負の分かれ目」といわれた32ある「1人区」の結果がある。全体では自民党の21勝11敗。しかし、「勝利の質」に目をこらすと、自民党が抱える根深い問題が浮かび上がる。
 1人区の中で特に激戦といわれた12県では、自民党候補が勝ったのは愛媛の1県だけに終わった。残る青森、岩手、宮城、山形、福島、新潟、山梨、長野、三重、大分、沖縄の各県では全て野党系候補が競り勝った。このうち、福島では岩城光英・法務大臣、沖縄では島尻安伊子・沖縄北方担当大臣の現職閣僚が落選している。
  (a)自民候補が東北で勝ったのは秋田だけ。伝統的に自民党の支持母体と位置づけられてきたJAの政治団体、農協政治連盟は福島を除いて自民候補の推薦を見送った。TPPに対する不満が底流にあるとされる。
  (b)福島では農業問題に加えて、東電福島第一原発事故による住民避難が続く。
 沖縄では、米軍普天間飛行場の移設問題など在日米軍基地をめぐる、政府と沖縄県の間の抜き難い相互不信が選挙の結果にそのまま反映された。

 (2)(1)の(a)も(b)も安倍内閣が直面する重要課題ばかりだ。そこで敗退した意味は決して小さくない。
 むろん、政策だけが敗因ではない。
 「参院議員の多くは汗をかかない。選挙運動も衆院頼みの人があまりに多すぎる。3年後の参院選を考えるとぞっとする」(選対幹部)
 こうした選挙結果は、衆議院の議員心理に多大な影響を与える。
 安倍は危惧する。
 「今の1、2年生の多くは後援会をつくろうともしない。逆風でも生き残れると思っているのがおかしい」
 この危惧が、このたびの激戦区で表れたわけだ。

 (3)安倍は同日選を見送ったことで、解散権という「首相の大権」を手放すことなく温存した。
 「解散については『かの字』も考えていない」
と安倍は言うが、最高権力者が解散権の行使について考えていないはずがない。むしろ毎日、解散を考えているとみた方がいい。それが解散権を握る権力者の本質といっていい。
 ただし、その解散権はいつまでも安倍の手中にあるわけではない。安倍には、2018年9月の自民党総裁としての任期切れの壁が立ちはだかる。終着点が近づけば近づくほど、必然的に安倍の自由度が小さくなる。

 (4)参院選を終えて、早くも政局最大の焦点は残された2年余のどのタイミングで、安倍が解散権を行使するかに移った。
 むろん、安倍が解散権をせずに、任期満了とともに首相の座を降りる選択肢もあるが、安倍の言動からはその片鱗も見えてこない。むしろ、任期延長の可能性を探りながら、解散時期を決めると見るべきだ。
 安倍は8月3日に自民党役員人事と内閣改造を断行する意向を固めている。この人事で、安倍が谷垣禎一に代えて新しい自民党幹事長起用に踏み切れば、間違いなく「解散シフト」だ。その場合、菅義偉が最有力候補として浮上してくる。解散先送りなら谷垣続投。

□後藤謙次「参院選大勝も激戦12県で大敗 「勝利の質」に表れた首相の危惧 ~永田町ライブ!No.300特別版~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月23日号)
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 【参考】
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【後藤謙次】甘利大臣辞任をめぐる二つのなぜ ~後任人事と直後のマイナス金利~
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