語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】健康志向はナチスが始めた

2016年11月02日 | ●佐藤優
 <佐藤優/(前略)添加物の入っているようなパンはイヤだから胚芽パンが好きだとか、自然食品屋で買った有機野菜しか食べないとか、そういう健康志向の人ってけっこういるね。あれはナチスのときに始まったんだ。
 草思社から出ている『健康帝国ナチス』が面白い。なぜナチスが健康志向なのか? ナチスにとって自分の身体は自分のものじゃないの。総統のものなんだよ。だから常に総統のために戦えるよう、国民は健康でいなければならないわけ。
 だから健康に悪いタバコや着色料を使っているような食品は駄目。見た目と味はイマイチだけど、栄養バランスの良い胚芽入りのパンを食べましょうとなって、健康診断が義務化された。それと同時に、人間の体のガン細胞と同じように人類にもガンがいる。ユダヤ人とかロマ人(いわゆるジプシー)はガンだから、隔離して排除しようと、平気でそういう発想になるわけです。>

□佐藤優『君たちが知っておくべきこと 未来のエリートとの対話』(新潮社、2016)の「真のエリートになるために 2013年4月1日」
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 【参考】
【佐藤優】民主政治はフランス革命をなぞる ~アベノミクスはジロンド派~
【佐藤優】出世頭の外交官が書いた間違いだらけの外交教科書 ~権威に惑わされるな~
【佐藤優】ギリシャ的伝統を引き継いだドイツ ~ライプニッツと帝国主義~
【佐藤優】民主制の起源 ~中学や高校の教科書が教えないこと~

 

【佐藤優】民主政治はフランス革命をなぞる ~アベノミクスはジロンド派~

2016年11月02日 | ●佐藤優
 (1)フランス革命の頃、もう人びとが圧倒的にホモ・エコノミクス、つまり、経済最優先、利益最優先の考え方になって商品経済ができあがっていた。だから、経済状態を改善することが政治の第一の課題となった。
 すなわち、フランス革命がどうして起きたかというと、当時の王政では国民が経済状態に対して抱いていた不満を改善することができなかったからだ。それゆえに革命が起きた。
 まず最初に権力を取ったのはジロンド派だった。ジロンド派の政策のポイントはブルジョアに優しくて、王様の首を取って、王様、貴族、教会の持っていた財産を市民層に再分配した。
 これは民主党政権がやった事業仕分けと一緒だ。日本の民主党政権は基本的にジロンド的だった。「今までは政治家・官僚・実業家の間に癒着があった。そのせいで、われわれは豊かじゃなかった。豊かにするためには子ども手当、高校無償化、さらに事業仕分けをして、埋蔵金を吐き出させて国民を豊かにするんだ」というジロンド政策の論理なのだ。
 しかし、ジロンド政策は二つの問題点から長くは続かない。
  (a)贅言の壁。ジロンド派が政権を握ったときも、没収した教会財産を担保にした国債紙幣(アッシニア紙幣)を大量に刷った。
  (b)非常事態。フランス国王の首を取ったら、恐慌をきたした周辺国が第一次対仏大同盟を組んだ。同盟国は、オーストリア、スペイン、プロシア。これらによって囲まれて、戦争を仕掛けられた。ジロンドは基本的に平和主義だから、戦争という非常事態に対応できなくなった。

 (2)そこで生まれてきたのがジャコバン党だ。
 貧困に優しくて、規律の厳しい政治。
 ジャコバンは公安委員会を作り、貧困に優しいと同時に再分配をしていくために、その根本になる「新しい公共」という概念を打ち出した。それから最高価格で物価の上限を決めて緊縮財政。さらに国民皆兵制度。全国民を武装化し、規律を強化していく。実はこれらは戦争に対応し、財源に対応していく政策だったわけだ。
 「新しい公共」とは、個人の利益ではない公共心。ブルジョアは個人の利益だけを追求しているけれど、世の中には貧しい人もいる。それに〈国家を守る〉という点でも公共心を持つということを非常に重視した。
 これは3・11の東日本大震災以降の民主党政権、さらに今の自民党政権にも見られる。国民に愛国心を求めるとか、対外的な緊張関係を力で処理していくとか、ジャコバン的な要素は明らかにある。
 ただ、ジャコバンも長続きしない。厳しすぎて息切れする。

 (3)そこで登場したのがナポレオン。
 ナポレオンの政策は、「国内では、そこそこに自由にやりましょうや。生活水準は上げてあげますから」と言って国の外から収奪してきた。だから帝国主義政策はナポレオン政策なのだ。
 ナポレオン政策を具体的に日本にあてはめると、「原発はおっかないから日本国内では新たに作りません。しかし原発を買いたいという外国があるなら、喜んで売ります。その利益で国内を豊かにします」・・・・これって帝国主義的、ナポレオン的政策だ。
 「武器輸出三原則を緩和します」と言った結果、例えば、そうりゅう型潜水艦をオーストラリアに売ることが可能になった。これもそうだ(ただし、2016年4月26日、フランスDCNS社の受注が決定した)。
 日本は今まで武器の輸出、いわゆる「死の商人」はやらないということだったけれども、中国の軍事力が高まっている状況の中で、中国に脅威を感じる国に潜水艦を売ることによって中国の封じ込めを強化できるし、金儲けもできる。すると日本経済は豊かになる。
 この帝国主義的、ナポレオン的な政策の要素は、明らかに民主党政権の後半から入ってくる。ただ、まだこの政策の潜在力は十分に使われていないので、今後また違う形で出てくるかもしれない。

 (4)帝国主義は良いとか悪いとかいう話とは別に、この資本主義社会において危機に直面したとき、国家はいろんな可能性を試すのだ。
 最初は「再分配」というジロンド的な言葉を使う。ところが、それがもう限界に来ちゃった。ジャコバン的な方法はまだ十分に使ってない。
 ちなみに、安倍政権のほうが野田政権や菅政権の後半と比べると、ジロンド的だ。アベノミクスは、お札をどんどん刷って公共事業をどんどん増やしていくことで景気を回復させようとしている。基本的に痛みを伴わない改革だ。強いて言えば、10年後、20年後にツケが全部、若い世代に回ってくるわけだが、これから死に絶えていく世代(50代とか)には関係ない。アベノミクスが20年続けば、その上に乗っかって、ツケを全部後ろの世代に回して、死んでいけばいいという組み立てだ。
 ということは、ジロンド的な政策をやっても、やっぱり無理が出てくる。根本的な解決は難しい。そすうると、帝国主義的な方針が出てくると見ていい。

□佐藤優『君たちが知っておくべきこと 未来のエリートとの対話』(新潮社、2016)の「真のエリートになるために 2013年4月1日」
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 【参考】
【佐藤優】出世頭の外交官が書いた間違いだらけの外交教科書 ~権威に惑わされるな~
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