語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】味噌汁をめぐる妻vs.夫 ~「塩味」が伝える大切なメッセージ~

2016年11月28日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)毎朝、味噌汁のことで揉めている夫妻がいる。
 妻は、夫の健康を考え、塩分が6グラムを超えないように工夫して作っている。
 夫は、「こんな、水みたいな味噌汁が飲めるか」と怒る。
 妻は、「一生懸命に工夫して作っているのに、人の気持ちもわからないのか」と腹を立てている。
 どっちが正しいのか。

 (2)子どもの頃、学校で海水浴に行くと、先生が「海水を飲まないように」と注意を与えた。だが、好き好んで海水を飲む者はいない。注意は余計なお世話だった。注意されなくても海水は飲めないのだ。

 (3)人の体にとって塩分は非常に重要だ。塩分の過不足は命にかかわることにつながりかねない。よって、他の味と違い、「塩味」は大切なメッセージになっている。甘すぎるケーキ、逆に甘味が少ないケーキでもなんとか食べることができる。しかし、違和感のある塩味は我慢することができないだろう。
 塩辛すぎる味噌汁やお吸い物は「まずい」を通り越して飲めたものではない。大概の人は湯をたして味を薄めるにちがいない。逆に、蕎麦やうどん、ラーメンに塩味がなかったらまずくて食べられたものではない。

 (4)夏は、キンキンに冷えたビールが美味しい季節だ。だが、それも「塩味」のあるおつまみを口にしないと飲めなくなってくる。スイカ一切れ、二切れなら、そのまま食べても美味しい。しかし、三切れ目になると、塩をふらないと美味しさが半減する。なぜか。 
 ビールやスイカはカリウムの多い食物だ。しかも、比較的大量に食べる。そのためカリウムが過剰になる。それは体にとって好ましいことではない。そのため、カリウムと拮抗するナトリウム(塩の主成分)を欲するようになるのだ。
 汁粉もカリウムが多い。塩を入れると美味しく感じるのも生理的な理由からだ。
 蒸かしたサツマイモやジャガイモも塩を振ると美味しく感じる理由も同じ。
 豆類も比較的カリウムが多い。大概の人は、枝豆をゆでる際、無意識に塩を入れている。
 こういった例を挙げればキリがない。

 (5)普段、私たちは何気なく味噌汁や煮物の味を見ているが、それは体のメッセージを聞く大切な行為だ。身体を使い、汗をかく仕事の人は、塩分の濃い味噌汁を欲する。冷房の中でデスクワークをして汗をかかない人は塩分の薄い味噌汁を好むだろう。
 それでいいのだ。
 (1)の夫妻の場合、夫はわがままを言っているように聞こえるが、きちんと体のメッセージを聞いている。妻は、身体のメッセージを聞かず、「塩分は6グラム以下が望ましい」という情報のみで味噌汁を作っている。
 妻が夫を思う気持ちと努力には頭が下がる。しかし、どちらが正しいかは言うまでもない。

□幕内秀夫(フーズ&ヘルス研究所代表/学校給食と子どもの健康を考える会代表)「「塩味」が伝える大切なメッセージ ~口は災いのもと 6」(「週刊金曜日」2016年11月11日号)
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