①ワシントン・ポスト取材班、マイケル・クラニッシュ、マーク・フィッシャー『トランプ』(文藝春秋 2,100円)
②宮城大蔵『現代日本外交史 冷戦後の模索、首相たちの決断』(中公新書 880円)
③猿田佐世『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社クリエイティブ 1,400円)
(1)①は、米国の共和党大統領候補ドナルド・トランプ氏の履歴、政治信条を包括的に扱った好著だ。
<共和党全国委員会によれば、クリーブランドの党大会会場に集まった2,472人の代議員のうち、黒人はたったの18人ほど。2004年の167人から大幅に減っていた。トランプはアフリカ系アメリカ人の票を獲得できると期待していたが、人種に関して物議をかもす発言を繰り返してきたという事実を払拭できていなかった。党大会が始まった時点で、黒人有権者の支持率では89%対4%でクリントンに大きく水をあけられていた>
という指摘に示されるように、当初から黒人の忌避反応が強かったことがトランプ氏にとっての最大の弱点になった。
(2)②は、冷戦後の日本外交を丹念に取材した労作だ。森政権時代の北方領土交渉について、
<このプーチン発言(引用者注・・・・1956年の日ソ共同宣言が有効であるとする発言)を受ける形で、日本側の一部で「二島先行返還論」が浮上する。まず56年宣言に基づいて色丹、歯舞の返還を実現し、その時点でロシアと中間条約を結ぶ。つづいて国後、択捉に関わる交渉を継続し、両島が返還された時点で平和条約を結ぶという構想である。しかし一方でこれは事実上、色丹、歯舞の二島返還のみで決着を図るもので「四島返還」の道を閉ざすものだという批判がなされた>
と記される。
現状でロシアが「二島返還」に応じる可能性は皆無だ。歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しに若干の「色を付けて」平和条約を締結する以外に、安倍晋三・首相とプーチン大統領が北方領土問題で妥結するシナリオはない。
(3)③は、弁護士としての経験と知識を生かし、ユニークな民間外交を展開する猿田氏の思いが率直に綴られた良書だ。
<私はワシントン留学中に日米外交のゆがみに気づき、疑問をもった。そのことをきっかけに日米の外交システムを研究するようになって7年になる。また、既存の外交パイプがまった運ばない声をワシントンに伝えたいと思い、アメリカ政府や議会へのロビイングを行ってきた。そして沖縄の方々などの訪米ロビイングを企画し、同行してきた。こうした活動は「外交も国の政策である以上、民主主義的な要素が反映されなければならない」との思いから始まったことである>
と猿田氏は述べる。外交は、政府の専管事項であるとしても、そこで拾い切れない民意を国とは違う手法で米国に伝える猿田氏の努力は真の国益のため重要だ。
□佐藤優「北方領土問題の妥結シナリオ ~知を磨く読書 第173回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年11月12日号)
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