漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「艮コン」<後ろを向いてにらむ> と 「跟コン」「很コン」「根コン」「恨コン」「痕コン」「限ゲン」「眼ガン」「垠ギン」「銀ギン」「齦ギン」

2024年11月21日 | 漢字の音符
 改訂しました。
 コン・ゴン・うしとら  艮部 gèn・gěn        

 上が艮コン、中が限ゲン、下が見ケン
解字 上段の艮コンは篆文からある字で「目+後ろ向きの人」の形。真ん中の限ゲンは艮の音符字のなかで最も古くからある字で、金文は「阝(かいだん・はしご)+目(め)+後ろ向きの人」の形で、目と人が離れており、人は右向きで通常の人の逆向きになっている。即ちこの字の艮コン⇒ゲンは、後ろを向いて相手を見る形で、相手を無視する・拒絶する形である。下段の見は「目+左向き(前を向く)の坐った人」で前を見る意を表している。篆文の見の下部を反転させると、艮の下部に近くなる。
[説文解字]は、艮コンを「很(もと)る也」(そむく・さからう・たがう意)とする。 しかし、現在の艮は仮借カシャ(当て字)され、「易の八卦のひとつ」および方角の「うしとら(北東の方角)」の意味で使われる。
意味 (1)そむく。もとる。さからう。(=很)(2)易の八卦の一つ。 属性は静止。(3)うしとら(艮)。北東の方角。鬼門。八卦の艮を方角・時刻にあてていう。
参考 艮は部首「艮こん」になる。漢字の右辺につき「とどまる」意を表すが、艱カンの1字しかない。また、良リョウは形が似ているため便宜的に艮部になっている。多くの漢和辞典で、艮部は艮・艱・良の3字のみが一般的。

イメージ  
 「後ろを向いてにらむ」
(艮・限・垠・很)
 「形声字」(跟・銀・根・恨・齦・痕・眼)

音の変化  コン:艮・跟・很・根・恨・痕  ゲン:限  ガン:眼  ギン:垠・銀・齦  

後ろを向いてにらむ 
 ゲン・かぎる  阝部 xiàn

解字 金文は「阝(かいだん・はしご)+目(め)+後ろ向きの人」の会意形声。聖所へ上がる階段の下で、背を向けた人が目をひからせて見張っている形。目で見はって相手を拒否する形。階段の下で、くぎる・かぎる意となる。
意味 (1)かぎる(限る)。くぎる。「限定ゲンテイ」「制限セイゲン」 (2)さかいめ。はて。「限界ゲンカイ」「限度ゲンド
 ギン・かぎり・はて   土部 yín 
解字 「土(とち)+艮(=限の略体。意味②の、はて・さかいめ)」の会意形声。土地のはて、はるかかなたのさかいめの意味となる。発音はゲン⇒ギンに変化。
意味 (1)はて。かぎり。限界。「垠際ギンザイ」(はて)「無垠ムギン」(はてがない)「一望無垠イチボウムギン」(一目でかなたまで広々と見渡されること) (2)丘の末端や続いた平地のさかい目。「垠岸ギンガイ」(そびえたつがけ)

後ろをむく
 コン・もとる  彳部 hěn
解字 「彳(路上)+艮(後ろをむく)」の会意形声。彳は十字路(行)の左半分で、ここでは路上の意、很は、路上で相手に対し後ろを向くことから、さからう・したがわない意となる。
意味 (1)もとる(很る)。たがう。さからう。したがわない。人の言うことをきかないでさからう。「很戻コンレイ」(ねじけさからう)「傲很ゴウコン」(傲慢にさからう)(2)うらむ。「很心ヘンシン」。(3)はなはだ(很)。
 コン・かかと  足部 gēn
解字 「足(あし)+艮(後ろをむく)」の会意形声。人が後ろを向いたとき、足の後ろは、かかとになる。また、かかとに付いて行く意となる。
意味 (1)かかと(跟)。くびす。きびす。 (2)したがう。人のあとについていく。「跟随コンズイ」(人の後について行く。=跟従)
 ギン・しろがね  金部 yín
解字 「金(きん)+艮(=跟の略体。あとにつく)」の会意形声。金のあとに従う銀。金の次に位置する銀の意。
意味 (1)ぎん(銀)。しろがね(銀)。「銀箔ギンパク」(2)銀に似た色。「銀河ギンガ」(天の川)「銀幕ギンマク」(映画のスクリーン)(3)お金。「銀貨ギンカ

形声字
 コン・ね  木部 gēn
解字 「木(き)+艮(コン)」の形声。木のねもとを根コンといい、さらに物事のもとの意味を表す。
意味 (1)ね(根)。草木の根。「球根キュウコン」(2)物のねもと。おおもと。「根源コンゲン」「根本コンポン」(3)がんばり。気分。「根気コンキ」「精根セイコン
 コン・うらむ・うらめしい  忄部 hèn
解字 「忄(心)+艮(コン=根)」の形声。いつまでも心に根をもつこと。
意味 うらむ(恨む)。うらめしい(恨めしい)。「遺恨イコン」(恨みを残す)「痛恨ツウコン
 ギン・コン  歯部 yín
解字 「歯の旧字(は)+艮(ギン・コン=根) の会意形声。歯の根元の意で、はぐきをいう。
意味 (1)はぐき(齦)。歯の根を含む歯肉をいう。「歯齦シギン」(はぐき) (2)かむ。
 コン・あと  疒部 hén
解字 「疒(傷のやまい)+艮(コン)」 の形声。身体にいつまでも残る傷のあとを痕コンという。
意味 (1)あと(痕)。きずあと。「刀痕トウコン」「傷痕ショウコン」(2)あと(痕)。あとかた。「痕跡コンセキ」「墨痕ボッコン」(すみのあと。筆のあと)
 ガン・ゲン・め・まなこ  目部 yǎn
解字 「目(め)+艮(ガン)」の形声。目の丸いめだまを眼ガンという。すなわち目玉・眼球をいう。

  色彩101(「眼の構造」より)
意味 (1)め(眼)。まなこ(眼)。めだま。まなざし。「眼球ガンキュウ」「眼光ガンコウ」「眼下ガンカ」「開眼カイゲン」(新たにできた仏像や人形に目を描きいれ魂を迎えいれること) (2)目のようなかたち。「銃眼ジュウガン」(城壁などに開けた射撃用の穴)「方眼紙ホウガンシ」(多数の方形[四角形]を描いた紙)
<紫色は常用漢字>


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音符「良リョウ」<よい> と 「郎ロウ」「朗ロウ」「琅ロウ」「浪ロウ」「狼ロウ」「廊ロウ」「莨ロウ」「榔ロウ」「螂ロウ」「娘ジョウ」

2024年11月19日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 リョウ・ロウ・よい  艮部こん liáng

解字 良の解釈については諸説があり定まっていない。甲骨文字は口に短線が入った形から上下に二本の線がのびた形が基本になっている(しかし、単線が入らない形も多い)。意味は、①地名またはその長、①祭祀名。[甲骨文字辞典]。金文は甲骨文字と似た形であるが、すでに「良い」意味となっており、[簡明金文詞典]には、良人(好人、善人)・良女(善良な女子)・良臣(忠で賢い臣下)・良佐(すぐれた輔佐)・良金(銅の意)・良馬の記載がある。篆文は[説文解字]が「善也(なり)。(発音は)呂張切(リョウ)」とする。口に短線が入った形は歴代の字にひきつがれ現代の良にもある。新字体の左辺になるとき、良⇒郎の左辺に簡略化される。 
意味 (1)よい(良い)。すぐれている。好ましい。「良心リョウシン」「良否リョウヒ」「良薬リョウヤク」「良好リョウコウ」(2)善良な人。立派な人。「良人リョウジン」「良士リョウシ」(3)よく(良く)。できる。

イメージ  
 「よい」(良・郎・朗・娘・琅)
 「形声字」(浪・狼・莨・廊・榔・螂)

音の変化  リョウ:良  ロウ:郎・朗・琅・浪・狼・莨・廊・榔・螂  ジョウ:娘

よ い
 ロウ  阝部 láng・làng 
解字 「阝(邑:まち)+良の略体(よい)」の会意形声。まちに住む教育や地位のある人(良士)が原義。転じて、若い男の意を中心に使われる。
意味 (1)おとこ。若い男。「新郎シンロウ」(結婚したばかりの男性)「野郎ヤロウ」(田舎者。若い男)(2)けらい。主人に仕えるもの。「郎党ロウトウ」(従者)「下郎ゲロウ」(使われている身分の卑しい男)(3)男子の名前に用いる。「太郎」「次郎」
 ロウ・ほがらか  月部 lǎng
解字 「月(つき)+良の略体(よい )」の会意形声。よい月、すなわち明るい月の意。きよらかで曇りがないことを性格に転じて、ほがらかの意を持つ。
意味 (1)あかるい。よい。「清朗セイロウ」「朗報ロウホウ」(2)ほがらか(朗らか)。「明朗メイロウ」(3)たからか。声たかく。「朗読ロウドク」「朗詠ロウエイ」(声高くうたうこと)
 ジョウ・むすめ  女部 niáng
解字 「女(おんな)+良(よい)」の会意形声。よい女の意。若い女のほか、母親の意もある。
意味 (1)むすめ(娘)。おとめ。未婚の女性。「娘盛(むすめざか)り」「娘婿むすめむこ」「看板娘かんばんむすめ」「娘子ジョウシ」(①少女、②[俗]母。妻。)(2)はは(母)「娘娘ジョウジョウ」(もと母。中国の民間信仰の女性神。中国語で、ニャンニャン)「娘娘廟ニャンニャンビョウ」(道教の、女神を祀(まつ)る廟)
 ロウ  王部 láng
解字 「王(玉)+良(すばらしい)」の会意形声。すばらしい玉石。
意味 (1)美しい玉石。「琳琅リンロウ」(美しい玉。美しい詩文)(2)玉や金属が触れ合って鳴る音。「琅琅ロウロウ」「琅然ロウゼン」(①玉の鳴る音、②美しい水の音)

形声字
 ロウ・ラン・なみ  氵部 làng
解字 「氵(水)+良(リョウ⇒ロウ)」の形声。古くはロウという名の川を言った。[説文解字]は「滄浪ソウロウ水也(なり)。南で江(揚子江)に入る。水に従い良の聲(声)。発音は來宕切(ロウ)」とする。滄浪ソウロウは、古くは川の名であり、この川の流れから転じて、波浪ハロウ(なみ)の意味に用いる。さらに、さすらう(放浪)・みだりに(浪費)の意味になった。
意味 (1)なみ(浪)。おおなみ。「波浪ハロウ」「激浪ゲキロウ」(激しい浪)(2)さすらう。さまよう。「放浪ホウロウ」「流浪ルロウ」(さまようこと)「浪人ロウニン」(①仕事を持たない人、②卒業し、さらに上の学校をめざす受験生)(3)みだりに。ほしいままに。「浪費ロウヒ
 ロウ・おおかみ  犭部 láng
解字 「犭(いぬ)+良(リョウ⇒ロウ)の形声。ロウという名の犬に似た凶暴な獣を狼ロウという。[説文解字]は「犬に似る。頭が鋭く頬が白く、前が高く後ろが広い。犬に従い良の聲(声)。発音は魯當切(ロウ)」とする。

犬と狼の違い」(ワンコnowa)より)
意味 (1)おおかみ(狼)。イヌ科の哺乳動物。集団で生活する。日本ではヤマイヌとも呼ばれたが絶滅した。「狼煙ロウエン」(のろし。狼のフンを混ぜて燃やした煙)(2)狼のように凶暴で無慈悲。「狼心ロウシン」(狼のように欲深い心)「狼虎ロウコ」(残忍で欲深いものの例え)(3)みだれる。「狼藉ロウゼキ」(乱暴なこと)(4)うろたえる。「狼狽ロウバイ」(狼は前足が長く後足は短いのに対し、狽はその逆。両者はいつも共に行動し、離れると倒れて、うろたえることから、あわてふためくこと[広辞苑])
 ロウ・たばこ  艸部 làng・liáng
解字 「艸(くさ)+良(ロウ)」の形声。ロウは狼ロウ(おおかみ)に通じ、中国で狼尾草という狼の尾のような穂をつける禾本科の多年草をいう。このほか莨のつく植物にナス科の「莨菪ロウトウ」がある。これは全草に毒があるが特に根に毒性が強く嘔吐や、めまい、幻覚、異常興奮などを起こす。日本ではハシリドコロとよばれ山間に自生する。のち、南アメリカの原産で桃山時代に日本に移入された煙草に莨の字を当てた。
意味 (1)中国で狼尾草ロウビソウというススキに似た多年生禾本科植物。また「莨菪ロウトウ」という毒性のある草の名。(2)[国] たばこ(莨)。=煙草。烟草。ナス科の多年草である煙草をいう。日本では一年草。高さ約2メートルになり、大きい楕円形の葉が互生する。葉にニコチンを含み喫煙用に加工する。南アメリカの原産で、桃山時代に移入された。また、タバコの葉を乾燥・加工したものをいう。「莨入たばこいれ」(刻みタバコを入れる携帯用の容器。=煙草入)
 ロウ  广部 láng
解字 「广(やね)+郎(ロウ)」の形声。ロウは梁ロウ・リョウ(両岸をわたす)に通じ、建物の両側を渡す屋根のある通路の意。漢代の[説文解字]は「東西の序(堂の前の廂(ひさし)のある通路)也(なり)」とする。梁代(543年)の[玉篇]は「廡下(のきした)也(なり)」。宋代の[廣韻]は「殿下の外の屋也(なり)」とする。

法隆寺回廊(「WANDER国宝・建築」より)
意味 (1)宮殿の回りにめぐらした張り出しの通路。わたどの。「回廊カイロウ」(中庭や建物を囲む屋根のある通路)「廊宇ロウウ」(回廊のある大きな屋敷)「廊廟ロウビョウ」(表御殿。政治を行う建物)(2)建物の中に作られた細長い通路。「廊下ロウカ」「廊下橋ロウカばし」(廊下のように屋根を設けた橋)
 ロウ  木部 láng
解字 「木(き)+郎(ロウ)」の形声。ロウという名の木。檳榔ビンロウに用いられる字。
意味 檳榔ビンロウとは、ヤシ科の常緑高木で、果実は鶏卵大の大きさ、キンマの葉に包んで噛む嗜好品。(=檳榔樹)。「檳榔子ビンロウジ」(檳榔樹の果実)
 ロウ  虫部 láng
解字 「虫(むし)+郎(ロウ)」の形声。ロウという名の昆虫。蟷螂トウロウに使われる。

カマキリ(ウィキペディアより)
意味 蟷螂トウロウとは、カマキリのこと。蟷トウはトウ(刀)に通じ、刀のような前脚をもつ虫。螂ロウは郎(若者)に通じる。蟷螂は、刀を持った若者に虫をつけ、勇気ある若者が虫になった形。螳螂トウロウとも書く。「螳螂の斧おの」(中国の故事。斉国王の荘公が馬車で出かけると、道に一匹のカマキリがいて、逃げださず前足をふりあげて馬車に向かってきた。荘公はその勇気を賞して、わざわざ車の向きを変えさせたという。)
<紫色は常用漢字>

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音符「殿デン」<貴人の建物> と 「臀デン」「澱デン」「癜デン」

2024年11月17日 | 漢字の音符
  増訂しました。
殿 デン・テン・との・どの  殳部 diàn


 上は殿、下は殳シュ
解字 戦国期(東周)の殿は、李学勤編の[字源]に掲載されている字で「人が腰かけている形+丌+大きな丌」で、人が大と小の腰かけを重ねた上に腰をおろしている形。意味は不明であるが、貴人が腰かける形であろう。篆文の左辺は「人が腕を伸ばして腰掛ける形+丌(腰掛け)+冂(台)」の会意で、台上で丌に腰をおろしている貴人。この右に殳シュがつくが、殳は下の甲骨文字でも分かるように手に武器をもつ形である。なぜ武器を描いているか、この意味も不明であるが、武装をしている貴人と考えられる。殿には「殿軍デングン・しんがり」という軍隊用語がある。現代字は左辺が「尸+共」に変化した殿となった。秦~前漢に成立の[倉頡ソウケツ篇]は「殿は大堂也(なり)。商周以前は其名を不載(不記載)、按ずるに始め前殿を作る」とし秦・漢以後に前殿の建設から始まったとする(前殿に対比される語に後殿(奥御殿)がある)。現在の楷書の意味は、天子や君主が住む豪壮な建物の意となり、またその御殿の主人を表す。
意味 (1)との(殿)。ずっしりと土台を構えた大きな建物。「殿堂デンドウ」「宮殿キュウデン」(①国王・君主の住む御殿、②神を祭る社殿)「大仏殿ダイブツデン」(大仏を安置した殿堂)「殿宇デンウ」(大屋根の殿・殿堂)「高殿たかどの」(2)との(殿)。貴人の尊称。「殿下デンカ」「殿様とのさま」(3)しんがり(殿)。後駆(しりがり)の変化音。軍隊が退却するとき、最後尾で敵の追撃を防ぐ軍をいう。「殿軍デングン」(4)[国]どの(殿)。他人の姓名の下にそえて敬意を表わす語。「山田一郎殿どの

東大寺の大仏殿(華厳宗大本山東大寺「大仏殿」より)

イメージ 
 「貴人の建物」
(殿)
 貴人が「腰かける」(臀)
 「形声字」(澱・癜)
音の変化  デン:殿・臀・澱・癜

腰かける
 デン・しり  月部にく tún
解字 「月(からだ)+殿(貴人が腰かける)」の会意形声。殿の初文は殿の左辺(発音はトン)で貴人が腰かけるかたちであり、腰かける意を含んでいる。そこに月(からだ)がついた臀(トン⇒デン)は貴人が腰掛けるとき、下に触れる身体(月)の部分を意味し、お尻をいう。
意味 (1)しり(臀)。人の尻。「臀部デンブ」(おしりの部分)「臀肉デンニク」(おしりの肉)(2)物の底や下部。「器臀キデン」(器の底)

形声字
 デン・テン・よどむ・おり  氵部 diàn
解字 「氵(水)+殿(デン・テン)」の形声。デン・テンは淀テン・デン(よど・よどむ)に通じ、水が滞ってよどむ意。
意味 (1)よどむ(澱む)。水など滞って流れないこと。物事がなめらかに進まないこと。(2)おり(澱)。物が底に沈んでたまる。液体の底に沈んだかす。「沈澱チンデン」(沈んでたまる。沈殿とも書く)「澱淤デンオ」(よどみ。おり。淤も、おりの意」「澱粉デンプン」(ジャガイモなどをすりおろして布で包み水に漬けて揉みほぐすと下に沈んでたまる粉末のこと。一般に種子・根茎などに含まれる炭水化物をいう)(3)[国]大阪の淀川の別称。「澱江デンコウ」「澱水デンスイ
 デン・テン・なまず  疒部 diàn
解字 「疒(やまい)+殿(=澱。おり)」の会意形声。皮膚に澱(おり)のようにたまり、斑点ができる病をデンという。日本で、なまず()というのは魚のナマズの膚(はだ)に似たような模様があるからとされる。
意味 なまず()。皮膚病の一種で、白・紫などの斑点ができる。「癜風デンプウ」(表皮に発生する真菌感染症。「なまずはだ」ともいう)「白癜ハクデン」「紫癜シデン

ナマズ(「Honda釣倶楽部・ナマズの特徴」より)
<紫色は常用漢字>

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音符「欠ケン」「欠[缺]ケツ」と「飲イン」「款カン」「坎カン」「羨セン」「盗トウ」「吹スイ」「炊スイ」「軟ナン」

2024年11月15日 | 漢字の音符
 ケン・(ケツ)  欠部あくび          
 
解字 前に向かって口をひらいている人の側身形。甲骨文では立ち姿と坐り姿がある。口気を発し、言葉をいい、歌い、叫ぶときの形である。篆文から形が変わり、現代字は欠ケンになった。欠は部首となる。
意味 あくび(欠)。あくびをする。「欠身ケンシン・あくび
参考 ケンは、部首「欠あくび」になる。漢字の右辺に付いて、人が口をあける意を表す。常用漢字で8字、約14,600字を収録する『新漢語林』で46字ある。常用漢字は以下のとおり。
 欠ケン・あくび (部首) 
 欧オウ(欠+音符「区」)
 歌カ・うた(欠+音符「哥」)
 款カン(欠を含む会意)など。
 欺ギ・あざむく(欠+音符「基キ⇒ギ」)
 欽キン・つつしむ(欠+音符「金キン」)
 次ジ・つぎ(欠を含む会意)
 欲ヨク・ほしい(欠+音符「谷コク⇒ヨク」)
  このうち、次は音符となる。

イメージ
 「あくび」(欠) 
 「同体異字」(欠[缺])
 「口をあける」(飲・羨・盗・款)
 ひらいた口から「息をだす」(吹・炊) 
 「形声字」(軟・坎)
音の変化  ケン:欠  ケツ:欠[缺]  イン:飲  カン:款・坎  セン:羨  トウ:盗  スイ:吹・炊  ナン・軟

同体異字
[缺] ケツ・かける・かく  欠部

解字 篆文は「缶(ほとぎ・土器)+夬ケツ(刃物を手でもつ形)」の会意形声。夬ケツは、刃物を手にもつ形で、切り込みが入る意。旧字の缺ケツは、土器の器に切り込みのような「かけ」ができること。新字体は、旧字の缺⇒欠に置き換えた。欠ケン(あくび)とは別字。この結果、欠という字は、本来のケンという音に加え、ケツという音も獲得し、現在では欠ケツを知っていても欠ケンを知らない人が大部分である。
意味 (1)かく(欠く)。かける(欠ける)。欠けめができる。「欠落ケツラク」「欠片かけら」「残欠ザンケツ」「欠損ケッソン」(2)休む。予定をとりやめる。「欠席ケッセキ」(3)たりない。「補欠ホケツ」「欠員ケツイン

口をあける
 イン・のむ  食部

解字 甲骨文字は口を開けた人が酒壺から酒を飲もうとする形。金文は酒壺の上に蓋(ふた)が加わり、篆文は口を開けた人が「あくび」の形に変化した。現代字は「食+欠」の飲になった。原義は酒を飲むかたちであるが、のち、ひろく飲む意になった。
意味  のむ(飲む)。のみこむ。のみもの。「飲酒インシュ」「飲料インリョウ」「吸飲キュウイン」「鯨飲ゲイイン」(多量に酒をのむ) 
 セン・うらやむ・うらやましい  羊部

解字  篆文は「羊+水(よだれ)+欠(口をあける人)」の会意。羊を前にして、口からよだれを流している人の形。現代字は「羊の略体(ひつじ)+氵+欠」の羨センになった。羊を前にして、口からよだれを流している人で、羊はうまいものを表わすから、うまいものを見ているだけなので羨(うらや)む意となる。
意味 (1)うらやむ(羨む)。うらやましい(羨ましい)。「羨望センボウ」(うらやましく思う) (2)あまる。のこる。「羨溢センイツ」(ありあまる)
 トウ・ぬすむ  皿部

解字 篆文は「皿+水(よだれ)+欠(口を開いている人)」で皿のご馳走を前にして口からよだれをたらしている人。[説文解字]は「物を私利する也(なり)。㳄と皿に従う」として盗む意とする。発音は徒到切(トウ)。旧字は盜で、「皿(さら)+氵(水)+欠(口を開いている人)」の会意。新字体は「次+皿」の盗トウに変化した。新字体は「覚え方」を参照。
覚え方 つぎ()のさら()をむ。
意味 ぬすむ(盗む)。ぬすみ(盗み)。「盗賊トウゾク」「盗聴トウチョウ」「盗作トウサク」「強盗ゴウトウ」「窃盗セットウ」(他人のものをこっそりぬすむ。窃も盗も、ぬすむ意)
 カン  欠部あくび          

解字 篆文第一字は、「木(き)+示(祭壇)+欠ケン(口をあける人)」の会意。「木+示」は柰ダイで、木の実を供える神事を表す。それに、口を開いて立つ人の形である欠がついた款カンは、神に供え物をして祈りの言葉を発し、丁重に神をまつる形。篆文第二字は、柰の上部の木⇒出となり、さらに現代字は士に変化した款になった。原義は、ねんごろに・まごころの意。転じて、まごころで交わしたとりきめ(定款)の意となり、その取決めを、きちんと残すために、きざむ・ほる意となる。この字は形が変遷しているのでゴロ合わせで覚えると便利。
意味 (1)ねんごろ。いんぎん。まごころ。「款待カンタイ」(ねんごろにもてなす)「款カンを通じる」(親しく交わりを結ぶ)(2)(歓カンに通じ)よろこぶ。(3)とりきめ。転じて、法令などの箇条書き。予算の文書分類の単位の一つ。「定款テイカン」(会社などの基本規則)「款項カンコウ」(条項。項目)(3)きざむ。ほる。しるす。「款識カンシ・カンシキ」(鏡や鼎かなえに刻まれた銘)「落款ラッカン」(落成の款識の意。完成した書画に筆者が自筆で署名し印を押すこと)
覚え方 さむらい()にしめす()あくび()はダメと定にあり。[漢字川柳]

息をだす
 スイ・ふく  口部
解字 「口(くち)+欠(息をだす)」の会意。口から息をはくさま。
意味 (1)ふく(吹く)。風がふく。息をはく。「吹雪ふぶき」「吹流(ふきなが)し」 (2)楽器をふきならす。「吹奏スイソウ」「鼓吹コスイ」(太鼓を打ち笛を吹く。勢いをつけ励ます)
 スイ・たく  火部
解字 「火(ひ)+欠(息をだす)」の会意。息をふいて火を燃やし、煮炊きする。
意味 たく(炊く)。めしをたく。煮炊きする。「炊事スイジ」「雑炊ゾウスイ」「炊煙スイエン

形声字
 ナン・やわらか・やわらかい  車部
解字 正字は輭ナンで、「車+ゼン(やわらかくゆとりある)」の会意形声。車内がやわらかくゆとりのある仕様になっている車の意で、やわらかい意味を表わす。現代字は、耎ゼンを欠に置き換えた。
意味 (1)やわらかい(軟らかい)。しなやか。「柔軟ジュウナン」「軟化ナンカ」 (2)よわい。よわよわしい。「軟弱ナンジャク」 ※中国では、列車のグリーン座席を「軟席(やわらかい座席)」といい、原義が残っている。(普通席は「硬席(かたい座席)」)
 カン・あな  土部
解字 「土(つち)+欠(カン)」 の形声。カンは臽カン・陥カン(おとしあな・おちいる)に通じる。土がついた坎カンは、地上の落とし穴、おちいる意となる。
意味 (1)あな(坎)。おとしあな。おちいる。「坎穽カンセイ」(おとしあな=陥穽)「坎井カンセイ」(あな井戸)「坎井之蛙カンセイのかえる」(井の中の蛙) (2)(あなに落ちて)ゆきなやむ。くるしむ。「坎軻カンカ」(坎も軻も、ゆきなやむ意。①行きなやむ。②不遇である)
<紫色は常用漢字>

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音符「夨ショク」<頭をかたむける>と「呉ゴ」「娯ゴ」「誤ゴ」「蜈ゴ」「茣ゴ」「虞グ」

2024年11月14日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 ショク・ソク  大部 cè

解字 大の字形の人が左に頭をかたむけたかたちの象形。[説文解字]は「頭を傾ける也(なり)。大に従う。象形」とする。
意味 あたまをかたむける。かたむく。



[吳] ゴ・くれ  口部 wú   

解字 「口(くち)+夨(頭をかたむける)」の会意。人が頭をかたむけて口をあけた形。呉は金文から、姓や人名および官名(山林開発・漁労担当)に用いられた[簡明金文詞典]が、後漢の[説文解字]は「姓也(なり)。亦(また)郡也(なり)」と姓や郡の名に用いるほか、一曰(一説に)呉は大言(大きな声)也(なり)。夨ショクと口コウに従う」と、大きな声の意があるとする。しかし、この解釈には疑問がある。というのは現在、ほとんど使われることない字だが、呉の音符字に「口+呉」の𠱐という字があるからだ。543年の[玉篇]は「笑わんと欲する也(なり)」とし笑う意としている。呉に口を加えたのは、呉の意味が 姓や郡名になったので、本来の意味を表すために口をつけた形であり(そのため、この字には口が二つある)、呉のもとの意味は「わらう」と考えられる。そこで、私は音符イメージとして「わらう」を挙げることとしたい。なお、吳は旧字。呉の音符字は常用漢字で「呉」と表記され、それ以外は「吳」になる。

中国語スクリプト(「呉越同舟」より)
意味 (1)昔の中国の国名。長江下流の蘇州や南京を都とした国。「呉越同舟ゴエツドウシュウ」(反目している呉と越の人が同じ船に乗る)「呉姫ゴキ」(呉の美しい女性)(2)中国の長江下流地域の総称。「呉音ゴオン」(日本漢字音の一つ。南北朝時代の南方方言をもとにしている)(4)姓のひとつ。「呉子ゴシ」(兵法家で「呉起ゴキ」という名の兵法書を出した)(5)[国]くれ(呉)。古く日本で中国を指した呼称。日が暮れる方角に当たるからと言われる。「呉竹くれたけ」(呉くれから渡来した竹、①淡竹ハチクの異称、②真竹の異称)「呉織くれはとり」(大和朝廷に仕えた渡来系の機織りの技術者、また、その織物。はとりは、はたおりの略)(6)[国]くれる(呉れる)。与える。

イメージ 
 「仮借(当て字)」
(呉) 
 「わらう」(娯)
 「形声字」(誤・虞・蜈・茣)
音の変化  ゴ:呉・娯・誤・蜈  グ:虞  

わらう
 ゴ・たのしむ  女部 yú
解字 「女(おんな)+呉(わらう)」の会意形声。女がわらい、たのしむさまを娯という。[説文解字]は「楽(たのし)む也(なり)。女に従い呉の聲(声)」とする。
意味 たのしむ(娯しむ)。たのしみ。「娯楽ゴラク」「歓娯カンゴ」(よろこびたのしむ)「娯喜ゴキ」(よろこんでたのしむ)

形声字
 ゴ・あやまる  言部 wù 
解字 「言(いう)+呉(ゴ)」の形声。言いまちがえることを誤という。[説文解字]は「謬(あやま)る也(なり)。言に従い吳聲(声)」とする。
意味 あやまる(誤る)。あやまり。まちがい。「誤報ゴホウ」「誤解ゴカイ」「錯誤サクゴ」(①あやまり。まちがい。②現実と思っていることが一致しない。時代錯誤)
 グ・おそれ・おもんばかる  虍部 yú
解字 「虍(虎の頭)+呉(ゴ⇒グ)」の形声。虎の頭をかぶって踊る神楽舞を虞という。虎のように踊るのでおそれる意となり、また、おもんばかる意となる。
意味 (1)おそれ(虞)。おそれる。うれえる。「憂虞ユウグ」(うれえおそれる)(2)おもんばかる(虞る)。前もって考える。「不虞フグ」(①思いがけない出来事。②先のことを前もって考えない)「虞を以て不虞フグを待つ者は勝つ<孫子>」(注意深く準備した上で、準備の足りない敵を待ち受ける者は勝つ)(3)中国古代の王朝名。舜が帝位にあった期間。「虞舜グシュン」(舜が帝王であった王朝の名)(4)人名。「虞美人グビジン」(秦末の武将・項羽の愛人=虞姫グキ)「虞美人草グビジンソウ」(ひなげしの別名)
 ゴ  虫部 wú
解字 「虫(むし)+吳(ゴ)」の形声。ゴという名の虫。「蜈蚣ゴコウ」に用いられる。ムカデ科の節足動物をいう。
意味 「蜈蚣ゴコウ・むかで」に用いられる字。蜈蚣とは、ムカデ科の節足動物の総称。多数の足があり身をくねらせて進む。蚣コウもむかでの意。百足とも書く。
 ゴ  艸部 wú
解字 「艸(くさ)+吳(ゴ)」の形声。ゴという名の艸(草)。「茣蓙ゴザ」に用いる。
意味 「茣蓙ゴザ」とは、藺草で編んだ縁つきの筵むしろ
 ゴ・おじか  鹿部 yǔ
解字 「鹿(しか)+吳(ゴ)」の形声。牡(おす)の鹿をという。
意味 (1)おじか(麌)。(2)「麌麌ゴゴ」とは、群がり集まるさま。
<紫色は常用漢字>

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音符「粦リン」<おに火> と「隣リン」「燐リン」「鱗リン」「麟リン」「憐レン」

2024年11月12日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 リン  米部 lín

解字 金文は「大(ひと)+小点四つ+両足を外にむけた形」の会意。大は手をひろげた人の正面形で人を表し、続く両足が外に向かって開いた形。小点四つは不明だが、字義からみると鬼火と思われる。金文の意味は「穆ボク公(春秋時代の秦の君主)の聖なる粦(=霊)」とあり霊レイ(=霊魂)の意味で用いられている。篆文は「火+火+舛(両足)」に変化した。[説文解字]は「兵の死(しかばね)及び牛馬の血、粦リンと為る」とし、戦場で死んだ兵士や牛馬の血が鬼火になると考えた。粦は後の燐となる字であり燐の成分から考えると、鬼火は血よりも骨の成分が分解して生ずる化合物であると思われる。楷書は篆文の炎 ⇒ 米に変化した粦になった。
 鬼火は湿地に小雨の降る闇夜などに燃えでて空中に浮遊する青火をいう。腐敗した生物から生じた黄燐(または白燐)などが空気中で酸化する際の光とされるが、その原理は完全には解明されていない。一般に鬼火(おにび)とは、伝承上では人間や動物の死体から生じた霊、もしくは人間の怨念が火となって現れた姿と言われている。
意味 おにび。ゆうれいび。きつね火。火の玉。燐の原字。

イメージ 
 「鬼火」
(燐・憐) 
 「形声字」(隣・鱗・麟・驎)
音の変化  リン:燐・隣・鱗・麟・驎  レン:憐

鬼火
[磷] リン  火部 lín
解字 「火(ひ)+粦(おにび)」の会意形声。粦は鬼火の意であるが、それに火をつけて意味を明確にした。しかし、現在は非金属元素の一つである燐の意味で用いられ、鬼火と直接の関係はない。石偏の磷リンは非金属元素の燐を表す異体字。
意味 (1)おにび(鬼火)。きつねび。ひとだま。「燐火リンカ」(墓地・沼沢などで自然に発光する青白い火光)(2)りん(燐)。非金属元素の一つ。元素記号P。燐酸カルシュウムとなって鉱物界に存在する。「黄燐オウリン」(淡黄色状の燐の同素体の一つ。空気中で自然発火する)「燐寸マッチ」(点火用具。木製の軸の頭薬にかつて黄燐が使われていたことから)「燐酸リンサン」(燐の化合物と水が結合してできる酸の総称)
 レン・あわれむ  忄部 lián
解字 「忄(心)+粦(おにび)」 の会意形声。鬼火のあがる屍(しかばね)を見て、あわれに思うこと。
意味 (1)あわれむ(憐れむ)。あわれみ。「憐憫レンビン」(あわれむこと)「憐察レンサツ」(あわれみ思いやる)(2)いとしくおもう。「可憐カレン」(かわいらしいこと。いじらしいこと)

形声字
[鄰] リン・となり・となる  阝部 lín
解字 本字は鄰リンで「粦(リン)+邑(むら)」の形声。となり合う邑を鄰リンといった。[説文解字]は「五家が鄰と爲す。邑に従い粦リンの聲(声)」とし、五家が隣り合っている様(さま)とする。これは周代の社会組織で五戸を鄰リンといったことに由来する。鄰の字は、現在は「阝(おおざと=邑)が左に移動した隣となった。となり合う国・土地・家・部屋などをいう。
意味 (1)となり(隣り)。となる(隣る)。となりあう。「隣人リンジン」「隣家リンカ」「隣室リンシツ」「隣国リンコク」(2)ちかい。「近隣キンリン」(3)したしい。「隣交リンコウ」(近所づきあい)「隣睦リンボク」(近づきしたしむ)
 リン・うろこ  魚部 lín
解字 「魚(さかな)+粦(リン)」 の形声。魚のうろこを鱗リンという。[説文解字]は「魚の甲(外皮)也(なり)。魚に従い粦リンの聲(声)」とする。

コイ科の魚の鱗(「ウィキペディア・鱗」より)
意味 (1)うろこ(鱗)。魚類や爬虫類の体表をおおう薄片。「金鱗キンリン」(金色のうろこ。転じて美しい魚)「逆鱗ゲキリン」(竜のあごの下の逆さうろこ。そこに触れると怒って触れた人を殺すという)(2)うろこ状のもの。「鱗茎リンケイ」(うろこ状になった地下茎)「鱗粉リンプン」(チョウやガの羽についている微細な粉状のうろこ)「鱗雲うろこぐも
 リン  鹿部 lín
解字 「鹿(しか)+粦リン(=鱗、うろこがある)」 の形声。うろこ状のものがある鹿。麒麟キリンに用いられる。[説文解字]は「大牝めす鹿也(なり)。鹿に従い粦リンの聲(声)」とする。

麒麟(「百度百科・麒麟伝説」より)
意味 麒麟キリンに使われる字。麒麟(雄を「麒」、雌を「麟リン」という)とは、①中国で、聖人の出る前に現れるとされる想像状の獣。形は鹿に似て大きく顔は龍に似て牛の尾と馬の蹄をもち、背毛は五色に彩られ、毛は黄色く、身体には鱗がある。古くは一角獣。②傑出した人物のたとえ。「麒麟児キリンジ」(才能がすぐれ将来が期待される少年) ③ウシ目キリン科の哺乳動物。「キリン」と書くことが多い。
 リン  馬部 lín
解字 「馬(うま)+粦(リン=鱗)」の形声。リンという名のうろこ状のものがある馬。
意味 (1)鱗のような斑紋がある馬。まだら馬。(2)良い馬の名。駿馬のこと。「麒驎キリン」(①一日に千里も走るという駿馬。②麒麟に同じ)
<紫色は常用漢字>

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音符 「列レツ」<つらなる> と 「烈レツ」「裂レツ」「冽レツ」「洌レツ」「例レイ」

2024年11月10日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 レツ・つらねる・つらなる 刂部 liè

解字 篆文は「刂(刀)+毛髪のある頭骨(発音はレツ)」の会意形声。刀で断首した毛髪のある頭骨を、墓に並べること。中国古代王朝の殷代の墓には断首した頭骨を並べて悪邪を祓(はら)う呪禁(まじない)があった。現代字は毛髪のある頭骨⇒歹に変化した「歹+刂」の列レツになった。ならべる意から、つらねる・つらなる意となる(白川静「常用字解」より)。また、頭骨を断首することから、首を「きる」意味があり、音符の「イメージ」に出てくる。
意味 (1)つらねる(列ねる)。つらなる(列なる)。れつ。「行列ギョウレツ」「列島レットウ」(列をなして連なった島)「列車レッシャ」(2)ならべる。ならんだ順序。「陳列チンレツ」「序列ジョレツ」(3)ならびに参加する。「列席レッセキ

イメージ  
 「つらなる」(列・例・烈・冽・洌)
 刀で「きる」(裂)
音の変化  レツ:列・烈・冽・洌・裂  レイ:例

つらなる
 レイ・たとえる  イ部 lì
解字 「イ(人)+列(つらなる)」の会意形声。同じ列につらなることができる人を例レイといい、似たもの・仲間・類(たぐい)の意となる。また、たとえる・ならわしの意となる。
意味 (1)似たものの仲間。たぐい。「類例ルイレイ」「例外レイガイ」(2)たとえる(例える)。例をあげる。「例文レイブン」「事例ジレイ」(3)いつも。ならわし。しきたり。「例会レイカイ」「例祭レイサイ」「慣例カンレイ」(4)きまり。さだめ。「条例ジョウレイ
 レツ・はげしい  灬部 liè
解字 「灬(火)+列(つらなる)」の会意形声。火がつらなり激しく燃えること。転じて、はげしい・きびしい意となる。
意味 (1)はげしい(烈しい)。きびしい。あらい。「烈火レッカ」(激しく燃える火)「烈風レップウ」「熱烈ネツレツ」「猛烈モウレツ」(2)気性が強く正しい。「烈士レッシ」(気性が強く節義を守る男子)「烈女レツジョ」(気性が強く節操を守る女性)  
 レツ  冫部 liè
解字 「冫(こおり)+列(つらなる)」の会意形声。氷がつらなる形で、さむい・つめたい意。
意味 さむい。つめたい。「冽冽レツレツ」(寒さ・冷たさのはげしいさま)「秋風シュウフウ冽冽」(秋風が寒々と吹く)「凜冽リンレツ」(寒気のきびしいさま)「清冽セイレツ」(水が清く冷たいこと)※「清セイレツ」との違いに注意。
 レツ・きよい  氵部 liè
解字 「氵(水)+列(つらなる)」の会意形声。きれいな水がつらなること。きよらかな意となる。また、酒が澄んでいること。
意味 きよい(洌い)。「清洌セイレツ」(水が清らかなこと)※「清セイレツ」と違いに注意。「芳洌ホウレツ」(香りがよく澄んでいる酒)

きる
 レツ・さく・さける  衣部 liè・liě
解字 「衣(ころも)+列(きる)」の会意形声。衣の布地を切ること。裁ち切る意。転じて、ひきさく意となる。
意味 (1)さく(裂く)。ひきさく。さける(裂ける)。「決裂ケツレツ」(①切れ裂けること。②会談・交渉などが物別れになること)「亀裂キレツ」(亀の甲羅のような形にひびが入る)「裂傷レッショウ」(皮膚などの表面が裂けた傷)(2)ばらばらに分かれる。「分裂ブンレツ」「破裂ハレツ」「炸裂サクレツ」(爆弾などが破裂すること)(3)裁ち切る。「裂地きれじ」(裁断した織物。表装等に用いる貴重な織物)「名物裂めいぶつぎれ」(中国渡来の織物の中で特に珍重された裂地。茶器の仕覆シフク(包み袋)や軸装・袱紗フクサなどに用いられる)

名物裂(「名物裂文様」(家庭画報.comより)」
<紫色は常用漢字>

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音符「咢ガク」と「愕ガク」「諤ガク」「顎ガク」「鍔ガク」「鰐ガク」「萼ガク」「鄂ガク」「鶚ガク」

2024年11月08日 | 漢字の音符
咢[噩] ガク  口部 è
  
解字 金文第一字(上)は、「口4つが四方に配置され、中央の人に横線が入った形」。第二字は人の首の付近に曲がった横線が入った形」。成り立ちの意味は不明だが、金文で国名と人名に用いられている。楚帛ソハク(春秋戦国)は、口四つに十字が配置された形だが、篆文[説文解字]は「口口+屰ギャク」になり、現代字は咢ガクに変化した。一方、楚帛の「口四つに十字形」は、楷書で噩ガクに変化している。両字は異体字で同字とされている。
 字の初形の意味は不明だが、地名・人名以外に、愕ガクの原字である「おどろく」。そのほか「わるい」「やかましい・さわがしい」意がある。また、音符字を見ると「口を大きくあける」イメージで説明できる字が多い。これは「口口+屰(逆向き)」で、口を広げる意味に解したものと思われる。
意味 (1)おどろく。おそろしい。「咢然ガクゼン」(=愕然)(2)わるい。不吉だ。「噩音ガクオン」(訃報)「噩報ガクホウ」(凶報)(3)直言する。「咢咢ガクガク」(直言するさま)

イメージ 
 「おどろく」
(咢・愕) 
 意味(3)の「直言する」(諤)
 「口を大きくあける」(顎・鰐・萼・鍔)
 「形声字」(鄂・鶚)
音の変化  ガク:咢・愕・諤・顎・鰐・萼・鍔・鄂・鶚

おどろく
 ガク・おどろく  忄部 è
解字 「忄(心)+咢(おどろく)」の会意形声。咢には、もともとおどろく意があり、忄(心)をつけておどろく意を明確にした。
意味 おどろく(愕く)。あわてる。「驚愕キョウガク」(非常に驚くこと)「愕然ガクゼン」(ひどくおどろくさま)

直言する
 ガク 言部 è
解字 「言(はなす)+咢(直言する)」の会意形声。おそれず直言する。
意味 おそれず直言する。遠慮なく言う。「諤々ガクガク」(直言する)「侃々諤々カンカンガクガク」(遠慮することなく議論する)

口を大きくあける
 ガク・わに  魚部 è
解字 「魚(さかな)+咢(口を大きくあける)」の会意形声。口を大きくあけて獲物におそいかかる魚(水にすむ動物)のワニ。

ワニ広島市安佐山動物園のブログより)
意味 わに(鰐)。ワニ科の爬虫類。熱帯の川や湖にすむ鋭い歯をもつ肉食性の動物。「鰐口わにぐち」(口の形が横にひろいもの。がまぐち。また、社殿や仏堂につるす扁円の音響具)
 ガク・うてな  艸部 è
解字 「艸(くさ)+咢(口を大きくあける)」の会意形声。口を大きくあけて花を包むように外側にある花のガク。

オカメザクラの萼筒と萼片(「趣味の園芸・オカメザクラ」より)
意味 うてな(萼)。花のがく。花の外側にあって花を保護し支えているもの。花びら(花弁)を下方で包んで支える器官。「花萼カガク」「萼片ガクヘン」「萼筒ガクつつ
 ガク・あご  頁部 è
解字 「頁(かお)+咢(口を大きくあける)」の会意形声。顔の中の口を大きくあける部分である「あご」。
意味 (1)ほお骨の張った顔。(2)[国]あご(顎)。「上顎うわあご」「下顎カガク」(したあご)
 ガク・つば  金部 è
解字 「金(金属)+咢(口をあける)」の会意形声。口があいていて刀身を通す金属製のつば。刀の柄(つか)と刀身の間にはめる金具で、柄を持つ手を保護する。

鍔(つば)(「名古屋刀剣博物館・刀剣ブログ」より)
意味  (1)[国]つば(鍔)。刀のつば。「鍔迫り合い」(相手の刀を鍔で受けて押しあうこと)「金鍔キンツバ」(金で装飾した鍔。また、鍔の形をした菓子)(2)中国では、刀の刃や、刀のみね、の意味で使われる。
形声字
 ガク  阝こざと è
解字 「阝(=邑。くに・むら)+咢(ガク)」の形声。ガクという名の邑(くに・むら)をいう。
意味 (1)殷代の国名。今の河南省沁陽市北西にあった。(2)地名。春秋時代の楚の地名。「鄂州ガクシュウ」(今の湖北省鄂州市)「鄂省ガクショウ」(湖北省の別称)(3)直言する。「鄂鄂ガクガク」(①意見をのべて議論する。=諤諤、②さわがしいさま)
 ガク・みさご  鳥部 è
解字 「鳥(とり)+咢(ガク)」の形声。ガクという名の鳥で鶚(みさご)をいう。
ミサゴ(鶚)(「ウィキペディア・鶚」より)
意味 (1)みさご(鶚)。タカ科の大形の鳥。水辺にすみ、急降下して魚を捕らえる。うおたか(魚鷹)。「鶚視ガクシ」(鋭くみつめる)「鷙鳥シチョウ(猛禽の鳥)は百を累(かさ)ぬるも、一鶚ガクに如かず(後漢書・禰衡デイコウ伝)」(猛禽の鷙鳥を百羽集めても一羽の鶚にかなわない)(2)推薦する。「鶚書ガクショ」(人を推薦する文書。鷙鳥よりも、はるかにすぐれた鶚のような人を推薦する意)「鶚薦ガクセン」(推薦文)「鶚表ガクヒョウ」(推薦する上書)
<紫色は常用漢字>

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音符「象ショウ・ゾウ」<ぞう>「像ゾウ」「橡ゾウ」と「為イ」<象にさせる>「偽ギ」「譌カ」

2024年11月06日 | 漢字の音符
 改訂しました。
 ショウ・ゾウ・かたち・かたどる  豕部 xiàng  

解字 長い鼻をもつゾウの姿を描いた象形。甲骨文字と金文は、象の長い鼻を描いている。篆文は鼻が人の前屈かがみ姿に似た形になり、現代字はその部分がクに変化した象になった。後漢の[説文解字]は「南越(中国南部)の大獣なり。長鼻、牙あり」と説明している。また、本来の意味と関係なく発音だけを借りる借音シャクオンの用法で、象ショウの発音が「かたち」や「かたどる」意味で用いられる。
意味 (1)ぞう(象)。ゾウ科の哺乳動物。「象牙ゾウゲ」「象箸ゾウチョ」(象牙の箸はし)(2)かたち(象)。かたどる(象る)。すがた。ようす。なぞらえる。「象形文字ショウケイモジ」(物の形から生まれた文字)「現象ゲンショウ」(現れるすがた)「対象タイショウ」(①人の意識が向けられるもの。②目標となるもの)「象徴ショウチョウ」(シンボル)

イメージ  
 「ぞう」
(象・橡)
  意味②の「すがた・かたち」(像)
音の変化  ショウ・ゾウ:象・像・橡

ぞう
 ショウ・ゾウ・くぬぎ・とち  木部 xiàng
解字 「木(き)+象(ぞう)」の会意形声。樹皮が象の皮のような木。クヌギやトチの木をいう。

クヌギの樹皮(「庭園図鑑」より) 

トチの樹皮(「庭園図鑑」より)
意味 (1)くぬぎ(橡)。写真上はその樹皮。櫟レキとも書く。(2)つるばみ(橡)。くぬぎ(橡)の実(どんぐり)を原料とする植物染料の一種。黒染め色。(3)[国]とち(橡)の木。写真下はその樹皮。栃(とち)は国字。

すがた・かたち
 ゾウ・かたち・かたどる  イ部 xiàng
解字 「イ(人)+象(すがた・かたち)」の会意形声。人や物のすがた・かたち。また転じて、かたどる・似る意味になる。
意味 (1)人や物のすがた・かたち(像)。「映像エイゾウ」(映した人や物の像)「想像ゾウゾウ」(思い浮かべた人や物の像)「肖像ショウゾウ」(人物の絵・写真・彫刻など)(2)本物の人物や事物になぞらえて作ったもの。かたどる(像る)。「銅像ドウゾウ」「石像セキゾウ」「仏像ブツゾウ」「偶像グウゾウ」(神仏の像。崇拝の対象物)(3)にる。形が似ている。「像似ゾウジ」(似る)



     イ <象にさせる>
[爲] イ・なす・する・ため・なる  灬部れっか wéi・wèi

解字 甲骨文から旧字体まで、「手のかたち+象(ぞう)」の会意。甲骨文は手が左につき、金文は向きが変わった手がつき篆文以降は上につく。象の鼻先に人の手をくわえ象を使役する形で、土木工事などの工作をすることをいう。旧字で爲、新字体で為に変化した。
意味 (1)なす(為す)。する。行なう。「行為コウイ」「人為ジンイ」「無為ムイ」(自然のままで作為がないこと)「有為ウイ」([仏]因縁によって生じたこの世の一切の現象)「為替かわせ」(ひきかえ。交換)(2)ため(為)。ために。(3)なる(為る)。~となる。

イメージ  
 「象にさせる」
(為・偽・譌)
音の変化  イ:為  カ:譌  ギ:偽

象にさせる
 ギ・いつわる・にせ  イ部 wěi
解字 旧字は僞で「イ(人)+爲(象にさせる)」の会意形声。象にさせたことを人がしたようにいつわること。新字体は偽に変化。後漢の[説文解字]は「詐(いつわ)る也(なり)。人に従い爲の聲(声)」とする。発音はイ⇒ギに変化した。
意味 (1)いつわる(偽る)。だます。「偽造ギゾウ」「偽名ギメイ」「偽証ギショウ」「虚偽キョギ」 (2)にせ(偽)。にせもの。「偽書ギショ」「真偽シンギ
譌[訛] カ・いつわる・なまる  言部 é
解字 「言(ことば)+爲(=偽(僞)の略体。いつわる)」の会意形声。いつわる言葉。訛(あやまる。いつわる。なまる)の異体字。従って発音はカ。
意味 (1)いつわる(譌る)。いつわり。うそをつく。「譌言カゲン」(いつわりごと)(2)あやまる。まちがえる。「譌字カジ」(誤った字)「譌雑カザツ」(あやまりみだれる)(3)なまる(譌る)。なまり。(=訛)「譌音カオン」(方言)
<紫色は常用漢字>

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音符「旁ボウ」<かたわら・ひろがる>と「傍ボウ」「榜ボウ」「謗ボウ」「牓ボウ」「膀ボウ」「蒡ボウ」「磅ボウ」「滂ボウ」

2024年11月04日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
 ボウ・ホウ・かたわら・つくり  方部 páng・bàng

解字 甲骨文と金文は「凡ボン・ハン+方(方向)」の会意形声。凡は舟などの形であるが、ここでの意味は不明。方は方角・方向の意で発音も兼ねる。旁はこの他にも多様な字体があるが、甲骨文字の意味は、①地名またはその長。殷に敵対した「旁方」と呼ばれる地名、②祭祀名、となっている[甲骨文字辞典]。金文は[簡明金文詞典]が、①方向、方位、②人名、とする。篆文は方以外の部分が大きく変化した。[説文解字]は「溥(あまねし・ひろい・おおきい)也(なり)。方の聲(声)」とし、意味が変化した。その後の隷書(漢代)以降では、隋の訓詁書の[博雅]は「旁、大也。廣(ひろい)也」とし説文解字と同じ意味だが、543年の[玉篇]は「猶(なお)側ソク(そば・かたわら)也(なり)。一方に非(あら)ず也(なり)」とし、「かたわら」の意味があるとする。しかし、その字体から意味の変化を知るのはむずかしい。
 現代字は旁となったが、意味は篆文以降の、あまねく・ひろい意、および、かたわらの意味があるが、「かたわら・そば」の意は、日本では人をつけた傍ボウが受け持っており、現在、旁の字は、漢字の「つくり(旁)」の意がポピュラーである。
 なお、旁の音符字を点検してみると、「かたわら」の意味で解字できるものと、それ以外のものがある。そこで、イメージは「かたわら」とし、それ以外の字は「形声字」として解字した。
意味 (1)あまねく。ひろい。「旁引ボウイン」(広く調べ出す。広く考証する。博引)「博引旁証ハクインボウショウ」(広く引用し広く証拠を示して説明する)(2)かたわら(旁ら)。(=傍ら)(3)つくり(旁)。漢字の右辺の部分。
覚え方 傍の字を参照。傍を、ごろ合わせで覚えておくと、旁も書けて便利。

イメージ 
 「かたわら」
(旁・傍・榜・牓・膀)
 「形声字」(謗・蒡・滂・磅)
音の変化  
  ボウ:旁・傍・榜・牓・膀・謗・蒡・磅  ボウ・ホウ:滂

かたわら
 ボウ・かたわら・はた  イ部 bàng
解字 「イ(人)+旁(かたわら)」の会意形声。かたわらにいる人。転じて「かたわら」の意となる。旁が、あまねく・かたわら両方の意があるので、人をつけて、かたわらの意を明確にした字。
意味 (1)かたわら(傍ら)。はた(傍)。そば(傍)。わき(傍)。「傍線ボウセン」(文字や文章のわきに引く線)「路傍ロボウ」(みちばた)「傍観ボウカン」(かたわらで見る)「傍若無人ボウジャクブジン」(傍らに人無きが若(ごと)し)(2)分かれた。派生した。「傍系ボウケイ」「傍流ボウリュウ」「傍証ボウショウ」(証拠となる傍系の資料。間接の証拠)(3)つくり(傍=旁)  
覚え方 ひと()たつわ(立ワ=冖)ほう()ぼうに観者 (※立の下とワの上は重なる)
 ボウ  木部 bǎng・bàng
解字 「木(いた)+旁(かたわら)」の会意形声。道や建物のかたわらに立てた木製の掲示板。
意味 (1)たてふだ。掲示板。「榜札ボウサツ」(たてふだ)。(2)官吏登用試験の合格者を発表する掲示板。「金榜キンボウ」(金色の紙に書いた合格者の掲示板。金牓とも)「榜元ボウゲン」(官吏登用試験の首席合格者)(2)かかげしめす。「標榜ヒョウボウ」(かかげあらわす)

金榜キンボウ。金色の紙に書いた官吏登用試験合格者の掲示板(「北京孔子廟・国子監博物館の展示」)
 ボウ  片部 bǎng
解字 「片(木の板)+旁(かたわら)」の会意形声。土地の境界(かたわら)に立てた目印の木札。
 牓示石
意味 (1)たてふだ。「牓札ボウサツ」(たてふだ=榜札)(2)境界の表示札。「牓示ボウジ」(木の杙くいや石などで領地の境界を標示したもの)「牓示杙ボウジぐい」(荘園などのさかいぐい)「牓示石ボウジいし」(荘園などの境界石)
 ボウ  月部にく bǎng・páng・pāng
解字 「月(からだ)+旁(かたわら)」の会意形声。月(からだ)の旁(かたわら)にある部分で、片腹、片腕、昆虫などの羽をいう。なお、膀胱ボウコウ(ゆばりぶくろ)には、かたわらの意味はなく形声字である。
意味 (1)わき。わきばら。(2)かたうで。「膀臂ボウヒ」(片腕。助っ人。臂は、うでの意)(3)かたわらに付く羽。「翅膀シボウ」(昆虫などの羽)(4)「膀胱ボウコウ」とは、尿を一時的に溜める袋状の器官(ゆばりぶくろ)に使われる字。下腹部中央に位置する。膀ボウも胱コウも形声字。

形声字
 ボウ・そしる  言部 bàng
解字 「言(いう)+旁(ボウ)」の形声。相手の欠点をあげつらって言うことを謗ボウという。後漢の[説文解字]は「毀(そしる)也(なり)。言に従い旁ボウの聲(声)」とする。
意味 そしる(謗る)。悪口をいう。「謗言ボウゲン」「誹謗ヒボウ」(誹も謗も、そしる意)「誹謗中傷ヒボウチュウショウ」(悪口を言いふらして他人を傷つける)「毀謗キボウ」(人を非難する。毀はこぼつ意)「ザンボウ」(あしざまに言ってそしる)「分謗ブンボウ」(同僚が謗りを受けるのを自分も分かち合う)
 ボウ  艸部 bàng

葉付きの牛蒡
解字 「艸(草)+旁(ボウ)」の形声。ボウという名の草。「牛蒡ゴボウ」に用いる字。
意味 「牛蒡ゴボウ」とは、キク科の二年草。古くは薬草として中国から伝来。日本では根菜として栽培される。牛は草木の大きいものに冠され、蒡ボウのなかでも大きいものを指して言った言葉。「牛蒡子ゴボウシ」(ゴボウの種子を乾燥したもの。民間薬として消炎、解毒、解熱効果がある)
 ボウ・ホウ  氵部 pāng
解字 「氵(みず)+旁(ボウ・ホウ)」の形声。水が盛んに流れたり、雨が盛んに降るさまを滂ボウ・ホウという。[説文解字]は「沛ハイ(雨や水の勢いがよいさま)也(なり)。水に従い旁の聲(声)」とする。
意味 (1)水が盛んに流れたり、雨が盛んに降るさま。「滂湃ホウハイ」(水勢の盛んなさま)「滂沛ホウハイ」(①水の豊かで広い。②雨が盛んに降る。③恩沢が豊か) (2)涙の盛んに流れるさま。「滂沱ボウダの涙」(涙が盛んに流れる)(3)豊かで広い。「滂洋ホウヨウ
 ホウ・ポンド  石部 bàng・páng
解字 「石(いし)+旁(ホウ)」の形声。石が落ちる音を磅ホウという。六朝時代の梁の[玉篇]は「石の聲(声)なり」とし石の崩落する音の形容。また、イギリスの重さの単位であるポンド(pound)をいう。
意味(1)石が落ちる音の形容。また落ちる音が広がる意。「磅磅ホウホウ」(石がぶつかって飛び散る音)「磅唐ホウトウ」(①ひろくはびこる。②音が四方に響きわたる)(2)ポンド(磅)。イギリスの重量の単位(pound)。1ポンドは、453.592グラム。また、貨幣の単位(pound)。
<紫色は常用漢字>

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