漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「京キョウ」<大きな高楼> と「鯨ゲイ」「涼リョウ」と「亮リョウ」

2021年05月14日 | 漢字の音符
 キョウ・ケイ・キン・みやこ  亠部

京と高は、どこが違うか
解字 京と高の甲骨文と金文はよく似ている。両字とも上部は屋根と二階部分を表し、ともに高楼の建物を表している。両字の違いは下部にある。一階の冂のなかに、京はタテ棒、高は口を描いている。京のタテ棒について[説文解字]は「高き形に象(かたど)る」として高い意を表すという。一方、[字統]は「アーチ状の門の形」としてタテ棒には触れていない。
 一方、高の冂のなかの口について、加藤常賢氏は[漢字の起原]で入口の形としている。[甲骨文字辞典]は「口サイは、おそらく建物に収めた物資(祭器とする説もある)を表している」とする。高は、どちらの説にしても、高い建物で「高い」意味となるのであまり気にする必要はない。
 問題は京の字のタテ棒である。私はこの棒は、二階部分を支えるつっぱり棒、すなわち柱であると思う。柱をわざわざ描いたということは、柱が何本もある高楼で巨大な建物を意味しているのではないか。
 甲骨文字の意味は、①施設名。高楼建築。②地名またはその長。③祭祀名という[甲骨文字辞典]。金文になると、地名・人名のほかに、①周王の宗廟名である「京宮」。②都城(みやこ)の意味である「鎬京コウケイ」としての用法がある[簡明金文詞典]。察するに、周王の宗廟の「京宮」は、柱が何本もある大きな高楼であろう。周王が居る高楼の「京」は、のちに建物の意味を超えて王の住む「みやこ」すなわち首都の意味になったと思われる。なお、京は大きな建物であることから「おおきい」イメージがある。
 発音のキョウは呉音、ケイは漢音、キンは唐音。いずれも最初の音がカ行の同行変化という特徴がある。
意味 (1)みやこ(京)。天子・天皇のいるみやこ。「京師ケイシ」(天子のすむみやこ)「上京ジョウキョウ」「帰京キキョウ」 (2)洛陽。北京。京都の略。「京洛キョウラク」(洛陽。日本では京都)「京劇キョウゲキ」(北京で発展した歌舞劇)「北京ペキン」(発音は唐音)(3)大きな数から。数の名。「京ケイ」(兆の一万倍)

イメージ 
 「みやこ」(京)
 大きな建物から「おおきい」(鯨)
 「形声文字」(掠・涼・椋・諒・黥・勍)
音の変化  キョウ:京  ケイ:勍  ゲイ:鯨・黥  リャク:掠  リョウ:涼・椋・諒

おおきい
 ゲイ・くじら  魚部
解字 「魚(さかな)+京(おおきい)」の会意形声。大きい魚であるくじら。
意味 くじら(鯨)。くじらのように。「鯨飲ゲイイン」(酒を一度にたくさん飲む)「鯨波ゲイハ」(大波。鬨ときの声)

形声文字
 リャク・リョウ・かすめる・かすれる  扌部
解字 「扌(手)+京(リャク)」の形声。[説文解字]は「奪い取る也。手に従い京の聲(声)。本(もと)の音は亮リョウ」とする。リャクは略リャク(うばいとる)に通じ、手でうばいとる取る意。
意味 (1)かすめる(掠める)。かすめとる。「掠奪リャクダツ」(=略奪) (2)[国]かすれる(掠れる)。かすかに触れる。文字がかすれる。声がかすれる。「掠れ字」「掠れ声」
 リョウ・すずしい・すずむ  氵部
解字 「氵(水)+京(リョウ)」の形声。この字の成り立ちははっきりしないが、地名の涼州リョウシュウから成り立ちを探ってみたい。涼州は前漢にかつて存在した州。現在の甘粛省・寧夏回族自治区一帯に設置された。推測であるが、涼州の涼は州内に涼(リョウ)という名の川があったのではないか。この川のあった涼州は古来、天山山脈を越えてヨーロッパへ通ずる東西路の交通の要所(河西回廊)であり、雨量が少なく乾燥した厳しい自然環境で、夜と昼の温度差は大きい。涼しい意は夜の涼州を表し、荒涼たる風景は涼州の自然環境を表していると思う。京の発音の、キョウ⇒リョウへの変化は、五十音のキ(カ行い段)からリ(ラ行い段)への同段変化。
意味 (1)すずしい(涼しい)。すずしさ。「涼風リョウフウ」「納涼ノウリョウ」(暑さを避けて涼しさを味わう) (2)ものさびしい。「荒涼コウリョウ
 リョウ・むく  木部
解字 「木(き)+京(リョウ)」の形声。[説文解字]に「即來ソクライ(むく)也。木に从(したが)い京の聲(声)。呂張切(リョウ)」とあり、ムクの木をいう。リョウは粱リョウ(おおあわ)に通じ、おおあわと似た実をつけるムクの木。
意味 むく(椋)。ニレ科の落葉高木。春に淡緑色の花をつけ、球形の実は秋に熟して紫黒色となり、食用となる。「椋鳥むくどり」(椋の木の実を好んで食べる鳥)
 リョウ・まこと  言部
解字 「言(ことば)+京(リョウ)」の形声。[説文解字]に「信(まこと)也。言に从(したが)い京の聲(声)。力讓切(リョウ)」とする。[同注]に「方言。周南、召南、衞之語也」とあり、具体的な地域は不明であるが南方の方言であったようである。リョウは亮リョウ(はっきりとした)に通じ、はっきりとした言葉。まこと・いつわりがない意となる。
意味 (1)まこと(諒)。いつわりがない。「諒暗リョウアン」(まことに暗しの意で、天子が父母の喪に服する期間) (2)おもいやる。明らかにする。さとる。「諒察リョウサツ」(相手の立場を思いやる)「諒解リョウカイ」(理解する)「諒恕リョウジョ」(思いやってゆるす)
 ゲイ・ケイ・いれずみ  黒部
解字 「黒の旧字(くろ)+京(ケイ)」の形声。[説文解字]は「墨刑ボクケイの面に在也。黑に从(したが)い京の聲(声)」とする。ケイは刑ケイ(刑罰)に通じ、顔に黒い入れ墨をする刑罰をいう。多くは目の周辺、鼻の上、額(ひたい)・頬(ほお)などに施したという。ゲイの発音はケイが変化した慣用音。
意味 いれずみ(黥)。罪人の顔に墨をいれる刑罰。「黥首ゲイシュ」(刑罰で顔に入れ墨をすること)「黥面ゲイメン」(入れ墨をした顔)「黥徒ゲイト」(入れ墨の刑罰を受けた罪人)
 ケイ  力部
解字 「力(ちから)+京(ケイ)」の形声。ケイは巠ケイ(タテ糸を張った形)に通じ、力を入れてタテ糸をつよく張ること。つよい意となる。勁ケイ(つよい)と同じ。
意味 (1)つよい(勍い)。「勍勍ケイケイ」(つよいさま)「勍敵ケイテキ」(つよい敵。=勁敵)「勍寇ケイコウ」(強敵。寇は外敵の意)

   <リョウ・あきらか>
 リョウ・あきらか・すけ  亠部
解字 「儿(ひと)+京の略体(リョウ)」の形声。諒リョウと同音であり、諒の意味のあかるい・あきらかの意味を受け持つ。亮の字の上部は一見したところ高の略体に見えるが、実は京の略体である。高と京は篆文までで殆ど同じ形をしており、下部が口かタテ棒の違いだけ。京の発音に涼リョウ・椋リョウ・諒リョウがあり、高の音符字にリョウがないことから、亮リョウの字が京の略体であることは明らかである。
意味 (1)あきらか(亮か)。あかるい。はっきりしている。「明亮メイリョウ」(あかるい)「亮然リョウゼン」(あきらかなさま) (2)[国]すけ(亮)。長官を補佐する官。
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする