漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「叔シュク」<小さいマメ>と「淑シュク」「寂ジャク」「戚セキ」「督トク」

2023年03月03日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 シュク  又部

 上は叔シュク、下は杙くい
解字 金文は、杙くい(下図の杙から木を除いた形)+小(ちいさい)+又(手)」の形。杙くいには古書で樹の意味があり、その果実である梨や堅い核実(木の実)の意味があった。ここでは樹から落ちた小さな実を手で拾う形であるが、金文の意味は人名になっている。また、優秀な質の銅である「淑金シュクキン」の意味がある。篆文は[説文解字]が「拾う也(なり)。汝南ジョナン(河南省の県)では芋を拾い収めるを叔という」とし、拾う意味がある。また草冠をつけた菽シュクは「まめ」の意味であることから、小さな豆や小さな木の実が原義とされる。そこから叔は、小さい末の兄弟の意に仮借カシャ(当て字)された。叔を音符に含む字は、「小さい」「ひかえ目な」イメージを持つ。
意味 (1)おさない。わかい。(2)おとうと。兄弟の序列で上から3番目をいう。上から、伯ハク・仲チュウ・叔シュク・季と数える。 (3)(父・母の弟と妹)おじ。おば。「叔父おじ」(父の弟)「叔母おば」(母の妹) (4)夫の弟。こじゅうと。 (5)ひろう(叔う)。「九月に苴ショ(麻の実)を叔(ひろ)う」(詩経・ヒン風)(6)よい。美しい。(=淑)「叔人シュクジン」「叔金シュクキン
覚え方  うえ()しょう()また()で、シュク(

イメージ 
 「兄弟の年少者(仮借)」
(叔)
  兄弟の年少者であることから「ひかえめな」(淑・寂)
  本来の意味の「まめ・ちいさい」(菽・椒・戚・督)
 「形声字」(蹙)
音の変化  シュク:叔・菽・淑・蹙  ジャク:寂  ショウ:椒  セキ:戚  トク:督

ひかえめ
 シュク・よい・しとやか  氵部  
解字 「氵(水=清らか)+叔(ひかえめ)」の会意形声。清らかで控えめなこと。
意味 (1)しとやか(淑やか)。きよらか。品のある。「貞淑テイシュク」「淑女シュクジョ」 (2)よい(淑い)。よいとして慕う。「私淑シシュク
 シュク・テキ イ部
解字 「イ(ひと)+叔(=淑。よい)」の会意形声。立派な人。
意味 (1)よい(俶い)。よくととのう。「俶装シュクソウ」(旅じたくを整える)
 ジャク・セキ・さびしい・さびれる・さび  宀部  
解字 「宀(いえ)+叔(ひかえめ)」の会意形声。家の中が静かなこと。
意味 (1)さびしい(寂しい)。しずか。「静寂セイジャク」「寂寥セキリョウ」(ものさびしくひっそりと) (2)死ぬこと「入寂ニュウジャク」 (3)[国]さび(寂)。古びて枯れた趣。さびれる(寂れる)。さびしくなる。「町が寂れる」 (4)人名。「寂聴ジャクチョウ」(小説家。瀬戸内寂聴。寂聴は得度したときの法名。旧名は瀬戸内晴美)

まめ・ちいさい
 シュク・まめ  艸部
解字 「艸(草)+叔(まめ)」の会意形声。叔は、まめの意だが、兄弟の年少者などの意に仮借カシャされたので、艸をつけて本来の意を表した。
意味 まめ(菽)。豆。まめ類の総称。「菽豆シュクトウ」(まめ)「菽粟シュクゾク」(まめとあわ。人の常食として欠かせないもの)「菽麦シュクバク」(まめとむぎ)「菽麦を弁ぜず」(まめとむぎを区別できない愚か者)
 ショウ・はじかみ  木部
 山椒の実
解字 「木(き)+叔(ちいさいまめ)」の会意形声。小さく丸い豆のような実をつけるサンショウの木。
意味 はじかみ(椒)。サンショウの古称。さんしょう(山椒)。とげのある落葉低木。実は小粒で丸く食用・香辛料とする。若葉は「木の芽」といい食用とする。「山椒魚サンショウウオ」(山間の渓流や湿地にすむ両生類。体に山椒に似た香りがある種がいる事によるという。古くは椒魚はじかみいおと呼ばれた)「胡椒コショウ」(インド原産の香辛料作物。また、その実を加工した香辛料)
 セキ  戈部  
解字 「戊(まさかり)+叔の略体(小さい)」の会意形声。小型の儀式用のマサカリ。儀式でつながる親戚をいう。また、同音の惜セキ(いたむ・かなしむ)に通じ、いたむ・うれえる意もある。
意味 (1)おの。まさかり。儀式用のおの型をした木製の武器。 (2)儀式でつながる親戚。みうち。特に女の縁でつながる親戚。「姻戚インセキ」(結婚してできた親類)「外戚ガイセキ」(母方の親類) (3)いたむ(戚む)。うれえる(戚える)。「戚然セキゼン」(つらくかなしいさま)「哀戚アイセキ」(=哀惜)
 トク・ひきいる  目部
解字 「目(目で視る)+叔(小さい⇒こまかい)」の会意形声。[説文解字注]は「察視(よくみる)也」とあり、よく見て相手のこまかい状況を察すること。その結果をふまえ指導すること。転じて、かしら・おさ、の意味になる。発音は、シュク⇒トクへ変化した。
意味 (1)見張る。ひきいる(督いる)。「監督カントク」 (2)うながす(督す)。せきたてる。「督促トクソク」 (3)かしら。おさ。「総督ソウトク」「提督テイトク」 (4)家をつぐ者。長男。「家督カトク
覚え方  うえ()しょう()また()め()でトク

形声字
 シュク・せまる  足部
解字 「足(あし)+戚(シュク)」の形声。シュクは蹜シュク(こきざみに歩く・ちぢむ)に通じ、足で歩幅をせばめて歩き、相手との距離を縮めて、せまる意。また、歩幅を縮めて小股にあるく意となる。転じて、顔の皮を縮めてシワをよせる意でも使う。
意味 (1)せまる(蹙る)。近づく。「蹙迫シュクハク」(蹙も迫も、せまる意) (2)ちぢむ。ちぢめる。「蹙蹐シュクセキ」(足を縮めて小股にあるく。ぬきあしさしあし。用心して歩く) (3)しわをよせる。しかめる。「顰蹙ヒンシュク」(顔をしかめる。顰も蹙も、しかめる意)「蹙眉シュクビ」(まゆをひそめる)
<紫色は常用漢字>

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音符「皆カイ」<そろう> と「楷カイ」「階カイ」「諧カイ」

2023年03月01日 | 漢字の音符
  皆の解字を改めました。
 カイ・みな  白部 

解字 金文は「口の中に一の形」+左向きの二人」、篆文は「口の変形字の中に一の形+右向きの二人」、現代字は「白(いう=建白)+比(二人の変形)」であり、いずれの時代の字も二人のひとが言う形で、「みな」の意となる。現代字は建白ケンパク(意見を申し立てる)で、言う意味となる。ならんだ人がそろって物を言う形で「みんな」の意味になる。皆を音符に含む字は、「そろう」「ならびそろう」イメージがある。
意味 (1)みな(皆)。みんな(皆)。だれもかれも。「衆人皆みな酔う」「皆様みなさま」 (2)ことごとく。「皆勤カイキン」(すべて出勤する)「皆兵カイヘイ」「悉皆シッカイ」(ことごとく。悉も皆も、すべての意)「皆既カイキ」(皆みな既(すで)に。日食・月食ですべてが隠れること)「皆既カイキ日食」(太陽がすべて隠れる日食) (3)ともに。「この二人は皆(とも)に聖人なり」

イメージ 
 「そろう」
(皆・諧・偕)
 「ならびそろう」(階)
 「形声字」(楷)
音の変化  カイ:皆・諧・偕・階・楷

そろう 
 カイ  言部
解字 「言(いう)+皆(そろって)」の会意形声。皆がそろって言い合うこと。言葉を交わすことによって、その場が和らぎ、まとまりができる。
意味 (1)やわらぐ(諧らぐ)。やわらげる。「諧和カイワ」(なごやかに親しむ)(2)ととのえる(諧える)。調和させる。「諧調カイチョウ」(①調和のとれた調子。②良い調べ)「諧協カイキョウ」(よく調和する)(3)おどける。たわむれ(諧れ)。「諧謔カイギャク」(しゃれ)「俳諧ハイカイ」(たわむれ。俳諧歌の略)
 カイ・ともに  イ部
解字 「イ(ひと)+皆(そろって)」の会意形声。人がそろって一緒に、の意となる。
意味 ともに(偕に)。いっしょに。「偕老カイロウ」(ともに老いること)「偕老同穴カイロウドウケツ」(夫婦が睦まじく、ともに老いて死後は同じ墓穴に入る)「偕行カイコウ」(ともに行なう)「偕楽カイラク」(ともに楽しむ)

ならびそろう
 カイ・きざはし  阝部こざと 
解字 「阝(かいだん・はしご)+皆(ならびそろう)」の会意形声。阝こざとは、ここで「かいだん・はしご」の意。ならびそろった階段や梯子をいう。
意味 (1)きざはし(階)。かいだん。「階段カイダン」「階下カイカ」(2)はしご。「階梯カイテイ」(階も梯も、はしごの意)(3)重なっているものの一つ一つ。「音階オンカイ」「階級カイキュウ」「階層カイソウ

形声字
 カイ  木部
 
カイノキの葉 (岡山理科大学植物生態研究室)
解字 「木(き)+皆(カイ)」の形声。カイという名の木。ウルシ科カイノキ属の落葉高木。ウルシのように紅葉する。羽状の小さい葉がきちんと順序よくならぶ。孔子の弟子が墓に植えたと伝えられる儒教ゆかりの木。墓に植える木の種類は多いが、孔子の弟子が植えた木だとの言い伝えから、後世になりこの木が「基準として守るべきもの」の意味に転用された。さらに羽状の小さい葉がきちんと順序よくならぶことから漢字の書体である楷書(字画をくずさず一画一画をきちんと書く書体)の意味になった。和名トネリバハゼノキ。孔木。黄連木。
意味 (1)かいの木。ウルシ科の落葉高木。「楷樹カイジュ」(2)書体の一つ。くずさずにきちんと書く書法。「楷書カイショ」⇔ 草書  (3)のり(楷)。のっとる。手本。きちんと整った方法。「楷式カイシキ」(のりとなる方式)「楷則カイソク」(のりとなる規則)「楷模カイボ」(手本。模範)
<紫色は常用漢字>

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